遺産分割が終わった後に相続権がないことが分かった場合の対処法
<相談内容>
父が死亡し,長男である私と次男,三男の間で,家庭裁判所において遺産分割調停が成立しました。その結果,預貯金を私,証券を次男,土地建物を三男が取得することになりました。ところがその後,三男が父の書いた遺言を破棄していたことが判明し,訴訟の結果,三男に相続権がないことが確認されました。なお,三男には子がおらず,代襲相続はありません。三男は既に土地建物を第三者に売却しているようなのですが,どのように処理すれば良いのでしょうか。
遺産分割が終了した後に,相続人とされていた人に相続権がなかったという事実が発覚することがあります。今回は,このようなケースでの対処法についてご説明していきます。
もくじ
1 相続人でない者が遺産分割に加わる場合
まず,遺産分割後に相続人でないことが判明するケースとして,どのようなものがあるでしょうか。
⑴ 遺産分割の当時から既に相続人ではなかった場合
相続人の確定は,まず戸籍を調査して行います。しかし,戸籍の記載は絶対ではなく,戸籍上は相続人の地位にある者であっても,戸籍の記載が事実に反している場合があります。また,行方不明者がいるとして不在者財産管理人を選任して遺産分割協議を行ったところ,不在者が被相続人よりも前に死亡していたことが遺産分割後に判明する場合もあります。
このような場合には,遺産分割時から相続人ではなかったということになります。
⑵ 遺産分割当時は相続人だったが,遺産分割後に遡って相続資格を否定された場合
以下のように,遺産分割後に相続資格の不存在が確定された場合は,相続資格がないことになります。
・相続人廃除の審判
・婚姻無効の裁判
・縁組無効の裁判
・嫡出否認の裁判
・認知無効の裁判
これらの効果は遡って発生するため,遺産分割後に確定した場合でも,遺産分割時にも相続権がなかったと判断されることになります。
2 相続人でない者が相続人として加わった遺産分割協議,調停,審判の効力
このようなケースで,遺産分割を全て無効として再分割をすることになると,時間がかかる上,権利関係が複雑になってしまいます。そこで,遺産分割の実情に応じて検討することになります。
⑴ 相続順位に変更をきたす場合
Aさんの兄が亡くなりました。相続人は兄の妻,兄の息子ですが,兄の息子は5年前から行方不明だったので,不在者財産管理人を選任して遺産分割協議を行いました。しかしその後,兄の息子は5年前の時点で死亡していたことが発覚しました。兄の息子に子はおらず,Aさんと兄の両親は既に亡くなっているため,兄の妻とAさんが相続人ということになります。Aさんは,遺産分割協議のやり直しを求めることができるでしょうか。
この事例では,相続人でない者(既に亡くなっていた兄の息子)を加えて遺産分割をしているため,本来相続人として扱われるべきAさんが遺産分割から除外されています。このように,共同相続人の一部を除外した遺産分割は,無効となります。
したがって,Aさんは兄の妻に遺産分割協議のやり直しを求めることになるでしょう。
⑵ 相続順位に変更をきたさない場合
では,冒頭の相談事例について検討してみましょう。この事例では,本来の相続人は相談者と次男ということになり,二人とも当初の遺産分割協議に参加しています。この場合,共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となります。(ただし,相続人でない者が協議に参加していなければ,遺産分割協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合には,遺産分割協議の全部が無効になると判断されることもあります。)
この事例では,相続人でない三男が土地建物を取得するという部分のみが無効となります。三男が取得した土地建物を取り戻し,再度相談者と次男が協議を行うことになるでしょう。三男は既に土地建物を第三者に売却していますが,三男は当初から土地建物の所有権を取得していなかったことになるので,第三者は保護されません。
なお,今回の事例とは異なりますが,第三者が取得したのが貴金属のような動産だった場合は,即時取得(貴金属の所有者が三男であると信じて取引をした第三者が,所有権を得るという制度です。)として第三者が保護される可能性はあります。
3 まとめ
今回は,遺産分割後に相続権がないことが判明した場合の手続についてご説明しました。このようなケースは滅多にないだろうと思われるかもしれませんが,遺産分割を終えた後で共同相続人の一人が遺言を破棄・隠匿していたことが発覚するというケースは度々あります。そのようなとき,相続人でない者が取得した部分については無効となります。しかし,遺産分割から時間が経過し,遺産が第三者に売却されている場合などは,第三者と揉めることが予想されます。ご自身での交渉は大変なので,できるだけ早く弁護士に依頼しましょう。
また,認知無効や縁組無効を主張したい場合には,後々のトラブルを防止するため,無効事由が明らかになった時点で裁判を行い,問題を解決しておくことをお勧めします。