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コラム

家族信託って何?認知症による資産凍結を防ぐ仕組みと具体的な活用シーンを弁護士がわかりやすく解説

2026.04.21

家族信託について調べてみたものの、実際に自分の家庭でどう使えるのかイメージが持ちづらいかもしれません。特に、親の認知症リスクや不動産の管理・承継を考え始めた段階では、何ができるのかを具体的に知ることが重要です。本記事では、よくあるケースをもとに家族信託の使い方について相続実務に精通する弁護士がわかりやすく解説します。

第1章 家族信託って何?「元気なうちに管理を託す」財産管理の形

1-1 家族信託の全体像:登場人物は「託す人・任される人・もらう人」の3人

家族信託とは、自分の財産について、将来の管理や処分の方法をあらかじめ決めておき、その管理を信頼できる家族に任せる仕組みです。この仕組みを理解するためには、次の3つの立場に分けて考えると整理しやすくなります。

委託者(託す人)

財産を持っている本人(例:高齢の親)

受託者(任される人)

実際に財産を管理・運用・処分する人(例:子)

受益者(恩恵を受ける人)

管理されている財産から生じる利益を受け取る人(例:親)

多くの場合、当初は「委託者」と「受益者」を同じ人(親)に設定します。
これにより、財産の名義は「受託者(子)」に移りますが、そこから得られる賃料収入や、売却して得たお金は引き続き「受益者(親)」のために使われることになります。

1-2 なぜ今、家族信託なのか?認知症による資産凍結のリスクを回避する

家族信託が注目されている理由の一つは、認知症などにより本人の判断能力が低下した場合の資産管理に備えられる点にあります。
本人の判断能力が低下し、自分が行う行為がどのような結果をもたらすかを理解することが困難になると、銀行口座にある預金の払い戻しや不動産の売却といった契約行為ができなくなります。たとえ家族であっても、本人の代理として勝手に不動産を売却したり、預貯金を解約・引き出したりすることは法律上認められません。
その点、家族信託をあらかじめ契約しておけば、親が認知症になった後でも、決めておいたルールに従って、受託者である子が信託財産である不動産の管理・処分や、生活費・介護費のための預貯金の管理などをスムーズに行えるようになります。

1-3 遺言や成年後見制度との違い、家族信託にしかできない柔軟な管理

家族信託と比較される制度に「遺言」と「成年後見制度」があります。家族信託はこれらとは役割が異なり、生前の財産管理や将来の承継の設計に活用される点に特徴があります。

遺言との違い

遺言は死後の財産分けを決めるものですが、生前の財産管理には効力がありません。家族信託は生前の管理に加えて、契約内容によっては死亡後の承継も見据えて設計することができます。

成年後見制度との違い

成年後見は判断能力低下後の財産管理を後見人に指定された者が行う制度です。後見人が就くことで財産の管理自体は可能ですが、制度の目的が「本人の財産の維持・保護」を重視しているため、例えば居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要になるなど、家

族信託に比べると財産管理や処分を柔軟に進めにくい場面があります。
家族信託であれば、契約時に「どのような目的で財産を使うか」を細かく定めておくことで、家族の事情に合わせた柔軟な管理が実現しやすくなります。

第2章 【モデルケース1】実家の売却・住み替えをスムーズに行う

2-1 設定シーン:一人暮らしの母が施設に入る資金を作るために実家を売りたい

Aさん(80代・女性)は、都内の一軒家に一人で暮らしています。最近、物忘れが目立つようになり、長女のBさんは「母が将来、介護施設に入ることになった際、実家を売却してその入居費用や月々の介護費用に充てたい」と考えています。
しかし、いざ施設への入居が決まった時に母Aさんの認知症が進んでいると、実家の売却手続を進めにくくなります。不動産業者との契約や、法務局での登記手続きにおいて本人の意思確認ができないためです。

2-2 家族信託の仕組み:子が受託者として売却の権利を持つメリット

このケースで家族信託を活用する場合、委託者を母Aさん、受託者を長女Bさん、受益者を母Aさんとします。信託する財産は「実家の不動産」と「売却活動に必要な一部の預貯金」です。
契約により、不動産の名義は受託者である長女Bさんに移ります。これにより、将来、母Aさんの判断能力が失われた場合でも、信託契約で定めた権限の範囲内で、長女Bさんが不動産の売却手続きを進めることができます。
売却して得た資金は信託財産として長女Bさんが管理し、そこから母Aさんの施設費用や医療費を支払う形をとります。

2-3 もし信託をしていなかったら?成年後見制度での自宅売却は難しい場面もある

もし家族信託をせず、母Aさんの判断能力が低下した後に実家を売ろうとした場合、法定後見制度を利用することになります。
しかし、法定後見人が本人(母A)の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。裁判所は売却の必要性を慎重に判断するため、必ずしも希望のタイミングで売却を進められるとは限りません。
また、一度後見人が選任されると、その後も制度の利用が継続することが一般的ですので、弁護士などの専門職が選任された場合には継続的な報酬が発生するという側面もあります。

第3章 【モデルケース2】賃貸アパートの管理を次世代に渡し、収益を親が受け取る

3-1 設定シーン:高齢の父に代わり、長男がアパートの修繕や契約更新を主導したい

Cさん(70代・男性)は、地方に賃貸アパートを一棟所有しています。管理会社との対応や老朽化した箇所の修繕、入居者との契約更新などをこれまでCさん自身が行ってきましたが、体力の衰えを感じており、長男のDさんに管理を任せたいと考えています。
ただし、父Cさんとしては「管理は任せたいが、家賃収入は老後の生活費として自分(父C)が受け取り続けたい。また、今すぐアパートを長男に贈与すると多額の贈与税がかかるので避けたい」という希望を持っています。

3-2 家族信託の仕組み:管理は子、家賃収入は父という役割分担の実現

家族信託を利用すれば、こうした名義(管理権)と利益(受け取る権利)を分けることが可能です。
父Cさん(委託者・受益者)と長男Dさん(受託者)の間で信託契約を結び、アパートを信託財産とします。この信託契約に基づいてアパートの信託登記を行うことで、登記上の名義が長男Dさんになり、賃貸契約の締結や大規模修繕の発注などは長男Dさんの判断でスムーズに進められるようになります。
一方で、賃料収入から諸経費を差し引いた利益は受益者である父Cさんが受け取り続けられます。税務上も、収益を受け取る父Cさんの所得として扱われるため、この段階で長男Dさんへの贈与税が問題になることはありません。

3-3 二次相続まで見据えた設計:父の死後、誰に不動産を引き継がせるかも指定できる

家族信託のもう一つの大きな特徴は、遺言では指定できない二段階先の財産承継先を指定できる点です。
例えば、父Cさんが亡くなった後は、母Eさんが受益者となり、母Eさんも亡くなった後に長男Dさんが受益権を取得するといった設計も考えられます。これは後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と呼ばれるもので、円滑な資産承継をあらかじめ確定させておくことが可能になるのがメリットといえます。

第4章 家族信託の注意点とトラブルを防ぐポイント

4-1 受託者の権限が強いからこそ他の親族への透明性が重要

家族信託が成立すると、受託者は信託契約の対象になった財産(預貯金、不動産等)の処分を独自の判断で進める権限を持つことになります。
そのため、複数の子がいる中で一人の子が受託者となって財産を管理する場合、他の兄弟姉妹から親の財産を不当に使い込んでいるのではないかといった疑念を持たれる可能性も否定できません。
こうしたトラブルを防ぐためには、信託契約の中で定期的に他の親族へ収支報告を行う仕組みを定めたり、信頼できる第三者を信託監督人として立て、管理状況をチェックしたりする工夫が考えられます。

4-2 予備的受託者を決めておく:受託者が先に倒れた場合の備え

意外と見落としがちなのが、受託者(子)が親より先に病気になったり、亡くなったりするリスクです。
もし受託者が欠けてしまい、あらかじめ後任が決まっていないと、信託の運用に支障が生じたり、場合によっては裁判所に受託者の選任を申し立てる必要が出てきたりします。
そのため、契約時には予備的受託者を定めておき、万一の場合にも管理が途絶えない体制を作っておくことが大切です。

4-3 税務の視点を忘れない:契約の内容次第で贈与税や不動産取得税がかかることも

家族信託は、契約の設計次第で贈与税や不動産取得税の内容が変わります。例えば、父が託した財産の受益者を、最初から子にするといった設定にしてしまうと、実質的な贈与と評価され、税負担が生じることがあります。
また、信託期間中に信託財産から収益が生じる場合には、原則として受益者が所得税の申告を行うことになります。さらに、将来の相続税への影響も含め、家族信託は法務だけでなく税務の観点も欠かせません。

第5章 家族信託を自分の家族の話として考えるために

家族信託は、仕組みとしては整理された制度ですが、実際に運用を開始するには、家族会議での合意形成、契約内容の設計、公証役場での手続きなど、一定の準備が必要になります。また、ご家庭ごとに、財産の種類や家族の関係性は大きく異なります。具体的な検討を始めるにあたっては以下のような視点から話し合っておくことが望ましいといえます。

1. 今のまま親が認知症になった場合、具体的にどの資産の管理が止まると困るのか
2. 将来、実家を売却する可能性があるのか、あるいは誰かが住み続けるのか
3. 親の死後、誰がどの財産を引き継ぐことが家族全員の納得につながるのか

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・司法書士などの各士業が連携し、家族信託の組成から登記、運用中の税務申告、さらには将来の相続手続きまでをワンストップでサポートする体制を整えております。現状の整理や方向性の検討段階からでも構いませんので、お気軽にご相談ください。

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監修者:後藤 祐太郎
弁護士後藤 祐太郎

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士後藤 祐太郎

  • 2010年
    日本大学法学部 卒業
  • 2012年
    慶應義塾大学大学院法務研究科 修了
  • 2014年
    竹口・堀法律事務所 入所
  • 2016年
    現:弁護士法人Nexill&Partners 入所 那珂川オフィス支店長 就任

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