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コラム

遺言で遺留分を認めないと書かれていたら何ももらえない?無効になる場合と請求できるケースを弁護士がわかりやすく解説

2026.05.13

被相続人の遺言書に、「特定の相続人にしか財産を渡さない、他の相続人の遺留分は認めない」といった内容が書かれていると、自分は何ももらえないのではないかと不安になるかもしれません。しかし、遺言書で遺留分を否定されていたとしても、そのまま認められるとは限りません。ただし、何も対応しなければ結果として財産を受け取れないこともあり得ます。本記事では、遺留分を認めない遺言があった場合の基本的な考え方と結論が変わるポイントを弁護士が解説します。

第1章 遺言書に遺留分を認めないと書かれていても直ちに権利は失われない

1-1 遺言よりも優先される「遺留分」という法的に保護された権利

遺留分とは、一定の相続人に対して法律上保障されている最低限の取り分のことをいいます。被相続人は遺言によって自由に財産の分配を決めることができますが、その自由には一定の制約があり、配偶者や子などの生活を保護する観点から、この遺留分の制度が設けられています。
そのため、遺言書において「特定の相続人に全ての財産を渡す。他の相続人の遺留分は認めない」とする記載があったとしても、遺留分を有する相続人については、その最低限の取り分を主張できる余地があります。

1-2 遺言の内容は維持されるが、遺留分の範囲で調整される

先述の通り、遺留分は民法で定められた制度であり、遺言によって一方的に排除できる性質のものではありません。ただし、遺留分は遺言の内容そのものを無効にする制度ではありません。
そのため、遺留分によって遺言の内容全体が直ちに無効になるわけではなく、遺留分を侵害している範囲に限って、遺留分を侵害されている相続人が金銭請求を行うことができるという関係になります。

1-3 何もしなければ結果として財産を受け取れなくなる可能性もある

重要なのは、遺留分は自動的に支払われるものではないという点です。
遺留分を侵害されている相続人は、自ら遺留分侵害額請求という手続を行う必要があります。この請求を行わなければ、遺言の内容どおりに財産が分配され、その結果として何も受け取れない状態に至るおそれがあります。
また、遺留分侵害額請求には、相続開始と侵害を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内という期限が設けられています。
そのため、対応を先送りにしているうちに請求できなくなることも考えられます。遺言に何も相続させないと書かれているから仕方がないと考えて対応しないままでいると、結果として一切財産を受け取れなくなってしまう可能性があります。

第2章 遺留分が認められる人と認められない人の違い

2-1 遺留分が認められる人:配偶者・子・直系尊属

遺留分が認められるのは、すべての相続人ではありません。民法上、遺留分を有するのは、被相続人の配偶者、子(またはその代襲相続人)、そして子がいない場合の直系尊属(父母など)に限られます。
これらの相続人については、遺言によって財産を与えないとされた場合でも、一定割合の遺留分を請求することが可能です。

2-2 遺留分が認められない人:兄弟姉妹

一方で、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。例えば、被相続人に配偶者や子、親などがいない場合には、兄弟姉妹が相続人となりますが、それでも遺留分は認められない点に注意が必要です。
そのため、遺言書に「兄弟姉妹には相続させない」「特定の人にすべての財産を渡す」といった内容が記載されている場合には、兄弟姉妹は相続人であっても、遺留分を根拠としてその内容を覆して財産を請求することはできません。
この点は案外誤解が多く、自分も相続人である以上、最低限の取り分はあるはずだと考えてしまう方も少なくありません。しかし、遺留分が認められるかどうかは相続人であるかとは別の問題であり、兄弟姉妹については制度上その対象外とされています。

このように、自分が遺留分を有する立場にあるかどうかは、最初に確認しておくべき重要なポイントといえます。

2-3 相続廃除・相続欠格に該当する場合は遺留分も失われる

もっとも、配偶者や子であっても、一定の場合には、遺留分を含めて相続権そのものを失うことがあります。その代表的なものが、相続廃除や相続欠格です。
相続廃除とは、被相続人に対する重大な非行がある場合に家庭裁判所の手続により認められるものです。例えば、継続的な暴力や虐待、重大な扶養義務違反、財産の無断処分などが典型例です。
一方、相続欠格は法律上、当然に相続権を失うもので、被相続人を死亡させようとした場合や遺言の作成を強要した場合、遺言書を偽造・隠匿した場合などが該当します。
これら相続廃除や相続欠格に該当する場合には、相続権そのものを失い、遺留分も請求できません。
相続廃除や相続欠格は、家庭裁判所で正式に認められる場合や、遺言書の偽造・隠匿、被相続人に対する重大な加害行為などがある場合に限られるものです。言い換えれば、単に親子関係が悪い、長年疎遠であるといった事情だけで遺留分が失われることは通常ありません。

第3章 遺留分があっても実際に受け取れるかは個別事情で変わる

3-1 生前贈与や特別受益の影響で請求額が変動する仕組み

遺留分の金額は、単純に現在残っている遺産だけで決まるわけではありません。被相続人が生前に行った贈与の内容によっては、その金額が計算の基礎に加算されることがあります。
例えば、生前の被相続人から多額の贈与を受けていた場合、その分はすでに財産を受け取ったとみなされ、遺留分から差し引かれることがあります。
また、金銭の贈与だけでなく、特定の相続人のみが学費や生活費の援助を受けていた等も特別受益として遺留分の算定時に影響する場合があります。
どの贈与や援助が対象になるのか、また、どれくらい過去まで遡って考慮されるのかは、ケースによって見解が分かれやすい点です。

3-2 遺留分の金額はどのように決まるのか

遺留分としてどの程度の金額を請求できるのかは、被相続人の財産全体の価額と、相続人の立場によって決まります。
遺留分として請求できる金額は、被相続人の財産の合計額に対して、法律で定められた割合で算定されるのが基本となります。請求者が配偶者である場合には相続財産全体の2分の1が遺留分の対象となり、子(孫などの直系卑属を含む)である場合には2分の1を人数に応じて分配するのが原則です。
ただし、実際の金額は単純に計算できるものではなく、遺言書の内容によっても大きく左右されます。例えば、「長男にすべての財産を相続させる」とする遺言がある場合には、遺留分請求をした他の相続人と長男の取り分には差が生じます。遺留分はあくまで最低限の取り分にとどまるため、遺言による長男への優遇が一定程度反映されるためです。

3-3 財産の範囲や内容によって請求額がゼロに近づく場合

遺産の内容によっては、遺留分として請求できる金額がほとんど残らないケースもあります。たとえば、被相続人の財産が少なかったり、多額の債務があったりする場合です。
また、前述のとおり、請求者自身が生前に多くの贈与を受けていた場合には、それが特別受益と認められるとその分が差し引かれるため、計算上の遺留分がほとんど残らないこともあります。

第4章 遺留分をめぐって実務で問題になりやすいポイント

4-1 財産調査の難しさと見落としによる不利益

遺留分の金額を正確に把握するためには、被相続人の財産の全体像を把握する必要があります。しかし、遺言によって特定の相続人に財産が集中しているような場合には、遺留分を請求する側は被相続人の資産状況を明確に把握できない立場に置かれることも少なくありません。
例えば、被相続人の預貯金の残高や取引履歴に加え、株式や投資信託といった有価証券についても、そもそもどのような資産が存在しているのか自体が分からないというケースもあります。また、預貯金の取引履歴が分からなければ、生前に贈与等が行われていたのかどうかを把握することも難しく、相手方から情報が開示されない限り、正確な前提をつかめないまま交渉を進めざるを得ない状況になります。
このように、前提となる財産の情報を十分に把握できないまま交渉を進めてしまうと、本来よりも少ない金額で合意してしまうおそれがあります。

4-2 不動産や非上場株式の評価を巡る争い

仮に財産の内容自体はある程度把握できたとしても、その価値をどのように評価するかによって、遺留分の金額も変わります。特に、不動産や非上場株式といった資産については、評価方法によって金額に差が生じやすい分野です。
例えば、不動産であれば固定資産税評価額や相続税評価額、実際の売却価格など複数の考え方があり、どの水準を前提にするかによって評価額が変わります。算定方法によって評価が大きく変わる可能性があるのは非上場株式の評価についても同様です。
このように、評価の前提をどこに置くかが争点となるケースでは、単に話し合いだけで解決することが難しく、専門的な整理を踏まえて交渉を進める必要が生じます。こうした点も、遺留分の問題が自力での解決が難しくなる理由の一つといえます。

第5章 遺留分を取り戻すために必要な具体的な対応

5-1 遺留分侵害額請求の意思表示は1年以内に行う

遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。
意思表示の方法としては、後日の証拠として残るよう内容証明郵便を利用するのが一般的です。ただし、「遺留分侵害額請求を行う」という意思が明確に示されていない場合には、時効を止めるための有効な権利行使と認められない可能性があります。
例えば、「納得できないので話し合いたい」といった表現にとどまっている場合や、誰に対してどの権利を行使するのかが明確でない場合には、請求として不十分と評価されるおそれがあります。そのため、意思表示の内容は法的に意味のある形で行う必要があります。

5-2 話し合いがまとまらない場合の調停・訴訟への移行

遺留分の請求は、まずは当事者間の話し合いで解決を目指すのが通常です。もっとも、遺言によって自分には財産を相続させないとされている場合には、相手方との立場の隔たりが大きく、当事者同士の話し合いだけでは合意に至らないケースも少なくありません。
このような場合には、家庭裁判所での調停での話し合いでの解決もしくは訴訟での解決を目指すこととなります。
本人同士でのやり取りでは埒が明かない場合には、一度弁護士に相談の上で裁判所を使っての解決に切り替える方向性も検討をされるのがよいでしょう。

第6章 遺留分対応で起こりやすい失敗例

ここまで見てきたとおり、遺留分の問題は、制度の理解だけでなく実際の対応の仕方によって結果が大きく変わります。これまで触れてきたポイントの中でも、特に問題になりやすい失敗例を整理します。

6-1 内容証明の送り方を誤り、権利行使が認められないリスク

遺留分侵害額請求は、期限内に意思表示を行うことが重要ですが、その内容が曖昧であったり、請求の趣旨が明確でなかったりすると、適切な権利行使と評価されないおそれがあります。この意思表示が、法的に効力がある形かどうかは必ず確認が必要です。

6-2 遺留分の対象財産を見誤り、本来より少ない金額で合意してしまう

財産の全体像を十分に把握しないまま交渉を進めてしまうと、本来であれば請求できたはずの金額よりも低い水準で合意してしまうことがあります。
特に、生前贈与の有無や不動産等の評価方法の違いによって請求額は大きく変わるため、前提となる事実関係の整理が不十分なまま合意することには注意が必要です。

6-3 税務を考慮せずに解決し、後から思わぬ税負担が発生する

遺留分の解決にあたっては、金額面だけでなく、その後の税務処理も考慮する必要があります。特に、既に他の相続人によって相続税の申告が行われている場合には、更正の請求などの手続が必要になることもあります。
これらの手続を適切に行わないまま解決してしまうと、本来であれば修正できたはずの税額がそのままとなり、余分な税負担が生じる可能性があります。また、申告内容との整合性が取れていない状態のまま放置すると、事案によっては過少申告と評価され、加算税や延滞税が課される可能性もあります。

第7章 遺留分を認めない遺言があっても対応次第で結果は変わる

ここまで見てきた通り、遺言書に「自分には財産を相続させない」と記載されていたとしても、それだけで直ちに何も受け取れなくなるわけではありません。遺留分という制度によって、一定の範囲で財産を請求できる可能性は残されています。
ただし、遺留分は自動的に確保されるものではなく、期限内に適切な手続を行わなければ結果として何も受け取れなくなる可能性もあります。また、実際にどの程度の金額を請求できるのかは、遺言の内容や財産の状況、生前贈与の有無などによって大きく左右されます。
このように遺留分の問題は、実際には個別事情によって判断が分かれる場面が多く、どのように対応すべきか迷うケースが少なくありません。
遺留分の基本的な考え方や全体像については、以下のページでも整理していますので、あわせてご確認ください。

遺留分侵害額請求とは何か(基礎解説)

https://nexillpartners.jp/law/sozoku/blog/230404/

遺留分の問題について、自分のケースでどのような対応が適切か判断に迷う場合には、弁護士・税理士などが連携して対応できる体制を活用することも一つの選択肢といえます。私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、相続に関する法務・税務を一体としてサポートしていますので、状況に応じた対応を検討したい場合には、お気軽にご相談ください。

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監修者:松﨑 洋二
弁護士松﨑 洋二

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士松﨑 洋二

  • 2015年3月
    私立九州学院高等学校 卒業
  • 2015年4月
    福岡大学法学部 法律学科 入学
  • 2018年3月
    福岡大学法学部 法律学科 早期卒業
  • 2018年4月
    福岡大学法科大学院 入学
  • 2021年3月
    福岡大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

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