知人や親族に多額のお金を貸したままにしていると、相続の際に思わぬ問題が生じることがあります。貸付金は返済される見通しが立っていなくても原則として相続財産となり、相続税の課税対象になるためです。
本記事では、貸付先が相続人以外の場合を前提に、貸付金を残して死亡した場合の相続と、生前にできる対策を弁護士・税理士が解説します。
第1章 貸したお金は貸付金債権として相続され、相続税の対象になる
知人に貸したお金は、借主に返してもらう権利として、相続が発生すると相続人に引き継がれます。注意したいのは、その貸付金は原則として相続税の課税対象であるという点です。
1-1 貸付金は相続人が承継する相続財産に含まれる
知人や親族にお金を貸した場合、貸した側には借主へ返済を求める「貸付金債権」があります。相続が発生した場合、この貸付金債権も預貯金や不動産などと同様に相続財産として扱われ、相続人へ承継されます。
たとえば、友人の事業資金として1,000万円を貸している場合、その1,000万円が手元に帰ってきていなくても、「友人から1,000万円を返してもらう権利」という相続財産として相続人に引き継がれ、預貯金や不動産とあわせて相続税の課税対象に含まれます。
1-2 元本だけでなく利息も相続税の対象になる
貸付金に利息を定めている場合には、相続開始時点までに発生した利息のうち、その時点で支払を受けるべき金額を加算して評価されます。
たとえば、知人に1,000万円を貸しており、相続が発生した時点で元本1,000万円がまったく返済されておらず、さらにその時点までに発生した未払いの利息が200万円ある場合、原則として1,200万円が貸付金債権の評価額となります。
1-3 貸付金を回収できなくても10か月以内に金銭で相続税を納めなくてはならない
貸付金を残しておくことが相続人にとって負担になり得るのは、相続税の納税期限までにそのお金を回収できるとは限らないためです。
相続税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告し、金銭で納める必要があります。
たとえば、知人に1,000万円を貸したまま亡くなり、その貸付金が相続財産として評価された場合、相続人はその1,000万円を含めて相続税を計算しなければなりません。しかし、借主が納税期限までに1,000万円を返してくれるとは限りません。
そのため、貸付金が相続財産に加わることで相続税額が増える場合でも、それに見合う現金が相続人の手元にないまま納税期限を迎えることがあります。その結果、納税資金が足りなければ、相続人自身の預金を取り崩すなどして納税しなければならないことも考えられます。
第2章 長年返済されていない貸付金でも相続税の対象から外れるとは限らない
貸したお金について何年も返済を受けていなければ、「実際には返ってこないお金なのだから、相続財産としても価値はない」と考えるかもしれません。
しかし、長期間返済されていないことや、貸した本人が返済を期待していないことだけで、貸付金の相続税評価額が0円になるわけではありません。
2-1 長年返済されていなくても著しく回収困難と認められなければ貸付金として評価される
貸付金を長期間回収していない、借主に催促していない、貸した本人が「もう返ってこなくても仕方がない」と考えていたとしても、それだけで貸付金を相続財産から除外できるわけではありません。
実際、長年返済を求めておらず、契約書や返済条件も明確ではなかった1億7,700万円の貸付金について、相続人が0円として申告したものの、全額が相続税評価の対象とされた事例があります。相続人は貸付金を0円として申告しましたが、税務署は申告漏れとして税額を更正し、国税不服審判所も1億7,700万円全額を貸付金の評価額とする判断をしました。
この事例では、貸した本人が返済を求めていなかったことについても、本人の好意による事情にすぎず、それだけで貸付金の価値がなくなるものではないと判断されています。(国税不服審判所平成19年10月10日裁決)
2-2 借主に資産や収入がなく回収できないことが明らかな場合は0円評価となることがある
一方で、借主に返済能力がなく、相続開始時点で回収が不可能、または著しく困難であることが客観的に確認できる場合には、回収できない部分を貸付金の相続税評価額に含めないことがあります。
実際、借主本人が被相続人から約1億円を借りたままであることを認めたものの、借主には返済に充てられる不動産や預貯金が確認できず、長期間返済も行われていなかった事例があります。
この事例で国税不服審判所は、借金自体は存在すると認めつつも、借主が多額の債務を抱え、近い将来にも返済資金を用意できる見込みがないとして、貸付金の評価額を0円と判断しました。(国税不服審判所平成24年9月13日裁決)
このように、貸付金が相続税評価から外れるかどうかは、長年返済されていないという事情だけではなく、相続開始時点で実際に回収できる可能性があるかどうかによって判断されます。返済が止まっている貸付金を長期間そのままにしている場合は、「どうせ返ってこないから大丈夫」と考えず、生前のうちに状況を確認しておくことが重要です。
第3章 家族へ問題を残さないために貸付金を生前に整理する方法
3-1 返してもらう予定なら生前にできるだけ回収する
本来返してもらう予定のお金であれば、まずは自身が元気なうちに回収することを検討します。
すでに返済期限を迎えており、借主にも返済できる資力があるのであれば、生前に返済を受けることで、相続時に残る貸付金を減らすことができます。また、借主との交渉や回収手続を引き継ぐ相続人の負担も軽減できます。
一括返済が難しく、貸付金を残したまま相続を迎える可能性がある場合には、借用書や送金記録、返済履歴を整理し、現在の残額や返済期限、返済方法を相続人が把握できる状態にしておきましょう。本人が亡くなった後では、相続人が貸付けの経緯を確認できず、回収に苦労する可能性があります。
3-2 返してもらうつもりがないなら債務免除で整理する
知人や親族を助けるために貸したお金で、実際には返してもらうつもりがなく、返済を求めないのであれば、生前に債務免除を行い、貸付金債権を消滅させておく方法があります。債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示すると、その範囲で債権は消滅するため、相続人に引き継がれることもなくなります。
ただし、本人の中で「返してもらわなくてよい」と考えているだけでは債務免除にはならず、借主に対して債務を免除する意思を表示する必要があります。債務免除は書面でなければ効力が生じないものではありませんが、相続後に免除の有無や内容を確認できるよう、債務免除通知書などの書面を作成しておくことが重要です。
第4章 【FAQ】貸付金の相続でよくある疑問
Q1. 貸付金は相続人のうち誰が引き継ぐことになりますか?
A1. 原則として、各相続人が相続分に応じて引き継ぎます。
貸付金のような金銭債権は、原則として相続開始と同時に各相続人が相続分に応じて承継します。たとえば、1,000万円の貸付金について子ども2人だけが相続人で、それぞれの法定相続分が2分の1であれば、原則として各500万円の債権を承継することになります。
Q2. お金を貸した相手が亡くなったらどうなりますか?
A2. 原則として、借主の相続人に返済義務が引き継がれます。
借主が負っていた返済義務は、原則としてその相続人に引き継がれるため、貸した側は借主の相続人に返済を求めることになります。借主の相続人全員が相続放棄していた場合、相続放棄をした人に返済を求めることはできませんが、それを理由に貸付金債権が当然になくなるわけではありません。そのため、その後に貸主についての相続が発生すると、その貸付金が相続税の課税対象となる可能性は残ります。
Q3. 相続税の申告後に、家族が貸付金の存在を知った場合はどうなりますか?
A3. 相続税額が増える場合は、申告内容を訂正する必要があります。
相続税の申告後に貸付金が見つかった場合、その貸付金を加えて相続税を計算し直し、税額が増える場合は申告の修正が必要になります。実際、相続人が貸付金の存在や金額を把握していなかったものの、税務署が借主への調査から貸付金を把握した事例もあります。
そのため、多額のお金を貸している場合は、貸付先や残額、関係資料を家族が確認できるよう生前に整理しておくことが大切です。
まとめ|貸付金は相続が発生する前に法務・税務の両面から整理しておきましょう
知人や親族に貸しているお金は、貸付金債権として相続人に引き継がれ、原則として相続税の対象になります。貸付金を引き継いだ場合、相続人は納税資金を用意しながら、借主への確認や回収まで行わなければならない可能性があるため、ご自身が元気なうちに、返済を受けるのか、貸付条件を整理して相続人へ引き継ぐのか、債務免除によって整理するのかを決め対策しておくことが大切です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士などの専門家が連携し、貸付金の法的な整理から相続税・贈与税を踏まえた生前対策まで対応しています。知人や親族に貸したままのお金をどのように整理すべきかお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
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