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よかれと思った孫への教育資金が相続トラブルに?特別受益のリスクを抑える教育資金の渡し方を弁護士が解説

2026.07.14

孫の教育資金を援助したいと考える方は少なくありません。しかし、援助する金額が大きい場合や特定の子どもの世帯だけが経済的利益を受けているように見える場合には、相続発生後に他の相続人との間でトラブルに発展することがあります。本記事では、孫へ教育資金を贈与したい方に向けて、特別受益との関係、遺産分割で問題になりやすいケース、相続トラブルを防ぐために生前にできる対策を弁護士が解説します。

第1章 孫への教育資金と特別受益の関係

1-1 特別受益とは、生前の贈与を相続発生後に遺産総額に持ち戻す仕組み

孫への教育資金の援助が相続発生後に問題になるケースで、よく出てくる言葉に「特別受益」があります。
特別受益とは、共同相続人の一部が、被相続人から生前に特別な利益を受けていた場合に、その利益を遺産の前渡しとみて、相続発生後に相続人間の公平を調整する制度です。

例えば、相続発生時の遺産が2000万円で、相続人がABCDの4人の場合、何も調整しなければ、1人あたりの取り分は500万円です。
しかし、Aが被相続人から生前に400万円の贈与を受けていた場合、それが特別受益に該当すると判断されると、その400万円を遺産に持ち戻して計算します。その場合、2000万円に400万円を加えた2400万円を基準に相続分を計算するため、各人の取得分は600万円になります。
その結果、特別受益を考慮しない場合に比べて、相続人BCDの取得分は500万円から600万円になり、他方、相続人Aについては、600万円から既に受け取っている400万円を引くことになるため、相続発生後の取得分は200万円になります。

このように、特別受益とみなされるかどうかによって、相続人が相続発生後に取得できる金額が変わるため、孫への教育資金を渡す場合にもそれが特別受益とみなされないよう配慮することが望ましいといえます。

1-2 孫への生前贈与は原則として特別受益にならない

もっとも、特別受益の対象となるのは原則として共同相続人です。
通常、祖父母が亡くなった場合の相続人は、配偶者や子どもです。子どもが存命であれば、孫は原則として相続人にはなりません。
そのため、祖父母が孫に教育資金を援助しても、その孫が相続人でない限り、孫への贈与がそのまま特別受益として扱われる可能性は高くありません。

1-3 例外的に遺産分割で問題になる可能性があるケース

孫への贈与は原則として特別受益に該当しないものの、例外的に遺産分割の場で問題にされるケースがあります。
例えば、次のようなケースです。

孫自身が代襲相続人や養子として相続人になる場合

例えば、被相続人の子が先に亡くなっており、その子である孫が代襲相続人となっている場合や、孫が被相続人の養子になっている場合、孫は相続人になります。この場合、孫への教育資金贈与は、相続人に対する生前贈与として評価される可能性があります。

名目は孫への教育資金でも、実質的に親への援助と見られる場合

孫への教育資金として支払っていた場合でも、実質的に、孫の親である被相続人の子への援助と評価されることがあります。例えば、被相続人の子が経済的に困窮しており、本来であれば自分たちで支払うべき学費を被相続人がすべて肩代わりしているようなケースです。このような場合、「孫への贈与という形を取っているだけで、実際には親自身が援助を受けていたといえるのではないか」として、生前贈与を主張される可能性があります。

第2章 相続トラブルを防ぐ教育資金の渡し方

孫の教育資金は、実際の援助の仕方にもポイントがあります。支払先や時期、記録の残し方などを工夫することで、他の相続人からの誤解や不公平感を防ぎやすくなります。

2-1 親の口座ではなく、学校や塾へ直接支払う

孫への教育資金は、それが本当に教育資金として使われたことが分かる形で支払うことが大切です。
そのため、可能であるなら、学校の入学金や授業料、塾代、予備校費用などは、それぞれの教育機関などへ直接支払う方法が望ましいといえます。
反対に、実務上、問題になりやすいのは、祖父母が孫の親である子どもの口座にまとまった金額を振り込んでいるケースです。名目上は孫の学費だったとしても、親の口座に入ってしまうと、その後どのように使われたのかが説明しにくいためです。
学校や塾への直接支払いであれば、その支出が孫の教育のためであったことを説明しやすくなります。

2-2 まとまった金額を一括で渡すより、必要になった時に都度支払う

「将来の教育資金として使ってほしい」として数百万円や数千万円を一括で渡すよりも、必要な時期に、必要な金額を都度支払う形にした方が、後日の説明がしやすくなる点もポイントです。
たとえば、大学の入学金が必要になったタイミングで入学金と同等の金額を渡す、前期・後期の授業料の請求が来たタイミングで授業料と同等額を渡す、といった方法です。
教育費の発生に合わせて都度支払っていれば、その資金が孫の教育のために使われたことが分かりやすくなります。

第3章 遺言書で贈与の趣旨を明確にする

3-1 孫への教育資金贈与について付言事項で考えを残す

孫への教育資金贈与をめぐる相続トラブルを防ぐうえで、遺言書の活用は非常に重要です。
遺言書には、財産の分け方だけでなく、付言事項を使って自身の意思やその選択に至った経緯を書き残すこともできます。
例えば、「孫への教育資金の援助は、孫の就学や将来の成長を応援することを目的として行ったものであり、特定の子どもを優遇する意図はない」といった援助の趣旨や自身の思いを明記しておくことで、他の子どもたちからの不要な誤解や不信感を和らげやすくなります。

3-2 特別受益と評価される場合に備えて「持ち戻し免除の意思表示」を検討する

遺言書の中で「持ち戻し免除の意思表示」をしておく方法も有効です。
持ち戻し免除の意思表示とは、生前に行った贈与について、相続発生後に遺産の総額へ足し戻して計算しなくてよい、という被相続人の意思を明らかにするものです。

付言事項には法的効力がありませんが、この意思表示には法的効力があります。
そのため、仮に他の相続人から「孫への教育資金援助は、実質的には子どもへの特別受益ではないか」と主張された場合でも、持ち戻し免除の意思表示が有効に残されていれば、原則として、その贈与分を遺産分割の計算に持ち戻さない扱いにすることができます。

持ち戻し免除の意思表示は、法律上は口頭でも成立し得ますが、口頭の場合、「本当にそのような意思があったのか」が争われるおそれがあります。そのため、公正証書遺言の中で明確に残しておくことが望ましいといえます。

第4章 生前の説明と記録の整理

4-1 孫への援助に関する事実をあらかじめ共有する重要性

特定の孫に対して教育資金の支援を行う際、相続発生後の対立を防ぐために重要となるのが、生前から他の子どもたちへ支援の事実を共有しておくことです。
実際、相続開始後に初めて特定の世帯だけが教育資金を受け取っていた事実を知ったという経緯自体が、他の相続人の不信感や、感情的な対立につながることも少なくありません。

家族会議などの場を設け、特定の孫に援助を行う客観的な理由や自身の思いを直接伝えるのがいいでしょう。進学に伴う援助の必要性を説明すると同時に、過去に他の子どもが結婚費用や住宅購入資金の援助を受けていたことがあるなら、それらの事実も合わせて整理することで、孫への援助だけが特別ではないことが理解されやすくなります。

4-2 金額・支払先・使途が分かる記録を残しておく

家族への直接的な説明と並行して、孫への資金援助に関する客観的な記録を残しておくことも重要です。
入学金や授業料を支払った際の領収書、振込用紙の控えなどを保管します。
現金を直接手渡すのではなく、金融機関の口座振り込みを利用し、通帳の履歴にメモを残しておくことも有効です。
こうした記録によって時期や金額が明確になり、援助が教育資金の範囲内であることが客観的にみても分かりやすくなります。

第5章 まとめ

孫への教育資金の生前贈与は、孫が相続人でない限り、原則として特別受益にはなりにくいと考えられます。ただし、援助額が高額である場合や、教育費だけでなく生活費なども援助したように見える場合には、相続発生後にトラブルに発展する可能性も否めません。
不要な誤解を生まないために、生前にできる対策の一つが遺言書の作成です。
遺言書によって自身の意思を明確に残しておくことは、特定の子どもを守るためだけのものではありません。援助を受けた子ども、受けていない子どもを含め、子どもたち全員が親の考えを理解し、不要な疑念を抱かずに相続を迎えるための大切な準備といえます。

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監修者:後藤 祐太郎
弁護士後藤 祐太郎

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士後藤 祐太郎

  • 2010年
    日本大学法学部 卒業
  • 2012年
    慶應義塾大学大学院法務研究科 修了
  • 2014年
    竹口・堀法律事務所 入所
  • 2016年
    現:弁護士法人Nexill&Partners 入所 那珂川オフィス支店長 就任

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