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コラム

家族信託した財産は遺留分の対象になる?信託財産・受益権と相続発生後の注意点を弁護士が解説

2026.05.25

家族信託を利用すると、信託された不動産や預貯金は受託者名義になります。そのため、「信託した財産は相続財産ではないから、遺留分の対象にもならないのでは」と考えるかもしれません。しかし、家族信託を利用しても、遺留分の問題を当然に回避できるわけではありません。本記事では、信託財産や受益権が相続発生後の遺留分との関係でどのように問題になるのかを弁護士が解説します。

第1章 家族信託をしても遺留分の問題がなくなるわけではない

名義が移るだけの場合と利益を受ける場合では遺留分の扱いが異なる

家族信託とは、財産を持っている人が、自分の財産の管理や処分を信頼できる家族などに任せる仕組みです。
たとえば、父が高齢になり、将来的に認知症などで不動産の管理や売却が難しくなることを心配して、長男を受託者として収益不動産を信託するケースがあります。
この場合、信託された収益不動産は受託者である長男名義になります。

図01_「信託 遺留分 家族信託 遺留分」家族信託した財産は遺留分の対象になる?信託財産・受益権と相続発生後の注意点を弁護士が解説

もっとも、収益不動産が長男名義になったからといって、その収益不動産が長男の個人財産になるわけではありません。当該不動産は信託不動産として扱われ、長男はそれを管理する立場であるだけです。

図02_「信託 遺留分 家族信託 遺留分」家族信託した財産は遺留分の対象になる?信託財産・受益権と相続発生後の注意点を弁護士が解説

しかし、父の死亡後に長男が受益者となって収益不動産の収益を受け取る設計になっている場合には、長男が取得する受益権や経済的利益の価値が、遺留分を算定する際に考慮される可能性があります。

家族信託の概要はこちらの記事から確認できます。

家族信託って何?認知症による資産凍結を防ぐ仕組みと具体的な活用シーンを弁護士がわかりやすく解説

第2章 遺留分とは何か|家族信託との関係で押さえるべき基本

2-1 遺留分は一定の相続人に保障された最低限の取り分

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の相続分です。
被相続人は、生前贈与、遺言、家族信託などを使って、自分の財産を誰に承継させるかをある程度決めることができます。しかし、法律上、一定の相続人については、まったく財産を受け取れない状態にされることを防ぐため、遺留分が認められています。
遺留分を持つのは、主に次の相続人です。

  • 配偶者
  • 子ども
  • 子どもが先に亡くなっている場合の孫など
  • 直系尊属である父母、祖父母など

2-2 遺留分侵害額請求は金銭請求として扱われる

現在の民法では、遺留分を侵害された相続人は、原則として遺留分侵害額に相当する「金銭の支払い」を請求します。
この点は、家族信託との関係でも重要です。
たとえば、家族信託によって特定の相続人が不動産の受益権を取得し、他の相続人が自分の遺留分が侵害されたと考える場合には、その受益権や経済的利益の価値を踏まえて、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求められる可能性があります。
そのため、家族信託を設計する際には、財産を相続させたい相続人が他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合に、その支払原資を金銭で準備できるかという点も含めて検討する必要があります。

第3章 家族信託で遺留分が問題になりやすい具体的なケース

3-1 受託者が受益者となり信託終了時に不動産も取得するケース

まずは、第1章で触れたケースを詳しく見ていきます。
賃貸アパートのように収益を生む不動産を信託財産としている場合、委託者の死亡後に受託者が受益者となり、さらに不動産の所有権も取得する設計は、遺留分との関係で問題になりやすいといえます。

具体的状況

たとえば、父が賃貸アパートを信託財産とし、父の死亡後は長男が受益者となり、信託終了時には賃貸アパートの所有権も取得する設計です。
この場合、長男は名義人として賃貸アパートを管理するだけでなく、父の死亡後は賃料収入という経済的利益を受け、さらに信託終了時には賃貸アパートそのものを取得することになります。

遺留分でどこが問題になるか

このケースでは、長男が取得する賃料収入などの利益と、賃貸アパート自体の財産的価値が、遺留分を算定する際に考慮される可能性があります。特に、父の財産の大部分が賃貸アパートであり、他の相続人には十分な財産が残らない場合には、長男に経済的利益が集中しているとして、遺留分侵害額請求を受けるリスクが高まります。

3-2 受託者が自宅を取得するケース

委託者の死亡後に、受託者が自宅そのものを取得する設計になっている場合には、その自宅の財産的価値が、遺留分を算定する際に問題となる可能性があります。

具体的状況

たとえば、父が自宅を信託財産とし、長男が受託者となっているケースです。信託契約において、父の死亡時に信託を終了し、長男を残余財産の帰属先として定めている場合、長男は信託終了後に自宅の所有権を取得することになります。
この場合、自宅は父の死亡時に通常の相続財産として扱われるのではなく、信託契約の定めに従って長男へ帰属することになります。

遺留分でどこが問題になるか

しかし、長男が自宅そのものを取得する以上、その経済的価値を無視することはできません。長男が自宅を取得することによって、自らの遺留分が侵害されたと考える相続人がいる場合には、遺留分侵害額請求が問題となる可能性があります。

3-3 子が継続して受託者となり、配偶者が受益者として自宅に住み続けるケース

委託者の死亡後も、受託者である子が引き続き自宅を管理し、配偶者が受益者として自宅に住み続ける設計では、受託者自身が自宅の利益を取得するわけではありません。ただし、新たに受益者となる配偶者の居住利益や受益権の価値が、遺留分を算定する際に問題となる可能性があります。

具体的状況

たとえば、父が自宅を信託財産とし、長男が受託者となっているケースです。父の死亡後は母を受益者とし、母が自宅に住み続けられる設計にしている場合、父の死亡後も自宅は信託財産として管理されます。
この場合、自宅の名義は受託者である長男にありますが、長男が自宅を個人財産として取得するわけではありません。一方で、母は受益者として、自宅に住み続ける利益を受けることになります。

遺留分でどこが問題になるか

母が受益者として自宅に住み続ける場合でも、その利益が遺留分と無関係になるわけではありません。
たとえば、父の主な財産が自宅であり、次男など他の相続人に十分な財産が残らない場合には、母が取得する受益権や居住利益の価値が、遺留分を算定する際に問題となる可能性があります。

第4章 家族信託と遺留分に関する判決から分かる注意点

4-1 信託と遺留分の関係が問題になった判決

家族信託と遺留分の関係を考えるうえで、東京地裁平成30年9月12日判決が参考になります。
この事案では、父が委託者、次男が受託者となり、父の不動産などを対象とする信託契約が締結されました。父の相続人は、長男、次女、次男の3名でした。

図03_「信託 遺留分 家族信託 遺留分」家族信託した財産は遺留分の対象になる?信託財産・受益権と相続発生後の注意点を弁護士が解説

信託契約では、父の死亡後の受益権について、長男が6分の1、次女が6分の1、次男が6分の4を取得する内容とされていました。また、その次の受益者として、次男の子どもらが定められていました。
つまり、信託契約上は、父の死亡後、長男や次女に一定の受益権が与えられていた一方で、次男側に大きく財産的利益が承継される設計になっていたといえます。

4-2 形式的には遺留分相当の受益権が与えられているように見えた

特徴的なのは、長男・次女にまったく受益権が与えられていなかったわけではないという点です。同裁判の原告である長男を例に見てみましょう。
相続人が子3人の場合、長男の遺留分割合は、法定相続分3分の1に遺留分割合2分の1を掛けた6分の1になります。
そのため、長男に6分の1の受益権が与えられているのであれば、形式的には長男の遺留分に配慮されているようにも見えます。
しかし、遺留分との関係では、単に受益権の割合が遺留分割合と同じかどうかだけでは判断できません。その受益権によって、実際にどのような経済的利益を受けられるのかが問題になります。

4-3 争点は原告の受益権に実質的な経済的価値があるかどうか

この信託では、自宅や山林など、経済的利益の分配が期待しにくい不動産が信託財産に含まれていました。
そのため、裁判では、長男に6分の1の受益権があるとされていても、その受益権によって実際に不動産価値に見合う利益を受けられるのかが問題になりました。
たとえば、賃貸アパートのように賃料収入がある不動産であれば、受益権の価値を比較的把握しやすいといえます。しかし、自宅や山林のように、収益を生みにくい不動産の場合、形式的に受益権を持っていても、実際に十分な利益を受けられるとは限りません。
また、この事案では、最終的には次男の家系に財産が承継される設計になっていたこと、受託者である次男に大きな裁量や無償使用権があったこと、受益権の買取価格が固定資産税評価額に限定されていたことなども問題点として指摘されています。

4-4 本判決では裁判所は遺留分制度を潜脱する意図があるとして信託の一部を無効と判断

本判決においては、裁判所は、本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産を信託財産に含めた部分について、遺留分制度を実質的に回避する目的で信託制度が用いられたものと評価しました。
その結果、当該部分については、公序良俗に反して無効であるとされています。
ここで注目すべきなのは、裁判所が「信託を使ったから当然に遺留分の対象外になる」とは考えなかった点です。

4-5 判決が示す注意点|形式的な受益権ではなく実質的な経済的価値が重要

この判決から分かるのは、家族信託では、受益権の割合だけでなく、その受益権に実質的な経済的価値があるかを確認する必要があるということです。
形式的には遺留分相当の受益権を与えていても、その受益権から十分な収益を受けられない場合や、将来的に特定の相続人側へ財産が集中する設計になっている場合には、相続発生後に信託の有効性や遺留分侵害額請求をめぐって争いになる可能性があります。

地裁判断であり、すべての家族信託に一律に当てはまるわけではない

もっとも、この判決は東京地裁の判断であり、最高裁まで争われて確定的な判断が示されたものではありません。
そのため、この判決だけをもって、家族信託と遺留分の関係を一律に判断するのではなく、個別の信託設計や受益権の内容を踏まえて検討する必要があります。

第5章 家族信託と遺留分について弁護士に相談すべきケース

5-1 特定の相続人に不動産や事業用財産を承継させたい場合

特定の相続人に自宅、収益不動産、事業用不動産、自社株などを承継させたい場合には、家族信託と遺留分の関係を慎重に検討する必要があります。
不動産や事業用財産は、簡単に分けることができません。後継者に承継させる必要性がある一方で、他の相続人の遺留分をどのように確保するかが問題になります。
このようなケースでは、信託契約だけでなく、遺言書、生命保険、代償金の準備、税務上の負担、登記手続まで含めて検討しなければ、相続発生後にトラブルが残る可能性があります。

5-2 相続人同士の関係が悪く将来の遺留分請求が予想される場合

すでに兄弟姉妹の関係が悪い場合や、親の介護をめぐって不満がある場合、家族信託をきっかけに不公平感が強まることがあります。
特に、親と同居している子が受託者となり、その子が将来受益権も取得する設計にすると、他の相続人から財産の囲い込みなどを疑われることがあります。
このようなケースでは、信託契約書の内容だけでなく、財産状況の説明、管理状況の記録、収支報告の方法、将来の遺留分対応まで含めて設計しておくことが重要です。

5-3 受益者連続型信託を検討している場合

受益者連続型信託は、財産の承継先を長期的に決められる反面、権利関係が複雑になりやすい信託です。
父の死亡後は母、母の死亡後は長男、その後は長男の子へ、というように受益者が順番に変わる設計では、それぞれの時点で誰がどのような利益を受けるのかを明確にする必要があります。
受益者連続型信託を検討する場合は、インターネット上のひな形や一般的な説明だけで判断するのではなく、家族構成、財産内容、相続人間の関係を踏まえて、個別に設計する必要があります。

5-4 すでに家族信託を組んでおり遺留分請求が心配な場合

すでに家族信託を組んでいる場合でも、遺留分への対応を見直す余地があります。
たとえば、信託契約を作成した当時と比べて、財産の内容が変わっている、相続人が増減している、家族関係が悪化している、受託者の管理状況に不安があるといった場合には、当初の設計が現在の状況に合わなくなっている可能性があります。
また、信託契約書だけを見ても、信託外財産の承継先、遺言書の有無、生命保険の受取人、相続税の見込み、遺留分侵害額請求への支払原資まで整理されていないケースもあります。
家族信託は、一度契約を作成すれば見直しが不要になるものではありません。相続人や財産の状況が変わった場合には、信託契約、遺言書、税務対策を含めて見直すことが大切です。

第6章 家族信託の遺留分対策は慎重な検討を

遺留分は、一定の相続人に法律上認められた正当な権利です。家族信託によって特定の相続人に財産を承継させたい場合でも、受益権の内容や信託終了時の財産帰属によっては、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。
そのため、家族信託を設計する際は、遺留分との関係を踏まえて慎重に検討することが重要です。私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士、税理士、司法書士などが連携し、家族信託の設計から遺留分への対応まで一体的にサポートしています。家族信託と遺留分の関係に不安がある方は、お気軽にご相談ください。

家族信託の費用の目安は、以下のページ内「家族信託の費用とサポート内容」から確認できます。
家族信託の費用とサポート内容

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監修者:松﨑 洋二
弁護士松﨑 洋二

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士松﨑 洋二

  • 2015年3月
    私立九州学院高等学校 卒業
  • 2015年4月
    福岡大学法学部 法律学科 入学
  • 2018年3月
    福岡大学法学部 法律学科 早期卒業
  • 2018年4月
    福岡大学法科大学院 入学
  • 2021年3月
    福岡大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

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