遺留分減殺請求については、遺留分という制度を正確に理解した上で、遺留分の金額を正確に計算し相手方に請求を行う必要があるため、一般的には弁護士に相談、依頼するケースが多いです。実際の手続きは弁護士に依頼をする場合でも、どのような流れで手続きを行うかをご自身で理解しておくことも大切です。
そこで、今回は遺留分減殺請求の手続きについて詳しくご説明します。
1. 遺留分減殺請求の意思表示
遺留分減殺請求を行うには、まず民法で定められた遺留分を侵害されている相続人が、遺留分の受遺者に対して請求するという意思表示を行う必要があります。意思表示の方法は特に法律で定められていないため、口頭による請求でも有効とされていますが、書面によって通知を行うのが一般的です。(後に遺留分減殺請求の意思表示を行ったか否かが問題となった場合に、意思表示の存在を証明しなくてはなりません。これに用いるために書面で通知を行います。)
特に、請求した書面の内容を証明出来るように内容証明郵便を利用することが多いです。内容証明郵便とは、郵便局と差出人に通知書の控えが残り、送った日付と内容を証明することができる郵便のことです。
内容証明郵便を送るには、郵便局で発送手続きを行うか、インターネットの電子内容証明郵便サービスを利用して手続きを行います。書面の枚数にもよりますが、発送にかかる費用は1,500円から2,000円程度です。
2. 遺留分減殺請求の協議・交渉
遺留分減殺請求の意思表示を行った後は、実際に受遺者と協議に入ります。まずは被相続人の遺産に対する遺留分があり、受遺者に遺留分の支払い義務があることを主張します。そして、具体的な遺留分の金額とその支払方法について交渉を行います。
遺留分の支払い及び金額について合意を得ることができたら、支払方法と期限について協議を行い、各事項に関して記載された合意書を作成し、実際に支払いがなされれば終了となります。
協議で解決した場合、後々争いが再燃しないためにも、協議結果を合意書として取り交わしておきましょう。合意書には、遺留分の金額及び支払方法、また支払期限や支払義務が履行されなかった場合の遅延損害金等について定め、双方署名捺印を行った上で双方が1通ずつ保管しておきます。
なお、私文書の合意書ではなく、強制執行を認諾する旨を記載した公正証書で作成しておくと、相手方が支払義務を履行しない場合に公正証書に基づき強制執行をすることが可能です。
この公正証書がなく、私文書での合意書のみしかない場合には、合意内容の債務不履行に基づく訴訟を提起し、判決(債務名義)を取得した後に強制執行を行う必要があるため、強制執行に至るまでにかなりの期間を要します。
合意書の内容に何を盛り込むべきかわからない場合や、どのように作成するか不安な場合は、合意書の作成だけでも専門家に依頼をした方がよいでしょう。
3. 遺留分減殺請求調停
もし請求の意思表示に対して反応がない場合や、協議に応じない場合、または協議で合意に至らなかった場合は、裁判所に遺留分減殺請求の調停を申し立てます。調停とは、裁判所の調停委員を交え、当事者間の主張を整理し双方が納得するような形での解決策を話し合う手続きのことです。調停を行うには、相手方の住所地を管轄している家庭裁判所に遺留分減殺調停を申し立てる必要があります。申立てに必要な書類は以下の通りです。
・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・被相続人の子で死亡している方がいる場合、その子の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
・不動産登記事項証明書
・遺言書の写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
申立書の書式は裁判所のホームページから取得することができ、記入例を見ることができます。記入方法がわからない場合は裁判所に直接問い合わせることも可能です。なお、戸籍謄本などの必要書類は、被相続人や相続人が遠方に住んでいた場合は役所から取り寄せるのに時間がかかるため注意が必要です。
また、申し立てに必要な費用として、収入印紙1,200円と郵券が数千円程度かかります。必要な郵券の金額は各裁判所によって異なるため、必ず裁判所のホームページを確認しましょう(書かれていない場合は、裁判所に電話で確認しましょう。)。
必要書類及び費用の準備ができたら、家庭裁判所に調停の申立てをします。申し立てが受理されたら、第1回調停期日が開かれて調停での話し合いが始まります。調停での話し合いによって受遺者の合意を得ることができれば、調停成立として和解調書が作成され、和解調書に従って遺留分が返還されることになります。
しかし、調停はあくまで調停委員を交えた話し合いであり、合意に至らなかった場合にどちらか一方に結論を強制することができません。ですので、どれだけ法的に正当な主張をしていたとしても、合意に至らなかった場合、調停は不成立となってしまいます。
4. 遺留分減殺請求訴訟
調停が不成立となった場合、話し合いでの解決ができないものとして遺留分減殺請求訴訟を提起する必要があります。調停は話し合いで解決することを目的としているのに対し、訴訟では裁判官による判断で決着をつけます。
また、調停では当事者双方が顔を合わせる機会はほとんどないのに対し、訴訟では当事者双方が法廷で顔を合わせて互いの言い分を主張することになります。
そして、訴訟を提起するためには、訴状の作成や自分の主張を立証する資料の準備等が必要なため、協議、調停の段階と比べるとより専門的な知識が求められます。また、訴訟提起後も何度も期日に出廷して、相手の主張に反論し、自らの主張を展開していかなければなりません。
遺留分減殺請求の訴訟は数ある裁判の中でも非常に複雑で長期化する傾向にあると言われているため、自ら訴訟を提起することは現実的には難しいでしょうから、弁護士に依頼するようにしましょう。
5. まとめ
今回は、遺留分減殺請求の具体的な手続きについてご説明しました。遺留分減殺請求の手続きを自分で行う場合は、遺留分減殺請求の制度をきちんと把握した上で手続きを進めなくてはなりません。
調停での主張状況が後の訴訟において重要になることもありますので、やはり調停段階から弁護士に依頼することがベストです。