何らかの事情で家族と長年連絡を取っておらず絶縁状態であったとしても、法律上の相続関係がなくなるわけではありません。絶縁した家族に相続させたくない場合は、その相手が法定相続人になるのか、遺留分があるのかを確認し、遺言書などの準備を進める必要があります。一方、縁を切った親の財産や借金を相続したくない場合は、期限内に家庭裁判所で相続放棄をしなければなりません。
本記事では、それぞれの立場で取るべき対応と注意点を弁護士が解説します。
第1章 絶縁しただけでは家族の相続権はなくならない
1-1 絶縁の宣言や長年の音信不通では、法律上の親族関係は変わらない
「親子の縁を切る」「今後は一切連絡を取らない」と伝えても、一般に使われる絶縁は法律上の手続ではありません。長年会っていないことや、住所・連絡先を知らせていないことだけで、親子や兄弟姉妹としての法律関係がなくなるわけではありません。
そのため、たとえ絶縁状態であっても、親が亡くなれば、子どもは原則として相続人になります。
離婚している場合も同様です。離婚した元配偶者は相続人にはなりませんが、離婚によって子どもとの親子関係が消滅するわけではないため、子どもには相続権があります。
1-2 まずは絶縁した相手が法律上の相続人になるかを確認する
民法では、配偶者は常に相続人になります。配偶者とともに相続人になる親族には、次のような順番があります。
第1順位は子どもです。子どもがいる場合は、配偶者と子どもが相続人になります。子どもが相続開始前に亡くなっている場合は、その子どもである孫などが代わりに相続人になります。
子どもや代わりに相続人となる孫などがいない場合は、第2順位である父母などの直系尊属が相続人になります。父母がすでに亡くなっている場合には、祖父母が相続人になることがあります。
子どもや孫なども、父母や祖父母もいない場合は、第3順位である兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が相続開始前に亡くなっている場合は、その子どもである甥や姪が代わりに相続人になります。
このように、絶縁した相手が法律上の相続人になるかどうかは、亡くなった人との続柄だけでなく、ほかにどのような家族がいるかによっても変わります。
相続させたくない家族がいる場合は、まず、その相手が法定相続人になるのかを確認する必要があります。
第2章 絶縁した家族に相続させたくない場合は、遺言書で財産の渡し先を決める
2-1 遺留分のない相手には、遺言書によって遺産を渡さないことができる
遺言書では、預貯金や不動産などについて、誰にどの財産を取得させるのかを定められます。財産を渡したい相手と、その相手に取得させる財産を具体的に記載することで、遺産を渡したくない相続人には財産を取得させない内容とすることができます。
ただし、遺言書によって遺産を渡さずに済むかどうかは、その相続人に遺留分(いりゅうぶん)があるかによって変わります。遺留分とは一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分です。
兄弟姉妹や、兄弟姉妹に代わって相続人となる兄弟姉妹の子どもには、この遺留分がありません。そのため、相続させたくない相手が兄弟姉妹やその子である場合は、ほかの相続人や第三者にすべての財産を取得させる内容の遺言書を作成すれば、原則として、兄弟姉妹や甥・姪に遺産を渡さずに済みます。
一方、配偶者や子どもなどには遺留分があります。
そのため、遺言書で取得させる財産をゼロにしても、相続開始後に遺留分に相当する金銭を請求される可能性があります。遺留分のある相手に相続させたくない場合の注意点は第3章で整理します。
2-2 公正証書遺言と遺言執行者の指定で、相続手続を進めやすくする
遺言の内容を円滑に実現するためには、公正証書遺言を作成し、遺言執行者を指定しておくことも検討されます。
公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクを抑えられます。また、相続開始後に家庭裁判所の検認を受ける必要がなく、速やかに相続手続へ進みやすい点もメリットです。
さらに、弁護士などを遺言執行者に指定しておけば、相続開始後の預貯金の解約や不動産の名義変更など、遺言内容を実現するための手続きを任せられます。
絶縁した相続人へ遺言内容などを通知する必要はありますが、遺言執行者を指定しておくことで、残された家族が絶縁した相手と直接連絡を取ったり、自分たちだけで手続を進めたりする負担を抑えられます。
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第3章 遺留分のある家族に相続させたくない場合の対策
3-1 遺留分のある相手に何も渡さない方法は、原則としてない
配偶者や子ども、一定の場合に相続人となる父母などには、最低限の取り分である遺留分が認められています。
そのため、絶縁した相続人の取得分をゼロとする遺言書を作成しても、その相手から遺留分侵害額請求を受けた場合、財産を取得した相続人や、遺言によって財産を受け取った人は、原則として一定の金銭を支払わなければなりません。
遺言書を作成すること自体はできますが、遺留分のある相手に何も渡さないことを、一方的かつ確実に実現する方法は原則としてない、というのが実情です。
3-2 遺留分を踏まえて取得分を抑え、残したい財産を守る
だからこそ、遺言書で頑なに「何も渡さない」とするよりも、絶縁した相続人に渡る財産を、想定される遺留分相当額に抑える方向で設計する方が現実的といえます。
たとえば、絶縁した相続人には遺留分に見合う預貯金などを取得させ、自宅や事業用不動産など、より大切な人に残したい資産をほかの相続人に取得させる方法が考えられます。
あらかじめ遺留分を試算し、誰にどの財産を残すのかを整理することで、相続後の争いを抑えながら、守りたい財産を希望する相手へ残しやすくなります。
過去の生前贈与を遺留分の計算に反映できる場合がある
あわせて確認しておきたいのが生前贈与です。
絶縁した相続人に対して、過去に金銭や不動産、株式などを渡していた場合、その贈与が「相続分の前渡し」にあたる特別受益と認められれば、その価額が遺留分侵害額から控除される可能性があります。
過去の贈与を証明するには、贈与契約書や贈与税申告書、預金の振込記録、不動産の登記事項証明書、当時のメールなど、渡した財産の内容・価額・目的が分かる資料を整理しておくことが重要です。
ただし、通常の生活費や一時的な援助まで当然に特別受益になるわけではありません。贈与の時期や目的などによっても判断が変わるため、具体的な内容を確認する必要があります。
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3-3 相続人の廃除は、単なる不仲や疎遠だけでは認められない
法律上、将来相続人になる予定の人のうち、遺留分を有する推定相続人について、その相続権を失わせる「相続人の廃除」という制度があります。ただし、廃除が認められるのは、亡くなった人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合です。単に仲が悪い、長年会っていないといった事情だけで、廃除が認められるとは限りません。
また、子どもが廃除された場合でも、その子どもに子どもがいれば、孫が代襲相続人となることがあります。そのため、廃除が認められたとしても、希望どおりに遺産を渡さずに済むとは限りません。
なお、生前に遺留分を放棄してもらう制度もありますが、相手本人による申立てと家庭裁判所の許可が必要であり、財産を残す側が一方的に遺留分を放棄させることはできません。
第4章 縁を切った親や家族の相続をしたくない場合に確認すべき注意点
ここまでは、絶縁した家族に財産を相続させたくない場合の対策を説明しました。一方で、縁を切った親や家族が亡くなり、その財産や借金を自分が相続したくないと考える方もいるでしょう。ここからは、そのような場合に相続放棄を検討する際の注意点を整理します。
4-1 親族に辞退を伝えるだけでは、法律上の相続放棄にはならない
縁を切った親が亡くなった場合でも、子どもは原則として相続人になります。親族に「財産はいらない」「相続には関わらない」と伝えただけでは、法律上の相続放棄にはなりません。
相続放棄をするには、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述し、受理される必要があります。相続放棄が有効に成立すると、その相続については初めから相続人ではなかったものとして扱われ、預貯金や不動産などの財産だけでなく、借金や未払金などの債務も原則として引き継ぎません。
気を付けたいのが、遺産分割協議で取得分をゼロにすることは、相続放棄とは違う点です。
たとえば、相続人同士で特定の相続人が借金を引き継ぐと合意しても、その合意を債権者へ当然に主張できるわけではありません。借金を含めて相続関係から離れたい場合は、家庭裁判所での相続放棄の手続を行うことが重要です。
4-2 相続放棄を判断する前に、相続財産を処分しない
相続人が相続財産の一部でも処分してしまうと、原則として、相続を単純承認したものとみなされます。単純承認とは、亡くなった人の財産と債務を全面的に引き継ぐことです。
たとえば、亡くなった親の預金を引き出して自分のために使う、不動産や自動車を売却する、高価な遺品を自分のものにするといった行為をすると、単純承認と判断され、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄が受理された後であっても、相続財産を自分のために消費した場合などには、単純承認と扱われることがあるため注意が必要です。
4-3 相続放棄は原則として3か月以内に申し立てる
相続放棄は、原則として、相続が始まったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間を熟慮期間といいます。
絶縁した親の場合、死亡からしばらく経った後に、親族や債権者からの連絡で初めて死亡を知ることがあります。熟慮期間は必ずしも死亡日から数えるわけではなく、亡くなったことと、自分が相続人になったことを知った時が起点になります。
縁を切った親だから自分には関係がないと放置せず、親族や債権者から連絡を受けた時点で、早めに対応を始めましょう。
第5章 絶縁した家族の相続は、生前の遺言と相続開始後の期限管理で対応する
絶縁した家族に相続させたくない場合でも、絶縁しているという事実だけで相続権をなくすことはできません。まずは相手が法定相続人になるかを確認し、遺言書によって財産の渡し先を明確にしましょう。相手に遺留分がなければ、原則として遺言書によって遺産を渡さないことができます。
一方、配偶者や子どもなど遺留分のある相手については、完全に取得を防ぐことが難しいため、遺留分を踏まえて取得分を抑え、守りたい財産に影響が及びにくい渡し方を検討することが重要です。
また、縁を切った親や家族の相続を望まない場合は、財産を処分する前に相続放棄を検討し、原則として3か月の期限内に家庭裁判所で手続を進める必要があります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士などの士業が連携し、遺言書の作成や遺留分を踏まえた財産設計、相続放棄などを一体的にサポートしています。絶縁した家族との相続に不安がある方は、問題が表面化する前に一度ご相談ください。
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