親の介護をしていたら,遺産を多くもらえるの?
<相談内容>
私は,父が他界して以来10年間,母と同居し,妻と共に母の面倒を見てきました。母は認知症で,自分で食事をすることや入浴等もままならず,私と妻が自宅でずっと介護をしてきました。母の生活費を負担していたのも私たち夫婦です。
最近,母が亡くなりました。母には多額の財産がありましたが,遺言はなく,相続人は私と兄の二人です。兄は「遺言もないし,遺産は兄弟で二等分しよう。」と言ってきました。しかし,遠方に住んでいて,ここ数年は母に顔を見せることもなかった兄と,毎日世話をしてきた私の相続分が同じというのは納得できません。何か良い方法はないでしょうか。
この相談のように,被相続人の生計の維持や看病に努めた場合には,法定相続分を超える遺産を取得できる場合があり,これを「寄与分」といいます。
今回は,寄与分についてご説明していきます。
1 寄与分とは
相続について規定する民法では,遺言等がない場合,相続人は民法の定める順位(配偶者,子,直系尊属)に従って相続することとなっており,同順位であれば(子が複数いるケース等),相続分は均等となるとされています。
しかし,これでは被相続人の生計の維持や看病に努めた相続人は不公平だと感じるでしょう。そこで,寄与分という制度が規定されています。
寄与分とは,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与(貢献・働き)をした者があるときには,その相続人の寄与分を遺産から控除し,遺産分割にあたって,法定相続分によって取得する額を超える額の遺産を取得することができるというものです。
以下では,寄与と認められる具体的な場合について,事例を交えながらご説明していきます。
2 寄与が認められる例
⑴ 家事・家業従事
Aさんは,高校卒業以来25年間にわたって,家業である農業に従事し,毎日朝から夕方まで父と共に働いてきました。その間,父と同居して生活していましたが,お小遣い程度の金銭の他には,父から給料や報酬等を受け取っていません。父が亡くなり,相続人はAさんと弟です。Aさんの寄与分の主張は認められるでしょうか。
被相続人の事業に対して,無報酬又はこれに近い状態で従事し,相続財産の維持増加に寄与した場合には,寄与分が認められます。事業としては農水産業や商工業が典型ですが,医師・弁護士・税理士等も含まれます。
個々の事例について,家業に従事した期間・態様を考慮し,夫婦や親子間に通常期待される程度を超える労務の提供といえるかどうか判断していきます。
この事例では,25年という長期間にわたり農業に従事してきたことや,労務に見合った対価を得ていないこと等から,Aさんの寄与分が認められるでしょう。
⑵ 遺産に対する出捐
Bさんは,夫と婚姻してからも長年共働きを続け,夫とほぼ同額の収入を得ていました。その後,Bさんと夫の二人で貯めたお金をもとに,夫名義で不動産を取得しました。その後夫が亡くなり,相続人は妻であるBさんと夫の母です。Bさんの寄与分の主張は認められるでしょうか。
夫婦が婚姻期間中に取得した資産について,二人で資金を提供した場合でも全て夫名義としているケースがよく見られます。このような場合,夫名義の財産取得における妻の貢献は,通常の協力扶助義務を超えたものと考えられます。また,夫名義であっても実質的には夫婦の共有に属する財産と評価できるので,妻の寄与が認められます。
この事例では,夫名義の不動産につき,どの程度Bさんの貢献があるか具体的な数字としては分かりません。そのため,Bさんの稼働期間・収入,夫の稼働期間・収入から収入の比率を計算し,寄与割合を算定することになるでしょう。
⑶ 遺産の維持・管理
Cさんは,父が所有する土地を売却するにあたり,父の依頼を受け,無償で,土地上の貸家の借家人との立退交渉,建物の解体・滅失登記手続,土地の売買契約の交渉・締結等を行いました。更地にして土地を売ったため,父は借家人がいる場合よりも高い売却代金を得ることができました。父の死後,相続人はCさんと弟です。Cさんの寄与分の主張は認められるでしょうか。
被相続人の財産を管理することによって,相続財産の維持形成に寄与した場合にも,寄与分が認められます。これは,財産管理の必要性があること,被相続人との身分関係から通常期待される範囲を超える貢献であること等が必要です。
この事例でCさんは,通常は不動産仲介業者等に有償で依頼するような行為を無償で行い,そのために父の遺産が増加しているので,寄与分が認められるでしょう。
⑷ 療養看護
Dさんの母は,認知症と診断され,昼夜の見守りを必要とする状態になりました。そこでDさんは妻と共に母と同居し,母の食事や排泄の世話,妻と交代で夜間の見守り等を行い,食事代等はDさん夫婦の家計から支出していました。この生活は母が亡くなるまで三年間続き,母の死後,相続人はDさんと妹です。Dさんの寄与分の主張は認められるでしょうか。また,Dさんは妻の寄与についても主張することができるでしょうか。
療養看護とは,病気や高齢等のため介護を要する状態となった被相続人を看病したり,身の回りの世話をすることをいいます。寄与分が認められるためには,相続人による療養看護が,被相続人との身分関係から通常期待される程度を超える貢献と認められること,相続人が療養看護したことで被相続人が費用の支出を免れたこと(本来なら入院や施設入所が必要な状態になっているのに,自宅で看護・介護したような場合)が必要です。その判断には,療養看護の必要性(「要介護度2」が一つの目安です。),療養看護した期間,無償であったか等の要素を考慮することになります。
また,相続人の配偶者の寄与についてはどうでしょうか。寄与分は共同相続人間の公平のための制度なので,相続人の配偶者のように,相続人でない者が自らの寄与を主張することはできません。しかし,配偶者が被相続人の財産の維持増加に貢献した場合には,相続人の補助者による寄与として,相続人の寄与分において考慮されることがあります。この事例でもDさんの妻は母の介護等に尽力し,母は費用支出を免れたので,妻の寄与はDさんの寄与分を算定する際に加味されるでしょう。
⑸ 扶養
Eさんの父が亡くなり,母が遺産の土地建物を取得し,そこに居住することになりました。しかし母には預貯金,収入もありません。そこでEさんが10年間にわたり,毎月15万円の生活費を仕送りし,不動産の火災保険料や固定資産税,修繕費等を負担していました。母が亡くなり,相続人はEさんと弟です。Eさんの寄与分の主張は認められるでしょうか。
親族間には扶養義務というものがあります。しかし,相続人による扶養が,扶養義務を超える程度の貢献と認められれば,寄与分が認められます。
この事例では,Eさんの母は扶養を必要とする状態にあり,Eさんは長年にわたって一人で母を扶養していたため,寄与分が認められるでしょう。
なお,今回の事例とは異なりますが,相続人も被相続人所有の住居に居住しながら扶養していた場合には,家賃相当額が減額されることになります。
3 まとめ
今回は,寄与分についてご説明してきました。寄与分が認められるかという判断は,個々の事情を検討してみないと難しいものです。介護をしていたから寄与分が認められるはず,などとご自身で判断される前に,弁護士に相談してみることをお勧めします。
また,寄与分を主張すると,法定相続分を修正することになります。つまり,こちらが寄与分を主張することで,相手方は相続分が減ることになります。だとすれば,そう簡単に了承してくれないことは明らかであり,寄与分を主張する場合には,協議や調停では終わらずに,遺産分割審判まで進んでしまうパターンがほとんどですので,審判になることを想定して協議や調停を進めなくてはなりません。
ご相談に来ていただいた時点で,すでに審判になった場合に不利に働きそうなやり取りがなされているパターンが散見されますので,寄与分の主張を行いたい場合には,必ず協議の初期段階から弁護士を代理人として就けることを強くお勧め致します。