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相続放棄コラム

相続放棄・限定承認の取消申述受理と相続放棄の無効

2021.01.24

相続の承認と放棄について、下記のような事例を挙げてみます。

先日、事業家の父が多額の負債を抱えたまま亡くなりました。
父の相続人は、母、長男である私と二男の3人ですが、負債を返済するだけの資力はとてもありません。
私たち3人にはどのような方法があるでしょうか。

このような時ですが、次の2点の対処方法があります。

①限定承認
相続人全員で限定承認を行い、お父さんの残した財産の範囲で借金を返済するという方法
②相続放棄
お父さんの残した財産は借金を含めて一切相続しないという方法

1.相続の放棄と承認

相続の承認と放棄被相続人の死亡によって相続が開始すると、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになります。

しかし、この「一切の権利義務」には、借金などの債務も含まれます。その為、仮に相続によって被相続人の財産と債務が当然に承継されるとすると、被相続人が債務超過の状態で死亡した場合には、相続人の不利益となります。

また、相続人によっては、被相続人のプラスの財産であってもその承継を望まない場合もあるでしょう。

そこで民法は、相続の承認と放棄という選択を認めています。

①相続の承認

相続の承認には、単純承認と、限定承認の2つの方法があります。

相続の承認
1)単純承認…被相続人の財産に属した権利義務を無限に承継
2)限定承認…相続によって得た財産の限度でのみ被相続人の債務と遺贈を弁済するという条件で被相続人の権利義務を承継
相続の放棄相続人の権利義務の承継をすべて拒否

②相続放棄

相続放棄とは、被相続人が残した財産をすべて相続しないということを指します。

相続の承認・法規いずれの場合においても、原則として相続人が被相続人の死亡の事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3カ月の熟慮期間内に行う必要があります。

2.取消申述受理の効果

相続放棄・限定承認の取消申述受理相続放棄・限定承認の取消申述受理の審判がなされると、放棄・限定承認ははじめからなかったことになるのです。
熟慮期間中であれば、改めて放棄・限定承認の手続きをすることができますし、熟慮期間後であっても遅滞なく申述手続きを行えば、放棄・限定承認をすることができるのです。

しかし、相続放棄・限定承認の取消申述受理の審判がなされても、両者は併存し、既になされた相続放棄や限定承認の申述が取り消されるわけではありません。

そこで、相続放棄を前提に既に遺産分割が行われ、他の相続人が不動産について移転登記手続きを行ったり、現金や宝石などの動産類の分配を受けているとき、相続放棄の取消の申述手続き受理がされても、当然に当該遺産分割が無効になったり、登記の是正や動産類の引渡しを請求できるというわけではありません。このとき、遺産の分配を受けた相続人の協力を得て、登記の是正や動産類の引渡しを受けることになります。

相続人の協力が得られない場合は、遺産分割の調停を申し立て、その手続きの中で相続放棄の取消を主張し、遺産の分配について話し合うか、または、相続人全員を相手方として遺産確認の訴えを提起し、前提問題として相続放棄の取消を主張、立証することになります。

3.相続放棄の無効

民法919条2項は、相続承認・放棄の取消について定めているのみで、相続放棄に無効原因が存在する場合については触れていません。しかし、無効の主張も可能であると解されています。(例えば相続放棄が錯誤により無効であることを主張する、虚偽表示や心裡留保に該当し向こうであると主張する等)

相続放棄の無効の方式は、取消の場合のような規定がないので、家庭裁判所に申述するという方式をとることはできません。
判例は、相続放棄無効の確認訴訟は不適法であるとしており、相続放棄自体の無効確認訴訟を認めてはいないのです。
したがって、相続承認・放棄の無効主張については、裁判上もしくは裁判外において、相続に基づく法律関係の前提問題として主張します。

判例は、相続放棄についての錯誤無効の主張につき⑴相続税の軽減目的により放棄したが、高額になり目的を達せられなかった事例⑵他の相続人も放棄することを想定して放棄したが、自己が予想していた通りにならなかった事例において、いずれも動機の錯誤にあたり,民法95条の適用はない(無効を主張することはできない。)としています。

しかし、下級審においては、相続放棄の際の動機に錯誤があった場合に、民法95条の適用を認めた裁判例(東京高裁)や被相続人から多額の債務があると告げられていたため相続放棄をしたが、反対に多額の債権の存在が判明した場合、民法95条の適用を認めた裁判例(高松高裁)もあります。

また、相続放棄と同様の効果を有する共有持分権の放棄が虚偽表示であると主張した場合について、判例は当該放棄の意思表示が相手方と通じてなされた虚偽のものであるとして民法94条の適用を認めています。(最高裁)

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