「自分の死後、妻や子ども達に遺産を遺したいが、妻や子ども達がきちんと遺産を管理・運用できるか心配」といったお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。
今回は、そのようなお悩みをお持ちの方にぜひ知っていただきたい、「遺言信託」についてご説明します。
1. 遺言信託ってなに?
そもそも、信託という言葉はどういう意味なのでしょうか?
信託とは、信託を設定する「委託者」が、契約、遺言、公正証書等による意思表示のいずれかの方法により、「受託者」となる特定の者に、一定の目的に従って財産の管理又は処分及びその他目的の達成のために必要な行為をさせることをいいます。(信託法2条1項、3条参照。)
そして、「遺言によって信託を設定すること」を「遺言信託」といいます。
法定相続とは異なる形で、自分の相続人以外(知人・友人等)にも遺産を遺したい場合、遺言だけではその意思を達成することができないことがあります。
遺言を遺すことで、相続時点での被相続人の意思を実現することはできますが、被相続人の死亡後は相続人に相続財産が帰属されるため、相続後の財産の帰属や分配については、遺言が被相続人の希望を実現する手立てにならない場合があるのです。
また、相続人が幼少であったり、障害を持っていたり、あるいは認知症が進んでいたりと、相続人の管理能力が乏しく適切な形で財産管理を行うことが難しい場合もあります。このような場合に、被相続人の意思の実現を可能とする有効な手段が「遺言信託」です。
遺言信託を行い自分の信頼できる人に遺産の管理を託すことで、相続人に安定的に遺産を帰属させることができます。
つまり、遺言だけでは被相続人の意思を実現できない場合でも、遺言信託を行うことによって、被相続人の希望を実現することが可能になるのです。
2. 遺言信託の具体例
それでは、遺言信託がどのように行われるか、具体例を見てみましょう。
『自分の死後、1人残される子どもに遺産を遺したい。しかし、子どもがまだ幼いため、多額の遺産を管理することは難しい。』
上記のような場合、被相続人は自分の遺産の管理を信頼できる者に託し、自分の死後も子どもに生活費等を定期的に支給するよう、遺言によって信託を設定します。
このとき、被相続人を「委託者」、遺産管理をする人を「受託者」、それによって利益を受ける子どもを「受益者」といいます。
まず、委託者は遺産を管理する受託者を選定し、自分の遺産を「信託財産」として受託者へ移転します。受託者は、信託財産を管理・運用して受益者の利益を確保します。
受託者には、信託財産を適正に管理・運用する義務があり、万が一その任務を怠ったことにより信託財産に損失が生じた場合は、その責任を負うことになります。
そのため、受託者の選定は非常に重要です。受託者は親族がふさわしい場合もあれば、弁護士が適任の場合や、信託財産の管理運用等に専門的な知識や経験を要する場合などは信託会社あるいは信託銀行がふさわしい場合があります。
遺言信託にかかる費用としては、遺言作成にかかる費用、及び受託者が信託財産を管理するのにかかる費用、また受託者への報酬を準備する場合にはその報酬等が挙げられます。
3. 信託銀行等が扱う遺言信託とは
遺言信託には、「遺言によって信託の設定を行う」という意味の他に、信託銀行等が取り扱う「遺言の作成と執行に関する一連の関連業務を行うサービス」という意味を指す場合もあります。
近年、このサービスとしての遺言信託が普及しており、信託銀行等自らこのサービスを遺言信託と呼ぶこともあるため、世間一般的に認識されている遺言信託という言葉はこのサービスとしての遺言信託を指すことが多いです。
このサービスとしての遺言信託は、上記1.2でご説明した「遺言信託」とは全く異なるものになります。
信託銀行等が取り扱う遺言信託は、遺言書の作成から保管までをサポートしたり、遺言者の死亡後も引き続き遺言執行者として遺言内容を実現したりと、多岐にわたる幅広い業務を行っています。
また、預貯金の名義変更や不動産の相続登記、相続税の申告など、相続後の複雑な手続きを行う場合もあります。自分の死後の遺産処分や遺言執行業務について、安心して任せられる人が欲しいといった方におすすめです。
このサービスとしての遺言信託は、信託銀行等の商品であることから利用の際には報酬が必要になり、多くの場合「相続財産の相続税評価額の〇%」といった設定がなされています。
報酬が高額になるケースも多いため、多額の財産を所有している人向けの相続サービスであるともいえます。
4. まとめ
自分の遺産の処分等について明確な意思があり、また法定相続とは異なる形での相続を考えている方は、遺言信託を利用することを検討してみる価値があるといえます。
しかし、遺言によって信託を設定するか、又は信託銀行等でサービスとしての遺言信託を利用するかによって、その内容は大きく異なります。
自分の死後、遺産をどのように処分したいかをしっかり検討し、自分の希望を実現するための適切な方法を探すことが必要と言えるでしょう。