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相続のトラブル・紛争

子どもに相続させたくないとき,何か方法はある?

2017.09.25

子どもに相続させたくないとき,何か方法はある?

親不孝な子どもに,自分の相続をさせないようにする方法はあるのでしょうか?遺言に「息子には相続させない」と書いた場合でも,必ずしも息子の相続分が0になるわけではありません。なぜなら,「遺留分」という制度があり,被相続人(亡くなった人)の配偶者,子,直系尊属(両親や祖父母)は,一定の割合の相続財産が保障されているからです。そのため,遺言によっても全ての相続分を奪うことはできません。
しかし,相続人の廃除という請求を行い,これが認められた場合には,相続人の遺留分すら剥奪し,相続をさせないことも可能です。今回は,相続人の廃除についてご説明していきます。

1 廃除が認められる場合とは

 では,どんなときに廃除ができるのでしょうか。相続人の廃除は,遺留分すら剥奪するという強力な効果を有しているので,単に子どもと折り合いが悪いというだけでは廃除は認められません。民法では,「被相続人に対する虐待,重大な侮辱」「被相続人に対する虐待,重大な侮辱以外の著しい非行」がある場合は廃除ができると規定されています。具体的にどのような事情があれば認められるのか,事例を見ていきましょう。

⑴ 被相続人に対する虐待,重大な侮辱

Aさんの娘は,小学校から高校まで非行を繰り返してきました。その後,暴力団員と結婚すると言い,Aさんと妻は反対しましたが,娘はAさんの名前で披露宴の招待状を知人に出してしまいました。
 この事例では,娘がAさんに対し精神的苦痛を与え,名誉を棄損した行為が「重大な侮辱」にあたるとして,Aさんの娘の廃除を認めました(東京高決平成4年12月11日)。

⑵ 被相続人に対する虐待,重大な侮辱以外の著しい非行

Bさんの息子は,窃盗などの罪で何度も服役しており,今も刑事施設に収容中です。息子は窃盗などの被害弁償や借金返済をしなかったため,Bさんが被害者に対して謝罪や被害弁償,息子の借金の返済もしてきました。
 この事例では,息子はBさんに対し多大な精神的苦痛を与え,多額の経済的負担を強いてきたことが「著しい非行」にあたるとして,Bさんの息子の廃除を認めました(京都家決平成20年2月28日)。

Cさんの息子は,借金を重ね,Cさんに総額2000万円以上を返済させてきました。また,息子にお金を貸している債権者がCさんの自宅に押しかけることもありました。
 この事例では,Cさんは20年以上にわたって精神的・経済的に苦しめられており,それが「著しい非行」にあたるとしてCさんの息子の廃除が認めました(神戸伊丹支決平成20年10月17日)。

2 手続き

廃除を行うには,どのような手続きが必要でしょうか。廃除の方法には2種類あります。なお,遺留分のない兄弟等に相続をさせたくない場合は,遺言にその旨記載すれば相続分を0にすることができます。ですから,廃除をする相手は遺留分を有する配偶者,子,直系尊属に限られます。そして,廃除の申立てができるのは被相続人に限られます。そのため,「弟が父を侮辱しているから」などの理由で,兄弟が父の相続について廃除の申立てをすること等はできません。

⑴ 生前廃除

 これは,被相続人が生前に,遺留分を有する推定相続人を相手方として,家庭裁判所に対して廃除を求める審判を申し立てるものです。

⑵ 遺言廃除

 これは,被相続人が遺言の中で推定相続人の廃除の意思表示をし,被相続人が亡くなった際に遺言執行者が廃除を求める審判を家庭裁判所に申し立てるという方法です。

⑶ 比較

生前廃除も遺言廃除も,推定相続人を相手方として廃除する点は同じです。しかし,生前廃除は被相続人が申立人となりますが,遺言廃除は被相続人の死後,遺言執行者が申立人となる点が最大の違いです。
 たとえ推定相続人との関係がうまくいっていなくても,ご自身が申立人となり廃除を申し立てることには抵抗のある方が多いでしょう。そのため,遺言に廃除をする旨記載し,遺言執行者に審判をしてもらうという方法が一般的なようです。遺言廃除をスムーズに進めるためには,遺言の作成段階で遺言執行者に廃除の理由等を詳しく説明しておくことが不可欠です。

3 廃除をしたあと

 廃除の効果は,誰に及ぶのでしょうか。以下の事例を見てみましょう。
Aさんは,娘の行為がAさんに対する「重大な侮辱」であるとして,生前に家庭裁判所に娘の廃除を求める審判を申し立て,廃除が決定されました。しかしその直後に娘は亡くなりました。数年後にAさんが亡くなったとき,娘の子(Aさんにとっての孫)はAさんを相続することができるでしょうか?

廃除された推定相続人(Aさんの娘)は,遺留分まで剥奪されることとなります。
しかし,この効果は被相続人と廃除される推定相続人との間にしか及びません。そのため,もし排除された推定相続人が,被相続人より前に亡くなっていた場合,推定相続人の子がいればその子が代襲して相続をすることになります。
つまり,この事例では,Aさんの孫はAさんの相続人となります。

4 まとめ

 今回は,推定相続人の廃除についてご説明してきました。どのような場合に廃除が認められるかというのは難しい問題です。ご自身は「絶対に子どもに相続させたくない!」と思っていても,廃除事由に当たるかどうかというのは様々な事情を考慮しながら客観的に判断されます。この判断はケースバイケースで,専門家でも判断に困る事柄です。子どもや配偶者にご自身の相続をさせたくないという方は,相続廃除の経験が豊富な弁護士に一度相談してみるのが良いでしょう。
 また,存命中の不必要なトラブルを避けるため,遺言廃除での廃除手続をお勧めします。その場合には,生前に弁護士と遺言の作成(財産の整理や,廃除したい理由など)について綿密な打ち合わせを行い,遺言執行者を弁護士とすると,確実に廃除ができるでしょう。

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