親の名義だと思っていた不動産が、実際は祖父母や曽祖父母の名義であり、相続人の人数が予想外に多く、戸惑ってしまうケースがあります。本記事では、相続人が多い不動産の相続登記で確認すべきこと、実際の進め方、専門家へ相談すべき場面を弁護士が解説します。
第1章 なぜ相続人が増えてしまうのか
放置されている間に、次の相続が発生し相続人が増えるため
不動産の相続で、想定していたより相続人が多いと分かるケースでは、過去に相続登記がなされず、放置されていたことが原因になっていることが多くあります。
たとえば、祖父名義の不動産が残っている場合、本来は祖父が亡くなった時点で、祖父の相続人である子どもたちの間で遺産分割協議を行い、不動産を取得する相続人を決めて相続登記をする必要がありました。
しかし、その手続きをせず放置している間に相続人が亡くなると、その人の相続分は、その配偶者や子どもなど次の相続人へ引き継がれます。このような承継が複数の相続人について起こるため、当初は数人だった相続人が、年月の経過とともに増えてしまうのです。
第2章 相続人が多い不動産登記で確認すべきこと
2-1 現在の登記名義人が誰になっているかを確認する
最初に確認すべきなのは、当該不動産の登記名義人です。
固定資産税の納税通知書を見て「自分の親が管理していた不動産だから、親の相続の問題だ」と考えていても、登記簿を確認すると、名義が祖父母や曾祖父母のままになっていることがあります。納税通知書の宛名や実際の管理者と、登記上の所有者が一致しているとは限らないため、必ず確認しましょう。
登記名義人を確認する方法
登記名義人は、法務局で登記事項証明書を取得することで確認できます。登記事項証明書には、現在の所有者として誰が登記されているか、不動産の所在地や地番、家屋番号などが記載されています。
2-2 戸籍を収集し相続人の範囲と人数を把握する
登記名義人が分かったら、その人を基準に戸籍を集め、相続人を確認します。通常は、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人となる配偶者や子どもの有無を確認します。さらに、子どもが亡くなっている場合には、その子どもの戸籍をたどり、孫やさらに下の世代の相続人の有無を確認します。
相続が何代にもわたって放置されている場合には、戸籍の収集範囲が広くなります。古い戸籍は本籍地の自治体ごとに取得する必要があり、転籍や婚姻、養子縁組があると、複数の自治体に請求しなければならないこともあります。
限界がある場合は弁護士・司法書士に依頼する
もっとも、孫であれば、祖父母など直系親族の戸籍は取得しやすい一方で、叔父・叔母・いとこなどの傍系親族の戸籍は、当然に取得できるとは限りません。請求理由や相続手続きに必要であることを説明し、取得できるかどうかを役所に確認する必要があります。そのため、自分だけで戸籍を集めきれない場合や、相続関係を整理できない場合には、弁護士や司法書士に相談しながら進めることをおすすめします。
2-3 遺言書が残されていないかも確認する
相続人の調査とあわせて、遺言書が残されていないかも確認しておきましょう。
もし有効な遺言書が存在し、不動産の取得者が指定されている場合、相続人全員で遺産分割協議をしなくても、遺言の内容に従って相続登記を進められる可能性があります。
2-4 相続関係説明図を作成して、関係性の全体像を見える化する
相続人が多い場合、戸籍を集めただけでは関係性を把握しきれないことがあります。その場合、相続関係説明図を作成し、相続人のつながりを整理することが有効です。
相続関係説明図とは、被相続人を中心に、配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹などの関係を図にしたものです。家系図に近いものですが、相続手続きで必要になる範囲を意識して作成します。
相続関係説明図を作成すると、誰が相続人なのか、どの世代まで手続きが広がっているのかなどが確認しやすくなります。最初に相続関係説明図を作っておくと、他の相続人に説明する際にも役立ちます。
2-5 不動産以外の相続手続きも整理されていないことがある
不動産の相続登記が放置されている場合、不動産以外の相続手続きも十分に整理されていない可能性があります。
相続登記を進めるために、不動産だけを対象に遺産分割協議をすること自体は可能です。ただし、過去の相続全体が未整理のままだと、他の相続人から他の相続財産についても確認をされる可能性がありますので、過去の相続でどの財産が確認され、どこまで手続きが済んでいるのかを併せて把握しておくことが望ましいといえます。
第3章 自分名義で不動産を相続登記したい場合の進め方
長年、相続登記されていなかった不動産を自分の名義に変えたい場合、他の相続人に事情を説明し、原則として全員の同意を得たうえで登記を進める必要があります。取得希望の伝え方から登記申請までの流れを整理します。
3-1 他の相続人に取得希望と手続きの必要性を説明する
当該不動産を自分名義で相続登記したい場合、まずは他の相続人に対して、手紙や書面で不動産の状況と自分の希望を説明する方法が考えられます。
相続人が多い場合、相手方の中には、自分が相続人であることや、そうした不動産が残っていることを知らない人もいます。
そのため、最初の連絡では、登記名義が古いままになっていること、相続登記を進める必要があること、今後は自分が管理したいこと、自分が不動産を取得する内容で遺産分割協議を進めたいことを、書面で分かりやすく伝えるとよいでしょう。
連絡先が分からない相続人は専門家に相談しながら調査する
相続人が多い場合、そもそも一部の相続人の連絡先が分からないことがあります。この場合には、戸籍の附票などを取得し、現在の住所を調査することが考えられます。もっとも、戸籍の附票は誰でも自由に取得できるものではありません。請求者と対象者との関係、請求理由、必要書類によって、取得できるかどうかが変わります。そのため、相続人の住所調査や連絡方法に不安がある場合にも弁護士に相談しながら進めることが有効といえます。
3-2 不動産取得への同意を得て、代償金の要否も検討する
自分名義で不動産を相続登記するには、他の相続人から、当該不動産を自分が相続することについて同意を得る必要があります。具体的には、その旨を記した遺産分割協議書に署名押印してもらいます。
また、他の相続人に代償金を支払う必要があるかも検討します。代償金とは、不動産を取得する相続人が、他の相続人に対して金銭を支払うことで公平を調整するものです。不動産の価値、固定資産税やこれまでの管理費用の負担などを踏まえて、代償金を支払う必要があるか、支払う場合はいくらにするのかも検討しましょう。
3-3 不動産の取得に同意してくれない相続人がいた場合の対応
相続人の中に、自分が不動産を取得することに同意してくれない人がいる場合は、まずは「なぜ同意できないのか」を確認することが大切です。
相手方は、不動産を自分が欲しいと思っている場合もありますが、単に不動産の価値や他の遺産の内容が分からず、不安を感じているだけの場合もあります。そのため、不動産の固定資産税評価額、これまでの管理状況、固定資産税の負担、今後の利用予定、代償金の有無などを整理し、丁寧に説明することで解決をはかれることもあります。
決着しない場合は遺産分割調停を検討
交渉で話がまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を検討します。調停では、裁判所の調停委員を介して、不動産を誰が取得するのか、代償金を支払うのか、売却して分けるのかなどを話し合います。相続人同士で直接交渉することが難しい段階に入った場合には弁護士へ相談した方がよいでしょう。
3-4 合意内容を遺産分割協議書に正確に反映する
相続人全員の合意がとれたら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。協議書には、どのような不動産を誰が取得するのかを、登記に使える形で正確に記載する必要があります。具体的には、登記事項証明書に記載された所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積などを確認し、対象不動産を特定できるようにしておきます。
また、作成した遺産分割協議書には、相続人全員の署名押印が必要です。
相続人が多い場合、この署名押印を集めるだけでも時間と手間がかかります。さらに、協議書の内容に不備があると、もう一度全員に署名押印を依頼しなければならないため、慎重に確認して進めましょう。
3-5 遺産分割協議書と必要書類をそろえて相続登記を申請する
遺産分割協議書が完成したら、相続登記に必要な書類をそろえて法務局へ申請します。
一般的には、被相続人の戸籍、相続人の戸籍、住民票、印鑑証明書、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要です。
相続登記の申請書を作成し、登録免許税を納付して、管轄の法務局に申請します。
第4章 相続人が多い不動産を放置し続けるリスク
4-1 相続登記の義務化により、原則として名義変更を先送りにはできない
相続登記は、令和6年4月1日から義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく申請を怠った場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
令和6年4月1日より前に発生した相続についても、相続登記義務化の対象です。過去に相続した不動産であっても、原則として令和9年3月31日までに対応する必要があるため、現在まで長く放置されていた不動産も、今後そのままにしておくと過料の対象となるおそれがあります。
4-2 管理不全により近隣トラブルが生じることがある
相続登記がされていない不動産でも、建物や土地の管理責任がなくなるわけではありません。
空き家や空き地を放置すると、草木の繁茂、害虫の発生、ごみの不法投棄、建物の老朽化などが問題になることがあります。万が一、屋根材や外壁が落下して通行人や隣家に被害を与えたり、倒木や塀の崩落によって近隣の建物・車両を損傷させたりすれば、損害賠償を求められる可能性もあります。
また、管理状態が悪い空き家について、特定空家等や管理不全空家等として自治体から勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなることがあります。住宅用地の特例が外れると、土地の固定資産税がこれまでより高くなる可能性があるため、税負担の面でも注意が必要です。
4-3 子どもや孫に面倒な相続問題を残してしまう
相続人が多い不動産を放置すると、問題は自分たちの世代だけで終わりません。手続きをしないまま時間が経てば、次の世代が同じ問題を引き継ぐことになります。
さらなる時間が経過すれば事情を知る人も少なくなり、なぜ不動産が昔の名義のまま残っているのか、誰が固定資産税を支払っていたのか、過去に親族間でどのような話し合いがあったのかが今以上に調べにくくなります。
次の世代に複雑な相続問題を残さないためにも、気づいた段階で名義や権利関係を整理しておくことが大切です。
第5章 弁護士・司法書士がサポートできる場面
5-1 【弁護士】相続人の特定・交渉・遺産分割協議までまとめて相談できる
相続人が多い不動産相続では、時間のかかる調査や交渉が増えるため、弁護士への依頼が有効な場面が少なくありません。
相続人の範囲を整理
相続が長年放置されている場合、戸籍を見ても、誰が相続人になるのか分かりにくいことがあります。弁護士に相談すれば、相続関係を整理し、誰に連絡すべきか、誰の同意が必要なのかを確認しながら進めやすくなります。
他の相続人への連絡
面識のない相続人に突然連絡すると、不審に思われたり、感情的な反発を招いたりすることがあります。弁護士は、最初に送る書面の内容や、どのような資料を添付すべきかを整理し、相手に伝わりやすい形で説明するサポートをします。
同意しない相続人と交渉
自分名義で不動産を相続登記したい場合、他の相続人が納得しないこともあります。弁護士は、不動産の取得理由、代償金の要否、これまでの管理状況などを踏まえ、法的な見通しに沿って交渉を進めることができます。
遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意ができても、その内容を相続登記に使える形で遺産分割協議書にまとめる必要があります。不動産の表示や取得者の記載、相続人全員の署名押印、印鑑証明書との整合性などに不備があると、法務局で補正を求められたり、手続きが止まったりすることがあります。弁護士に相談すれば、合意内容をどのように書面化すべきかを確認しながら進められます。
調停・審判に移行した場合の対応
話し合いでまとまらない場合には、遺産分割調停や審判を検討することになります。弁護士は、家庭裁判所での手続きも見据えて、資料の整理や主張の組み立てを行うことができます。
5-2 【司法書士】相続登記の申請手続きを正確に進めたい
相続人の範囲が整理でき、遺産分割協議の内容もまとまっている場合には、司法書士に相続登記を依頼することも考えられます。司法書士は不動産登記の専門家であり、登記申請に必要な書類の確認、申請書の作成、法務局への提出などを任せることができます。
相続登記に必要な書類を整理
相続登記では、戸籍、住民票、印鑑証明書、固定資産評価証明書、遺産分割協議書など、複数の書類が必要になります。司法書士に相談すれば、どの書類が必要か、どこで取得するか、不足している資料がないかを確認しながら進めやすくなります。
登記申請書の作成と法務局への申請
相続登記では、不動産の表示や取得者の住所氏名、登記原因などを正確に記載して申請します。内容に不備があると、法務局から補正を求められ、手続きが遅れることがあります。司法書士に依頼すれば、登記実務に沿って申請書を作成し、法務局への申請まで任せることができます。
第6章 相続人が多すぎる複雑な遺産相続でお悩みの方へ
相続人の人数が多い場合でも、相続登記の基本的な手順そのものが大きく変わるわけではありません。まずは、現在の登記名義人を確認し、戸籍をたどって相続人の範囲を特定し、誰が不動産を取得するのかを相続人間で整理していく必要があります。
ただし、長年放置されていた不動産では、名義変更がされないまま次の相続が発生し、相続人が増えていることがあります。その場合、戸籍の収集や相続関係の整理だけでも時間がかかりますし、面識のない相続人への連絡、取得希望の説明、代償金の調整、遺産分割協議書の作成など、対応すべきことも多くなります。そのような場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進めることも有効な選択肢といえます。
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