実家を出て生活をされている方は、もしご両親が亡くなって実家が空き家になってしまった場合のことを考えたことはありますか?
空き家になる可能性がある場合は、そのまま放置する訳にもいきませんので、対策が必要になってきます。
今回は、空き家にしたままのリスクと、対策である「信託」についてご説明したいと思います。
1.空き家問題とは?
実家は、基本的に名義人はご自身の親であることがほとんどではないでしょうか。ですから、万が一、親が認知症になり判断能力がなくなってしまった場合は、親名義の実家を売却したり、賃貸したりできなくなってしまいます。そういった管理・運用を行う際は裁判所に成年後見申立・選任の手続きが必要となり、手続きを終えて成年後見人となったのち管理運用を行うことが可能になります。
さらに、親が亡くなってしまった場合も、相続人間で揉めてしまい、思うように相続手続きが進まなかったり、そもそも土地と建物の所有者が違って持ち主が把握できなかったり…。いざ親が亡くなってから、思いもよらぬ事実により相続手続きはスムーズに進まなくなってしまいます。そのような理由から手が付けられなくなってしまい、空き家として放置されてしまうケースが後を絶たない実情があります。
そういった将来空き家になってしまうケースを防ぐためにも、親の元気で判断能力がはっきりしているうちに、しっかりと対策が必要になります。
ちなみに、空き家問題が起こりうるのは、主に以下の理由からです。
前述したように、親が認知症の場合、子が勝手に売買することは出来ません。
②不動産が共有名義だった
無事に相続したは良いが、不動産が共有名義だった場合、名義人全員の同意がないと売却や運用ができません。そうした手続きの煩雑さから空き家になってしまうこともあります。
③相続時のトラブル等
たとえば、なかなか実家を手放す気持ちになれずにそのまま放置してしまったり、相続人間で揉めてしまい売却等処分が進められなくなったり、相続人の中に認知症や行方不明者がいて手続きが進められないことなどが例としてあげられます。
④相続放棄
相続人全員が相続放棄をした場合、実家を相続する人がいなくなってしまいます。その時は相続財産管理人を裁判所に申立て・選任することで実家の売却を行えますが、この手続きを行わないまま放置されて空き家になってしまう場合もあります。
⑤買い手がつかない
相続を無事に終え、不動産売却をしようとしても買い手がつかずに空き家となってしまう場合もあります。
2.「空き家」のリスク
次に、前述したように誰も実家に住まなくなってしまい「空き家」となってしまった場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
空き家となってしまった場合のリスクは、以下の通りです。
空き家となり人が居住しなくなってしまうと、管理されなくなるため建物は老朽化が進み、倒壊のリスクがありますし、見た目も悪くなってしまいます。害虫が発生する恐れもあります。
また、人がいないことで放火されたり、その他犯罪利用されたりするリスクがあるので治安が悪くなり近所に悪影響を及ぼす可能性があります。
②税法上のリスク
不動産を所有していると、固定資産税がかかります。そのため万が一住まないのに不動産を相続し、そのまま空き家として放置してしまった場合は所有者である相続人に固定資産税の支払い義務が生じます。
このようなリスクがあるため、だれも住まない状態で実家を空き家にしてしまうことは避けなければなりません。
大切な思い出が詰まったご自身の実家を空き家にしないためにも、実家に住むご自身の親が元気なうちに、空き家対策に有効である信託の制度を活用しましょう。
3.信託とは?
空き家問題の対策として、信託が有効であると前述しましたが、そもそも信託とは何でしょうか?
信託とは、自分の財産を託して自分の目的に沿い運用・管理してもらう制度のことです。自分の財産の管理と運用を第三者に委託する際に、形式上の所有権(名義)は第三者に移転しますが、財産の管理や運用から生じる利益は引き続き享受することができるため、実質的な財産権を保有し続けることができるという制度です。
また、財産を預ける人を、「委託者」と言い、財産を運用・管理する人を「受託者」と言います。この管理・運用により生まれた利益を受ける人を「受益者」と言い、この三者間で成立するのが信託です。委託者=受益者となるのが一般的です。
・信託契約(契約を結ぶことにより信託が成立する)
・遺言信託(相続開始後に信託がスタートするよう遺言書に記載する)
・信託宣言(自己信託ともいう。受益者を別の人間に設定し、自身が委託者・受託者となる)
の3つがありますが、信託契約が最も一般的であり、空き家対策にも有効と言えるでしょう。
信託契約を結んでおけば、受託者が財産の管理・運用をできるので、委託者が認知症などで意思能力が亡くなったとしても不動産の管理運用が滞ることなく行え、また信託は期間がおおよそ10~30年の間で定められているため、委託者の死後も受託者の権限は継続しており、実家のリフォーム・売買などを行うことが可能です。
そうすることで、信託をしていない場合に起こりうる、名義変更が出来ず諸手続きに手が付けられず放置して空き家になってしまう、という事態を防ぐことが出来るのです。
ここで、委託者の死後の受益権はどうなってしまうのかと気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
信託契約の中で、予め委託者の死後受益者を受託者に設定することもできますし、受益権は相続財産とみなされるので、遺言で受益者を設定することもできます。
また、遺産分割協議により誰が相続するかを決定することもできます。
4.まとめ
このように、親の意思能力がしっかりしているうちに信託契約を結んでおくことで、実家の相続をスムーズに行うことが出来ますので、空き家問題が他人事ではないという方は一度信託についてご検討されてみてはいかがでしょうか。また、その場合は契約書の作成など専門的な知識も必要になってきますので、専門家へのご相談をおすすめします。