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遺留分を渡したくない場合にできる生前対策とは?なるべくあげたくない相続人がいる場合の注意点を弁護士が解説

2026.05.19

特定の相続人に対して、遺留分を渡したくない、なるべくあげたくないと考える場合でも、法律上の遺留分を完全に無視した対策は、後の紛争につながるおそれがあります。本記事では、財産を残す側の立場から、特定の相続人に遺留分をできるだけ渡さないために検討すべき対策と注意点を弁護士が解説します。

第1章 遺留分を渡したくない場合も、まず知っておくべき結論

1-1 遺留分を完全にゼロにすることは原則としてできない

法律上、一定の相続人には「遺留分」と言われる相続人に最低限保障される相続財産の取り分が認められています。
そのため、遺言書で「すべての財産を長男に相続させる」「次男には一切相続させない」と書いたとしても、それだけで全ての財産を一人の相続人に集中させたり、特定の相続人に財産を一切渡さなかったりすることは、原則できません。
そのため、「遺留分を完全にゼロにする」という発想で考えるよりも、遺留分を請求される可能性を下げる、請求された場合の金額を見通す、他の相続人と比較して受け取る財産が下がるようにする、といった対策を組み合わせることがポイントとなります。

1-2 遺留分侵害額請求をされた場合、他の相続人が困った状況になることがある

何の準備もしないまま極端に偏った遺言書を作成すると、相続財産をもらえなかった相続人から遺留分侵害額請求が起こる可能性があります。
現在の遺留分侵害額請求は、原則として、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める請求です。たとえば、相続財産が不動産中心だった場合も、不動産そのものではなく、その不動産の評価額のうち遺留分に相当する金銭が請求されます。
その結果、次のような問題が生じることがあります。

  • 遺言によって不動産を相続した相続人が不動産を売却して遺留分を支払う
  • 事業用不動産や自社株式を承継した後継者が、支払資金に困る
  • 遺留分請求への対応が長期化し、家族関係がさらに悪化する

特定の相続人に遺留分をなるべくあげたくないと考える場合、財産を受け取る相続人に対して、受け取れなかった相続人がどのような請求を起こす可能性があるかまで見越して検討する必要があります。

第2章 そもそも誰に遺留分があるのかを把握する

2-1 配偶者・子・直系尊属には遺留分が認められる

遺留分を渡したくない、なるべくあげたくないと考える場合、最初に確認すべきことは「その相手に本当に遺留分があるのか」です。
遺留分は、すべての相続人に認められるわけではありません。
民法上、遺留分が認められるのは、主に次のような人です。

  • 配偶者
  • 孫などの直系卑属
  • 父母、祖父母などの直系尊属

たとえば、相続人が配偶者と子である場合、配偶者にも子にも遺留分があります。子がすでに亡くなっていて孫が代襲相続人になる場合には、孫にも遺留分が認められることがあります。

2-2 兄弟姉妹が相続人になる場合、遺留分はない

被相続人に配偶者や子がおらず、また父母などもすでに死亡している場合、兄弟姉妹やその子が相続人になることがありますが、その場合、遺留分は認められません。
そのため、ご自身の兄弟姉妹やその子(甥・姪)が相続人に含まれている場合に、特定の相続人や法人だけに財産を残しても、遺留分侵害額請求を受けるリスクは基本的に生じません。
だからといって、何もしなくてよいわけではありません。遺言書がなければ、法律上の相続人である兄弟姉妹も財産を相続することになるため、もし相続させたくないような事情がある場合は有効な遺言書を作成して、誰に財産を承継させるかを法的に明確にする対策が中心になります。

2-3 前婚の子は相続人であり、遺留分も認められる

過去に結婚歴がある場合、元配偶者は相続人にならず、遺留分もありません。ただし、前婚の子は相続人になり、遺留分も原則として認められます。離婚後にどちらが親権者になったかは、子の相続権や遺留分の有無には影響しません。
一方、前婚相手の連れ子については、実子とは扱いが異なります。連れ子と養子縁組をしていない場合、その連れ子は相続人にならず、遺留分もありません。
これに対し、連れ子と養子縁組をしており、離婚時などに離縁していない場合には、養親子関係が残るため、相続人となり、遺留分も認められます。離婚時などに養子縁組を解消している場合には、原則として相続人にならず、遺留分もありません。

第3章 遺留分の請求額を下げるために検討できる生前対策

3-1 相続時に残る財産を整理し、遺留分算定の基礎財産を大きくしすぎない

遺留分の請求額は、被相続人が亡くなった時点でどのような財産が残っているかによって大きく変わります。そのため、生前対策としては、相続時に残る財産を整理し、遺留分算定の基礎となる財産を必要以上に大きくしすぎないことが一つのポイントです。
たとえば、家の修繕に充てる予定だった資金が預金として残っていると、その預金も遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、遺留分の請求額に影響する可能性があります。預金として残しておくのではなく、生前に修繕を行っておくのもいいでしょう。
また、預金の一部を生命保険の保険料に使うのも、検討されることが多い対策です。

3-2 生命保険を活用して、特定の人に資金を残す

死亡保険金は、原則として遺産分割の対象とは別に扱われ、受取人固有の財産とされます。そのため、財産を多く承継させたい相続人を死亡保険金の受取人にしておくことで、その相続人にまとまった資金を残しやすくなります。

金額などによって問題になる場合もある

ただし、保険金額が遺産全体と比べて過大である場合や、相続人間の公平を著しく害するような事情がある場合には注意が必要です。死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となり、遺留分をめぐる紛争の中で問題になる可能性があります。

3-3 生前贈与の時期・対象・金額を計画的に設計する

生前贈与は、遺留分の請求額を下げるための対策として検討されることがあります。相続開始時点で残る財産を減らすことができれば、遺留分算定の基礎となる財産も小さくなる可能性があるためです。
ただし、相続人に対する生前贈与については、相続開始前10年以内の特別受益にあたる贈与が、遺留分算定の基礎に含まれる可能性があります。

贈与の内容を説明できる資料を整理しておく

そのため、相続直前に慌てて財産を移すのではなく、早い段階から、誰に、どの財産を、どの時期に、どの程度贈与するのかを計画立てて実施する必要があります。また、贈与契約書、振込記録、不動産登記、贈与税の申告資料などを残しておくことも重要です。

3-4 過去に援助した事実を、証拠として残しておく

反対に、遺留分を請求する可能性のある相続人に対して、過去に多額の援助をしている場合には、その内容を証拠として残しておくことも対策となります。
たとえば、住宅購入資金の援助、事業資金の援助、借金の肩代わり、長期間の生活費援助、高額な学費や留学費用の負担などがある場合です。これらが特別受益や生前贈与として評価できる場合には、相続開始後に遺留分侵害額を計算する際、その相続人がすでに受け取っていた利益として考慮できる可能性があります。

振込記録や通帳の写しなどの記録を残しておく

親子間では、契約書を作らずに資金援助をしていることも多く、贈与だと証明できないことがあるため、振込記録、通帳の写し、贈与契約書、借用書、メールのやり取り、贈与税の申告資料などを整理しておくことが重要です。援助した金額だけでなく、何のために渡したお金なのかが分かる資料も残しておきましょう。

3-5 遺留分請求が起きないよう、遺言書であえて特定の財産を指定しておく

遺留分をゼロにすることは原則できないので、遺留分を請求する可能性がある相続人に対して、あえて一定の財産を遺言書で指定しておく方法も検討されます。遺留分の概算額を試算したうえで、その金額に近い預金や不動産を、当該の相続人に相続させるよう遺言書に記しておく方法です。
例えば、不動産であれば、目先の問題として管理負担や固定資産税、現金化するにも売却の手間があり、現金を渡す場合とは負担感が異なります。
相続開始後に遺留分侵害額請求を受けると、請求を受けた相続人は交渉や支払いの負担を負います。遺留分をなるべく渡したくない場合でも、最低限の財産をあえて指定しておくことが、結果的に大切にしたい相続人を守る対策になる場合もあります。

第4章 【FAQ】遺留分の生前対策でよくある疑問

Q1. 遺留分を請求しないという念書を書いてもらえば有効ですか?

A1. 念書だけでは不十分です。

生前に、相続人から「将来、遺留分を請求しません」という念書を書いてもらっても、それだけで遺留分侵害額請求を防げるとは限りません。相続開始前に遺留分を放棄するには、遺留分を有する相続人本人が家庭裁判所に申立てを行い、許可を受ける必要があります。これは、財産を残す人や他の相続人からの圧力によって、遺留分権利者が不本意に放棄させられることを防ぐためです。そのため、念書があっても、家庭裁判所の許可を得た遺留分放棄でなければ、相続開始後に遺留分侵害額請求を受けるリスクは残ります。

Q2. 遺留分放棄を後から撤回されることはありますか?

A2. 裁判所を通じて受理された場合は原則として簡単には覆せません。

相続人本人が家庭裁判所に申立てを行い、遺留分放棄の許可を受けていれば、被相続人が亡くなった後に「やはり遺留分を請求したい」と考えても、当然に放棄を覆せるわけではありません。ただし、口頭のみで遺留分を放棄するという合意を取ったというところでとどまっているような場合は法的拘束力としては弱く、後に遺留分を請求される可能性は残っています。

Q3. 遺留分を渡したくない理由を遺言書に書いておく意味はありますか?

A3. 紛争予防に役立つことがありますが、遺留分をなくす効力はありません。

たとえば、遺言書に「長年介護をしてくれたから長女に財産を多く残したい」といった理由を書いたからといって、遺留分がなくなるわけではありません。遺留分を有する相続人は、遺言書の内容に不満がある場合、遺留分侵害額請求をする可能性があります。遺言書に特定の相続人に財産を渡したい理由を書くことは、本人の考えを伝えることで相続人間の感情的な対立を少しでも抑えるための対策と位置づけるべきです。

Q4. 相続人廃除をすれば、遺留分を渡さなくてもよくなりますか?

A4. 相続人廃除が認められる場面は限られます。

相続人廃除とは、特定の相続人を相続から外すことができる制度です。相続人廃除が裁判所に認められると、その人は相続人ではなくなるため、遺留分も問題になりません。ただし、相続人廃除は、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、著しい非行など、相続人としての地位を失わせるだけの強い事情がある場合に限られ、それを裏付ける資料や経緯も重要になります。また、廃除された人に子がいる場合には、代襲相続によって、その子の相続権や遺留分が問題になることもあります。

Q5. 遺留分対策として養子縁組をすることは有効ですか?

A5. 効果はありますが慎重に検討すべきです

養子縁組をすると、相続人の人数が増えるため、財産の分配が変わります。その結果、特定の相続人の遺留分割合が下がる場合があります。もっとも、養子縁組には親子関係を発生させるという大きな法的効果があります。相続分や遺留分だけでなく、扶養、氏、親族関係、他の相続人との関係にも影響します。単に相続人の人数を増やすためだけに検討すべき対策ではありません。

第5章 遺留分を渡したくない場合ほど、感情と法的リスクを分けて対策することが大切です

法律上、遺留分が認められる相続人については、ご自身の意思だけで遺留分を当然に消すことはできません。遺言書や生前贈与などを活用しても、それぞれに限界や注意点があります。しかも、対策の進め方を誤ると、遺留分侵害額請求によって、財産を承継させた相続人にかえって大きな負担をかけてしまうこともあります。そのため、対策を行う場合は遺留分の概算額を把握したうえで、財産内容や家族関係に応じた検討が重要となります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士をはじめ、税理士や司法書士などの専門家が連携した士業グループです。遺留分をなるべく渡したくない、特定の相続人への承継割合をできるだけ抑えたいといったご相談についても、法的リスクや税務面を踏まえながら、現実的な対策を検討いたします。お気軽にご相談ください。

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監修者:池本 稔洋
弁護士池本 稔洋

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士池本 稔洋

  • 2017年3月
    兵庫県立星陵高等学校 卒業
  • 2021年3月
    神戸大学法学部 法律学科 卒業
  • 2023年3月
    神戸大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

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