家族信託を組んでいても、相続税の確認が不要になるわけではありません。委託者兼受益者である親が亡くなった場合、信託受益権をどのように相続税申告に反映するのか、信託契約書の内容によって課税関係が変わるのかを整理する必要があります。本記事では、家族信託と相続税の関係を中心に、信託財産の評価、相続税以外の税金、専門家に相談すべきポイントを解説します。
第1章 家族信託を組んでいても相続税の確認は必要
1-1 家族信託は相続税をなくす制度ではない
家族信託は、高齢の親の財産管理や将来の資産承継を円滑にするために活用される制度です。たとえば、親が委託者兼受益者となり、子が受託者として不動産や預貯金を管理する形がよく見られます。
もっとも、家族信託を組んだからといって、相続税が当然に軽くなるわけではありません。家族信託は、財産管理や承継先を設計する仕組みであり、相続税をなくす制度ではないためです。
そのため、相続税については、相続開始時点で誰がどのような権利を取得したのか、その権利がどのように評価されるのかを確認する必要があります。信託財産に不動産、預貯金、有価証券、自社株などが含まれている場合には、相続税申告の対象になる可能性があります。
1-2 相続税では信託受益権の内容と信託財産の評価を確認する
家族信託では、信託した財産の名義が受託者に移ることがあります。不動産を信託した場合も、登記名義だけで「親の相続財産には入らない」と考えるのは早計です。
税務上は、形式的な名義だけで判断するわけではありません。重要なのは、その信託財産から利益を受ける権利、つまり「信託受益権」を誰が持っているかです。
親が委託者兼受益者であり、子が受託者として不動産を管理している場合、親は信託財産から利益を受ける立場にあります。この親が亡くなった場合、相続税申告では、親が有していた信託受益権の内容や、死亡によって誰が権利を取得するのかを確認します。
信託税制上も、一定の場合には、受益者等が信託財産に属する資産や負債を有するものとみなして課税関係を判断します。
1-3 委託者兼受益者が亡くなった場合に確認すべき基本事項
相続発生後、最初に確認すべき資料は信託契約書です。家族信託では、契約書に「受益者が死亡した場合、信託を継続するのか」「次の受益者は誰か」「信託が終了する場合、残った財産は誰に帰属するのか」が定められていることが多いからです。
特に、委託者・受託者・受益者、信託財産の範囲、受益者死亡時の条項、次の受益者や帰属権利者、信託終了条件、借入金や未払費用、信託外財産の内容を確認します。
ここで注意したいのは、相続税申告は、信託財産だけを見れば足りるわけではないという点です。亡くなった方が、信託していない預貯金、生命保険、不動産、株式などを持っていれば、それらも相続税申告の検討対象になります。
1-4 信託が継続するか終了するかで税務上の整理が変わる
家族信託における相続税の検討では、受益者の死亡によって信託が終了するのか、それとも信託が継続するのかを確認する必要があります。
親の死亡によって信託が終了し、残った財産を子が取得する設計であれば、子が何を取得したのかを相続税の観点から整理します。一方、親の死亡後も信託が続き、次の受益者として配偶者や子が指定されている場合には、その受益権の取得について税務上の扱いを確認します。
第2章 家族信託で相続が発生した場合の相続税の基本
2-1 信託受益権は相続財産として扱われる可能性がある
家族信託で相続が発生した場合、相続税申告では、亡くなった方が持っていた信託受益権が相続財産として扱われる可能性があります。
信託受益権とは、信託財産から利益を受ける権利のことです。たとえば、信託不動産から賃料が発生しており、その賃料を親の生活費や医療費に充てる設計であれば、親は信託財産から経済的利益を受ける立場にあります。
税務では、信託財産の形式的な所有名義よりも、誰が実質的な利益を受けるかが重要になります。そのため、相続税申告の場面では、信託契約書を確認し、亡くなった方の受益権の内容と、死亡後にその権利を取得する人を整理する必要があります。
2-2 相続税申告が必要かどうかは基礎控除と財産評価で判断する
相続税は、遺産総額から債務や葬式費用などを控除し、一定の贈与財産などを加味した正味の遺産額が、基礎控除額を超える場合に申告・納税が必要になります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
たとえば、法定相続人が子2人であれば、基礎控除額は4,200万円です。この場合、信託受益権を含めた相続財産の評価額、信託外財産、債務、葬式費用、過去の贈与などを整理した結果、正味の遺産額が基礎控除額を超えるかどうかを確認します。
家族信託がある場合には、信託外財産だけでなく、信託受益権をどのように評価して相続税申告に反映するかを確認する必要があります。「信託財産は名義が受託者になっているから計算しなくてよい」と判断するのは避けるべきです。
2-3 信託財産と信託外財産を分けて整理することが重要
相続税申告では、信託財産と信託外財産を分けて整理することが大切です。
信託財産とは、信託契約によって受託者が管理している財産です。たとえば、信託契約書に記載された不動産、信託口口座の預金、信託された有価証券などが考えられます。
一方で、信託外財産とは、亡くなった方が信託していなかった財産です。
家族信託を組んでいると、相続人が「亡くなった方の財産はすべて信託財産に含まれている」と誤解することがあります。しかし、信託契約書に含まれていない財産は、信託外財産として別途確認が必要です。この切り分けが曖昧なまま進めると、申告漏れや相続人間の認識違いにつながる可能性があります。
2-4 相続税の申告期限は原則として10か月以内
相続税の申告期限は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限内に申告しなかった場合や、実際より少ない金額で申告した場合には、加算税や延滞税がかかる可能性があります。
家族信託がある相続では、信託契約書、信託財産の一覧、信託口口座の履歴、不動産の評価資料、受益者変更に関する条項、信託外財産の資料などを確認します。特に、不動産や自社株が含まれる場合、評価に時間がかかることがあります。
第3章 相続税申告で信託財産をどのように評価するか
3-1 信託受益権の評価は信託財産の内容から考える
相続税申告で重要になるのは、信託受益権をどのように評価するかです。評価は、信託契約書上の記載だけで機械的に決まるものではなく、信託財産や受益権の内容を踏まえて検討します。
財産評価基本通達では、元本と収益の受益者が同一人である場合には、(通達に定めるところにより)評価した課税時期における信託財産の価額によって評価する考え方が示されています。元本や収益の受益者が異なる場合、受益割合が分かれる場合などは、より慎重な評価が必要になります。
信託財産が預貯金だけであれば比較的整理しやすい一方、不動産、自社株、借入金、収益物件が含まれる場合には、評価方法が複雑になりやすいです。
3-2 不動産を信託している場合の評価の考え方
信託財産に不動産が含まれる場合、相続税申告では、その不動産の評価が重要になります。自宅、賃貸アパート、月極駐車場、事業用不動産など、不動産の用途によって評価の考え方が変わることがあります。
自宅の敷地であれば、路線価方式や倍率方式による土地評価が問題になります。賃貸アパートであれば、貸家建付地としての評価や、建物の評価、敷金・借入金なども確認対象になります。自社株や会社関係の不動産が信託財産に含まれている場合には、株式評価や会社資産との関係も確認が必要になることがあります。
また、不動産が信託されている場合には、信託契約書だけでなく、固定資産税評価証明書、登記事項証明書、信託目録、賃貸借契約書、賃料入金履歴なども確認します。ここで登記を確認する目的は、相続税申告に必要な権利関係と評価資料を整えるためです。
3-3 預貯金・有価証券・自社株を信託している場合の確認事項
預貯金を信託している場合は、相続開始日時点の残高を確認します。信託口口座がある場合には、残高証明書や入出金履歴を確認し、信託財産として管理されている金銭と、信託外の預貯金を分けて整理します。
有価証券を信託している場合は、相続開始日時点の評価額を確認します。
自社株が信託されている場合は、特に注意が必要です。非上場株式の評価は、会社規模、純資産、類似業種比準価額、会社の保有資産、直前期の決算内容などによって評価額が変わりますので、税理士に相談の上で株価算定を行ってもらうことが望ましいです。
3-4 小規模宅地等の特例が使えるかは個別に確認する
不動産を信託している場合、よく問題になるのが小規模宅地等の特例です。小規模宅地等の特例とは、一定の居住用・事業用・貸付事業用の宅地等について、相続税評価額を減額できる制度です。
家族信託の場合でも、取得した信託に関する権利の内容によっては、小規模宅地等の特例の適用が問題になることがあります。ただし、信託契約書の内容、受益権を取得する人、信託が終了するかどうか、居住実態、保有継続要件などを丁寧に確認する必要があります。
特に、自宅を信託しているケースでは、「家族信託をしているから小規模宅地等の特例は使えない」と決めつけるのも、「当然使える」と考えるのも危険です。適用可否は、信託契約書と実態を踏まえて税理士に確認する必要があります。
第4章 信託契約書の内容によって相続税の扱いが変わるポイント
4-1 受益者の死亡後も信託が続く場合
受益者である親が亡くなった後も信託が継続する設計の場合、次に誰が受益者になるのかを確認します。たとえば、第一受益者を父、第二受益者を母、第三受益者を子とするような設計です。
この場合、父が亡くなった時点で母が新たに受益権を取得するのか、または子が一定の権利を取得するのかを確認する必要があります。誰が、いつ、どのような権利を取得するかによって、相続税の課税関係が変わる可能性があります。
実務では、信託契約書の条文が抽象的で、次の受益者や帰属権利者の定めが分かりにくいことがあります。その場合、相続税申告を進める前に、契約書の解釈を整理しておく必要があります。
4-2 受益者の死亡によって信託が終了する場合
受益者の死亡によって信託が終了する設計の場合、残った財産を誰が取得するのかが重要です。信託終了時に残余財産を取得する人を、一般に帰属権利者といいます。
たとえば、親が亡くなった時点で信託を終了し、信託不動産を長男に、信託口口座の預金を長女に帰属させる設計が考えられます。この場合、信託契約書に基づいて誰が何を取得するのかを確認し、相続税申告に反映します。
4-3 受益者連続型信託では二次相続以降の相続税も確認する
受益者連続型信託とは、受益者が亡くなった場合に、次の受益者へ順次権利が移るように設計された信託です。たとえば、父の死亡後は母、母の死亡後は長男、長男の死亡後は孫、というように受益者が連続する形です。
このような設計では、一次相続だけでなく、二次相続以降の相続税も確認する必要があります。受益者連続型信託は、遺言では実現しにくい財産承継を設計できる点で有用な場合がありますが、税務上は慎重な検討が必要です。
特に、不動産や自社株など評価額が大きい財産が含まれる場合には、将来の相続税負担まで見込んだ確認が必要になります。
4-4 信託契約書と遺言書の内容が矛盾していないか確認する
家族信託を組んでいる方が、別途遺言書を作成していることもあります。この場合、信託契約書と遺言書の内容が矛盾していないかを確認する必要があります。
たとえば、信託契約書では信託不動産を長男に帰属させると定めている一方、遺言書では「すべての不動産を長女に相続させる」と書かれているような場合、相続人間で解釈の争いが生じる可能性があります。
また、信託財産は信託契約で承継先が決まっている一方、信託外財産は遺言や遺産分割の対象になるという形で、財産ごとに扱いが分かれることがあります。信託契約書、遺言書、財産目録を並べて確認し、必要に応じて弁護士に権利関係を整理してもらうことが重要です。
第5章 相続税以外に確認しておきたい税金と周辺手続き
5-1 信託不動産の賃料収入がある場合の所得税
家族信託で賃貸不動産を信託している場合、相続税だけでなく所得税も問題になります。信託期間中に賃料収入が発生している場合、その収益が誰に帰属するのかを確認する必要があります。
受益者等課税信託では、信託財産に帰せられる収益や費用を、受益者の各種所得の金額の計算に反映する考え方がとられます。親が受益者である間に賃料収入が発生していれば、原則として親の不動産所得として確定申告が必要になることがあります。親が亡くなった年については、準確定申告が必要になる場合もあります。
また、信託の内容や信託財産から生じる収益の状況によっては、受託者が信託の計算書などの税務書類を提出する必要がある場合があります。信託財産から収益が生じる場合には、相続税申告だけでなく、毎年の所得税申告や受託者側の税務手続も確認しておく必要があります。
5-2 信託財産を売却する場合の譲渡所得税
信託財産である不動産や株式を売却する場合には、譲渡所得税が問題になることがあります。
受託者が信託契約に基づいて信託不動産を売却した場合、形式的には受託者が売主として動くことがあります。しかし、税務上は、受益者等課税信託であれば、信託財産の譲渡による損益が受益者側に帰属するかを確認する必要があります。
たとえば、親が受益者である信託において、受託者である子が信託不動産を売却した場合には、受益者である親の所得税申告が必要になることがあります。また、親の死亡後に信託が継続し、次の受益者のために不動産を売却する場合には、誰の譲渡所得として処理するかを確認する必要があります。
居住用財産の特例や取得費加算の特例などが問題になることもありますが、適用要件は個別性が高いため、信託契約書、売却時期、居住状況、取得者、売却代金の帰属先を確認したうえで判断する必要があります。
5-3 不動産が移転する場合の登録免許税・不動産取得税
信託財産に不動産が含まれている場合、信託終了後に不動産を帰属権利者へ移転する場面があります。このとき、登録免許税や不動産取得税が問題になることがあります。
登録免許税は、登記を受ける際に課される税金です。土地や建物の所有権移転登記については、相続による移転、売買による移転、その他の移転など、登記原因ごとに税率が異なります。
また、相続による不動産取得については不動産取得税が非課税となる場面がありますが、信託終了に伴う不動産の移転では、取得原因や信託契約の内容によって課税扱いを確認する必要があります。
5-4 不動産がある場合は司法書士と連携して登記関係を確認する
信託財産に不動産が含まれている場合、登記関係の確認も必要になることがあります。家族信託と相続税を検討するうえで必要な範囲に限って、登記事項証明書や信託目録を確認するという位置づけです。
信託登記の変更、信託登記の抹消、所有権移転登記などが必要になる場合には、司法書士と連携して進めることが実務上有用です。
弁護士は信託契約書の解釈や権利関係の整理、税理士は相続税申告や所得税の確認、司法書士は登記申請の実務というように、役割を分けて進めることで、手続き全体を整理しやすくなります。
第6章 家族信託と相続税は契約書と税務の両面から確認することが大切
家族信託を組んでいる状態で相続が発生した場合、まず確認すべきことは、信託契約書の内容です。家族信託は、財産管理や承継先をあらかじめ設計できる有効な制度ですが、それだけで相続税の問題がなくなるわけではありません。
相続税申告では、亡くなった方がどのような信託受益権を有していたのか、死亡によって誰がその権利や利益を取得するのか、信託財産をどのように評価するのかを確認する必要があります。不動産、預貯金、有価証券、自社株などが信託財産に含まれる場合には、それぞれの財産の性質に応じた評価が必要です。
また、相続税だけでなく、所得税、譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税などが問題になる場合もあります。特に、賃貸不動産を信託している場合や、信託終了後に不動産が移転する場合には、相続税申告とは別の税務・登記関係の確認も必要になります。
もっとも、登記手続そのものは司法書士が取り扱うことの多い専門領域です。家族信託と相続税を検討する場面では、必要に応じて司法書士と連携することが大切です。
家族信託が関係する相続税対応では、信託契約書の解釈、相続税・所得税などの税務判断、不動産がある場合の登記確認が重なります。どこか一つだけを見て進めると、認識違いや申告漏れ、想定外の税負担につながる可能性があります。
家族信託を組んでいるご家庭で相続が発生した場合は、早い段階で信託契約書、財産資料、信託口口座の資料、固定資産税関係資料などを整理し、専門家に相談することをおすすめします。
Nexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士・司法書士などの士業が連携し、相続税申告、信託契約書や権利関係の整理などをワンストップで対応しています。信託契約書の内容や相続税の取り扱いに不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
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