前回では、遺留分とは何かというところと改正前の民法では、特別受益の持ち戻しの部分と、遺留分減殺請求が目的物の返還請求だったというところが問題視されていたというところまでご説明をしておりました。
前回の記事はこちら:遺留分の概要と遺留分減殺請求の問題点
では、具体的に民法改正で遺留分の制度がどう変わったか、ポイントは2つです。
①遺留分額の算定に含める特別受益は、相続開始前10年間にしたものに限る
特定の相続人に対して遺留分を請求する場合、遺留分の額を計算する必要がありますが、前回お伝えした通り、従来の民法では、相続人が受けた特別受益については、何十年も前のものであっても遺留分の対象として、遺留分算定の基礎となる遺産総額に持ち戻すことになっていました。
しかし、過去に遡る期間に制限がないという点で、過去の贈与についてどこまでを遺留分の算定に含めるかというところで揉め事になるケースが多かったのです。
そこで、今回の法改正では、「遺留分の算定に含める特別受益は相続開始前10年間に行ったものに限る」という制度に変更され、際限なく遡って算定額に含めるということはなくなりました。
②遺留分「減殺請求」から遺留分「侵害額請求」へ変更、目的物の返還ではなく金銭の支払い請求に
遺留分減殺請求は、目的物の返還請求であったので、実際に遺留分の権利を行使された場合に問題になることがありました。
例えば、相続した遺産が不動産のみの場合で、他の相続人から遺留分の減殺請求を起こされた場合は、「あなたが相続した不動産の一部を返還してください」という請求となるので、不動産は受遺者と遺留分の権利者の共有のものとなってしまいます。
共有名義になってしまうと、売却がしにくいなど、後に不都合が起こる可能性も高くなりますので、できれば避けたいところですよね。
また、被相続人が会社の経営者だった場合、事業で必要な株式や不動産を、次期社長に相続させる必要がでてくるかと思いますが、同じく遺留分減殺請求を起こされた場合、特定の人物に相続させたかった不動産や株式が他の相続人と共有状態になってしまうので、事業承継に支障がでてくる可能性もあったのです。
このように、目的物の返還請求だと様々な問題点もあったため、改正後の相続法では、遺留分の権利者が行使できることが、目的物の返還請求ではなく金銭の支払請求に変わり、呼び方も「減殺請求」から「侵害額請求」になりました。
これにより、遺留分を請求された場合でも、遺留分相当額の金銭の支払い請求となるので、目的物が共有化されてしまうという面は解消されることになりました。
なお、ここで補足ですが、遺留分は何もせずとも当然に認められるものではありませんので、仮に、遺留分が侵害されていた場合でも、それに異存がない場合は請求をしなくても構いません。あくまで、行使するかどうかは権利者が自由に決めていいものになります。
以上が、遺留分制度に関して今回の民法改正で変わった点になります。
実際に遺留分の請求をするとなった場合は、相続の開始があったことを知った日から1年以内に行わなければなりませんので、期限には注意が必要です。
また、遺留分が認められる相続人であっても、①相続放棄、②相続欠格、③相続廃除のいずれかに該当する場合は、遺留分の請求ができませんのでご注意ください。
特定の相続人や相続人でない第三者に財産を承継させたいという方もいらっしゃるかと思いますが、遺留分は、一定の範囲内の相続人には当然に認められる権利のため、揉め事になりやすいところです。
遺留分に配慮した相続の仕方を考えることで、相続発生後のトラブルの予防にもつながりますので、少しでも気になる点がある方は、早めに専門家にご相談されることをお勧めします。