例えば、子供達のうち、老後の面倒を見てくれているこの子だけに財産を残したいといった思いを持っており、その子に全部の財産を相続させるという内容の遺言書を作成したとしても、他の子達も遺留分も持っており、亡くなった後にその子に対し、遺留分侵害額請求がなされた場合、その子は遺留分に応じた金銭を支払う必要があります。
遺留分がある以上、すべての財産を特定の子に相続させることは出来ませんが、少しでも支払う遺留分侵害額を減らす方法について、解説していきたいと思います。
遺留分侵害額請求について
まず、遺留分とは、相続人に最低限保障される遺産取得分であり、兄弟に遺留分はありません。
そして、最低限保障される遺産取得分とは、原則として自己の法定相続分の2分の1(例外として、法定相続人が被相続人の尊属のみであれば、自己の法定相続分の3分の1となります)となります。
そして、遺留分侵害額請求の時効、すなわち侵害額請求が出来なくなるのは、①遺留分の侵害を「知った時」(相続開始と遺留分が侵害されている遺言書等の存在を知ったとき)から1年又は②相続開始から10年となります。
②については、そもそも亡くなったことを知らないで10年経過したとしても、遺留分侵害額請求は出来ないこととなります。
方策について
遺留分を減らすためには、遺留分の対象となる財産を減らすことが必要となります。
(1)生命保険
まず、多額の一時払い終身保険に加入して、生命保険金の受取人に特定の子を指定することが考えられます。
相続税対策との関係では、法定相続人×500万円までが控除枠となりますので、それを超える生命保険に加入したとしても相続税対策とはなりませんが、生命保険金は遺留分の対象となる財産に含まれませんので、生命保険に加入することは遺留分を減らすためには非常に有効的な手段となります。
もっとも、生命保険金を遺留分の対象となる財産としないことが、「到底是認できないほど著しい不公平が生じる場合」には特別受益に該当するとして、遺留分の対象とされることになります。
この「到底是認できないほど著しい不公平が生じる場合」とは、保険金額と遺産総額に対する比率を基礎事情として、同居の有無、被相続人の介護などに対する貢献の程度、他の相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態といった付随的事情も総合的に考慮した上で判断されることになりますが、保険金額と遺産総額に対する比率が50%を超えるかどうかが1つの目安にはなります。
上記点は、複雑な法的な判断を伴いますので、生命保険による遺留分対策を考えておられる方は、事前に弁護士に相談されることをお勧めいたします。
(2)生前贈与
生前贈与について、相続人に対する生前贈与は相続発生から10年以内、相続人以外に対する生前贈与は1年以内の分について、遺留分の対象となります。
そうしますと、特定の子に対して生前贈与をした後に10年経過すれば、遺留分の対象とならないことになりますので、早めの対策が必要となります。
また、相続人以外に対する生前贈与は1年以内ですので、相続人ではないお孫さん等に生前贈与をすることで、遺留分の対象となる可能性を大幅に減らすことが出来ます。
(3)養子縁組
その他、相続人以外と養子縁組をする事により、頭数が増えることで遺留分の割合自体を減らすことが出来ますし、相続税は相続人が1人増える毎に600万円の控除枠が出来ますので、相続税対策にもなります。
まとめ
以上のとおり、遺留分侵害額として請求される額を減らす方法を幾つかご紹介いたしましたが、複雑な法的問題が絡む内容となりますので、遺留分対策を検討される際には、弁護士等の専門家に相談されることをお勧めいたします。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。