家族間での財産管理・資産承継を行う新しい方法として、「家族信託」が注目されています。
「家族信託」とは、信託法に基づく信託契約のうち、家族間で締結されるものをいいます。
「家族信託」は、平成19年に一般の人も利用しやすいように改正された信託法が施行されたことによって、注目を浴びることになりました。信託法は、大正時代に設立したもので、信託銀行等が取り扱う資産運用として主に活用されていました(これを「商事信託」といいます。)。
信託契約に登場するのは、基本的に、財産の管理や処理を任せる「委託者」、委託者から預かった財産(これを「信託財産」といいます。)の管理・処分を行う「受託者」、信託財産から経済的利益を受ける「受益者」の3人です。
もっとも、家族のニーズに合わせて、商事信託が主流であった改正前から定められていた「受益者代理人」を活用することが考えられます。
今回は、「受益者代理人」についてどのように活用するのか、を説明したいと思います。
1.「受益者代理人」ってどんな人?
「受益者代理人」とは、文字通り、受益者に代わって権利を代理する者のことをいいます。
信託銀行等が受託者となり、多数の当事者から金銭を預かり資産運用を行う「商事信託」では受益者が多くなるため、迅速かつ適切な意思決定が困難な場合がありました。そこで、意思決定権を集約して、迅速かつ適切な意思決定を行うために、「受益者代理人」という制度が用意されました。
「家族信託」においては、高齢の親の財産管理・生活支援のためだけでなく、未成年者や知的障がい者などを受益者として本人を支える仕組みとして利用することが想定されます。
判断能力の低下・喪失のおそれのある高齢の親や適切な意思決定ができないとみなされうる未成年者や知的障がい者に代わって、迅速かつ適切な意思決定を行う存在として、「家族信託」においても「受益者代理人」を活用することが考えられるのです。
「受益者代理人」は、受益者本人の判断能力の有無にかかわらず、受益者という立場で、「受益者に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有」しています(信託法(以下、「法」といいます。)139条1項)。
2.受益者代理人の権限と義務
「受益者代理人」は、「受益者に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする」ことができます。
そして、「受益者代理人」を置く場合には、信託契約で特別に定めない限り、受益者自身がその権利を行使できないことになります(法139条4項)。
これは、受益者代理人を置いたにもかかわらず、受益者が意思決定をできることにすると、迅速かつ適切な意思決定をするという目的が達成できないことからすると当然のこととなります。
このように「受益者代理人」には非常に強力かつ排他的な権限が与えられます。
言うなれば、信託契約における「成年後見人」のような立場になります。
一方、「受益者代理人」には、善良な管理者として権利行使しなければならない(これを「善管注意義務」といいます。法140条1項)とともに、受益者に対して誠実且つ公平であること(これを「誠実公平義務」といいます。法140条2項)が義務として課されます。
「受益者代理人」の具体的な業務は、受益者に代わって、預けてある信託金銭や毎月の賃料収入から定期・不定期に小遣い等の給付・分配を求めたり、財産の管理処分に関して受託者に要望を伝えたりすることになります。
例えば、老親を委託者兼受益者として、その保有資産のほとんどを信託財産とした場合、老親の成年後見人と同様に信託財産について包括的な権限を有し、事実上財産の給付・処分の方針を指示し、受託者の財産管理業務を監督することになります。
3.誰を受益者代理人にするのか
「受益者代理人」は適切かつ迅速な意思決定をしなければならないので、未成年者及び当該信託の受託者は、「受益者代理人」になることができません(法144条、同124条)。
それ以外の制限はないため、家族の中から受益者代理人を選ぶことができます。たとえば、長女を受託者、次女を受益者代理人とすることができます。
しかしながら、前述したように、「受益者代理人」の権限は非常に強く、「受託者」と同等の権限を持つものが併存することになります。
「受益者代理人」を置いた場合、財産管理の方針を決める「船頭」が二人いることで、財産管理の方針の違いから対峙してしまい、「船頭多くして船山に上る」状態になる危険があります。
親の財産を巡って、兄弟姉妹間の争いが生じることが多いことからすると、家族から「受益者代理人」と「受託者」を選択することは将来の争いを生じさせるリスクがあります。
一方で、弁護士や司法書士等の専門職に「受益者代理人」に就任してもらうことも考えられますが、受益者と同じ立場に第三者を就任させてよいか、本当に信頼できる人物かを慎重に考える必要があります。
なお、「受益者代理人」は最初から設置するのではなく、「受託者」が急病や事故で意思表示ができなくなった場合に、指定した人の就任承諾を条件に、「受益者代理人」の任務を開始するように設計することで、成年後見がいなくとも、「受託者」を解任して、信託事務を続けることができます。
4.まとめ
以上、「受益者代理人」について説明しましたが、「受益者代理人」は強力な権限を有するので、設置するには細心の注意が必要となります。
「受益者代理人」が必要かを含め、「家族信託」による財産管理や財産承継に興味を持たれた方は、当事務所でご相談してはいかがでしょうか。