遺産分割にはどんな種類があるの?
相続が始まると,共同相続人間で遺産を分割することになります。分割の原則的な方法は,「現物分割」です。これは,遺産をそのままの形で分割するというもので,例えばある土地を2人の共同相続人で2分の1ずつ分筆するという分け方です。
しかし,相続人の数,遺産の個数・種類・価格によっては現物分割が困難な場合や,現物分割により細分化しては遺産の価値が大きく損なわれる場合などがあります。そのような場合には別の遺産分割方法をとることになるでしょう。今回は,様々な遺産分割方法についてご説明していきます。
もくじ
1 一部分割
Aさんの父が死亡し,相続人はAさんと弟です。遺産分割の協議をしていますが,相続税の申告期限までに話し合いがまとまりそうにありません。遺産は土地(時価1億円)と預金(6000万円)で,Aさんはとりあえず預金だけを遺産分割して,相続税の支払いをしたいと考えていますが,そのようなことはできるでしょうか。
相続税の申告は,被相続人の死亡を知った日から10カ月以内に行わなければなりません。相続人が多数いたり,遺産が多岐にわたる場合には,遺産分割協議に時間がかかってしまい,相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらないケースも多く見られます。しかし,遺産分割が未了であっても相続税は支払う必要があるため,この事例のように取り急ぎ現金が必要となることもあります。
⑴ 協議による分割
遺産分割協議では,相続人全員の合意によりどのような分割方法も可能なので,一部分割を行うことに問題はありません。
ただし,後に残りの遺産を分割する際に,一部分割した結果を反映させるかどうかで紛争になることがあります。例えばこの事例で,6000万円の預金をAさんが4000万円,弟が2000万円に一部分割したとしましょう。その後土地を分割することになりますが,全体を通じて法定相続分に従って分割しようとすると,Aさんは4000万円相当,弟は6000万円相当を取得することになります。しかし,預金とは別に分割するとなると,それぞれ5000万円相当を取得します。そのため,一部分割をする際に,残りの遺産をどのように分割するのか合意をしておかなければ,トラブルが生じることになってしまいます。一部分割の協議書において,明確に定めておきましょう。
⑵ 調停による分割
調停による遺産分割でも,一部分割は許されます。しかし,調停では,必ず残りの遺産について,先に分割した内容が影響を及ぼさず,別個独立に分割する合意が必要とされています。
⑶ 審判による分割
審判による一部分割は,一部の遺産について特に早期の分割を求める当事者間の合意がある場合,一部の遺産について範囲・評価に争いがあり,その審理に相当の時間がかかり,早い時期に全遺産の分割ができないような場合に,一部分割により遺産全体について適正な分割を行うため支障が生じないときに限り,一部分割が認められています。
2 代償分割
Bさんの父が死亡し,相続人はBさんと妹です。遺産は,父が所有していた自宅土地建物のみです。Bさんは父の生前同居しており,この土地建物を取得したいと考えています。しかしそうすると妹に分割する遺産がありません。何か良い方法はないでしょうか。
共同相続人の一人又は数人に,相続分を超える遺産を現物で取得させ,代わりに他の相続人に対し債務を負担させる分割方法を,「代償分割」といいます。
代償分割は,現物を取得し債務を負担することになる相続人の資力が不十分なときは,とるべき方法ではありません。代償金の支払いを約束した相続人が,約束を破って支払わなかったときでも,当然に遺産分割協議を解除することはできないため,予め代償金支払能力を確認することが重要です。家庭裁判所では,債務負担が高額である場合には,融資証明書,預金の残高証明書,通帳のコピーを提出させるなどして資力の確認をしています。
また,代償金の支払いは,後日に債務不履行や解除などのトラブルを残さないため,できるだけ一括払いにすることが望ましいでしょう。もし代償金が多額で一括払いが困難な場合,分割払いとすることもできますが,そうすると代償金を受ける他の相続人の立場が不安定になってしまいます。そのため,取得する不動産に担保権を設定したり,連帯保証人をつけることも多いようです。
この事例では,Bさんが土地建物を取得し,妹には法定相続分に応じた金銭(土地建物評価額の2分の1)を支払うことになります。
3 換価分割
Cさんの父が死亡し,相続人はCさんと弟です。唯一の遺産である建物を分割することになりますが,一軒家の建物を現実に分割することはできない上,Cさんも弟も遠方に住んでいるため,建物を相続したいとは思っていません。そこで,建物を売却し,その代金を分配したいと考えていますが,そのようなことは可能でしょうか。
遺産を金銭に換価し,その価値を分割する方法を「換価分割」といいます。
⑴ 協議・調停による分割
相続人全員の合意により,売却価格,売却期限,経費,売却担当者を取り決めて売却を進めます。遺産が被相続人名義となっているのであれば,一旦相続登記をして相続人の共有であることを明らかにしてから売却をすることになります。トラブルを防ぐため,換価代金をどのように分配するのか,予め協議書や調停調書に記載しましょう。
⑵ 審判による分割
家庭裁判所が遺産分割の審判をするため必要があると認めるときは,相続人に対し,競売又は換価することを命じることができます。つまり,審判手続では,相続人の合意がなくても換価分割が可能です。換価命令が出されるのは,①変質しやすい,維持費が高額などの理由で保管が困難な遺産,②終局審判まで待つと交換価値が著しく下落するおそれがある遺産,③現物分割や代償分割をするのに,遺産の一部を換価しその代金を調整金に活用することが望ましい場合があります。
4 まとめ
今回は,様々な遺産分割方法についてご説明してきました。調停や審判に移行すると,時間も費用もかかってしまうため,できるだけ協議の段階で遺産分割を完了させたいところです。遺産分割方法にはいろいろな種類がありますが,相続人全員が納得できる方法をとれるよう,遺産分割の経験豊富な弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。