succession general

事業承継一般

中小企業経営者の相続

2021.05.12

今回は、会社経営をしているけれど将来相続はどうすればいいんだろう、相続する前にどのような準備が必要だろうかなど、疑問を持つ中小企業の経営者の方々に向けて、相続の基本的な知識をご紹介します。

1.中小企業経営者の相続は一般の相続と何が違うの?

中小企業経営者の相続と一般の相続で大きく異なることは、経営している自社株式が相続財産として遺産分割および相続税課税の対象になるということです。経営者にとって、相続税の納付を無事に行うことはもちろん大切ですが、自分の会社を次世代に引き継ぎさらに繁栄させていくために、自社株式の対策はとても重要です。

まずは、自社株式対策の第一歩として、自社株式の評価額(株価)を把握し現状を認識するところから始まります。自社株式の株価算定方法は、株主の区分と会社規模に応じ、次のように区分されます。

(1)原則的評価方式(同族株主等に適用される評価方式)

①大会社:「純資産価額」と「類似業種比準価額」のいずれか低い方を選択可能
②中会社、小会社:「純資産価額」と「折衷方式」の評価額のいずれか低い方を選択可能
「純資産価額」は会社の正味財産額を基準に株価を算定する方法です。「類似業種比準価額」は証券取引所に上場している同業他社と自社とを配当額、利益額、純資産額の面から比較し、その比率に同業他社の株価を掛け合わせて自社の株価を算定する方法です。
「折衷方式」とは純資産価額と類似業種比準価額を一定の割合で混合して計算する方法です。

(2)特例的評価方式(同族株主等以外に適用される評価方式)

会社規模に関係なく、「配当還元額」(原則的評価方式も選択可能)
「特例的評価方式」とは会社の配当額を基準に株価を算定する方法です。

2.許認可事業を継ぐ子供の為にあらかじめ準備できることは?

事業の許認可または登録・届出をした者に相続があった場合、相続人が、所定の手続を経ればそのまま事業を引き継げるものと、引き継げない事業があります。

〇届出により承継できる事業

(飲食店の営業許可など食品衛生法および食品衛生に関する条例に基づく許可業種、クリーニング業、理容業・美容業、米穀小売業、製造たばこ小売販売など)
届出により承継できる事業の場合は、事業を管轄する官公署の窓口にて承継届や戸籍謄本等を提出することで、相続人が事業者の地位を承継することができます。

〇諸官庁の承認を受け承継できる事業(旅館業、風俗営業、酒類販売免許など)

所轄の承認が必要な事業については、所轄の官公署の申請手続きをし、承認されれば承継できます。事業を承継する相続人が、申請する事業の欠格条項に該当していないことが必要です。

〇承継できない事業

(診療所、助産所、飼育動物診療施設(動物病院)、薬局、医薬品店の店舗販売業、歯科技工所、施術所、動物取扱業、質屋営業、古物営業、宅地建物取引業免許、建設業など)
承継できない事業については、被相続人について廃業などの手続きをした上で、新たに相続人名義での許認可または登録を受ける必要があります。

以上のとおり、事業を手伝っていたのに、跡を継げないというケースも想定されるため、以下予防策をお伝えします。

(1)資格の準備
上記の承継できない事業の場合、申請者の資格が許可要件になるなど一身専属性の側面が強いことが特徴といえます。後継者には、必要な資格を取得させるなどの準備が必要です。
(2)事業形態の検討
営業許可は、個人でも法人でも受けることができますが、個人の許可が法人の許可と異なるのは、許可がその者自身だけに帰属するという点です。そのため、個人の場合は事業主が死亡すれば許可を引き継ぐことができませんが、法人の場合は、事業主が死亡しても法人は存続するため、許可が残ります。。事業を後世に残していきたい場合は、法人名義で許可を得ることを検討してみてはいかがでしょうか。
(3)経験年数も許可要件となる事業に注意(建設業)
一定規模を超える建設業を営もうとする者は、都道府県知事または国土交通大臣の許可を受けなければなりません(建設業法3条)。①許可を受けようとする建設業に関し5年以上経営業務管理責任者としての経験を有していること(建設業法7条1項)、②各営業所に技術資格要件を満たす専任技術者が配置されていること(建設業法7条2号)などが許可の要件です。

特に①に関しては、当該建設業許可を有する法人の取締役経験があれば証明が容易ですが、個人事業主のもとで経営経験をしていたという公的な証明をすることは、非常に困難です。後々困らないようにするには、支配人登記をする、法人成りして後継者を取締役に据えるなどの事前の対策が必要です。

3.会社を継ぐ子供に自社株式を贈与する場合の注意点は

自社株式の評価額は贈与する時期によって変動し、贈与する株数によって贈与税額も大きく変わります。贈与を行う時期やその株数、あるいは相続時精算課税制度の活用などを考えながら総合的に判断する必要があります。また税金面だけでなく、経営面や遺産分割面という視点からも検討を行う必要があります。

(1)税金の観点

自社株式の贈与を行えば、贈与を受けた者に対し贈与税の課税が生じます。
一般的に贈与税は相続税よりも高額になりますので、贈与前にしっかりとした株価対策を取る必要があります。

贈与するに当たっての株価対策は基本的には相続税の株価対策と同様です。
しかし、贈与は相続と大きく異なる点が2点あります。それは財産を移転する時期を選べる点、及び贈与する株数を選べる点です。
相続は突然発生するものですが贈与は自分の意思で行うことができます。
したがって日経平均株価などを注視して類似業種の株価が安くなっている時期を選択したり、多額の売却損を計上して利益が引き下がっている時期を選択して自社株評価を下げることにより贈与税を抑えることが可能です。

また、被相続人の全財産を一度に取得する相続とは異なり、贈与は部分的に行うことも可能です。相続税と贈与税は共に累進課税税率であり財産の金額が大きくなればなるほど税率も上がります。
一定額や一定株数を毎年定期的に行うことで相続税よりも安い税率で贈与を行うことも可能となります。

(2)経営の観点

株式とは配当金の受領や残余財産の分配という財産価値のほかにも、発行会社に対する議決権の行使や経営への関与という経営的な価値も併せ持ちます。
それは当然自社株式にも当てはまる話であり、贈与の目的が単なる相続税対策だけであったとしても、当該贈与により会社の議決権は子供に移ります。

「自社株式は贈与したいが後継者が未熟なので自分の影響力も残しておきたい」という場合には株式の全部を贈与するのではなく、一部はオーナーの手元に残しておいた方がよい場合も想定されます。

株式会社の決議には普通決議のほか、合併や定款変更など特に重要な意思決定を行う場合の特別決議があります。普通決議は過半数、特別決議は3分の2以上の賛成で可決します。
言い換えればこれを超える株数をオーナーが保有していれば可決はされません。

また会社法の施行に伴い、株式会社は配当金の額や財産の分配などについて「異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式」(通称:種類株式)を発行することができるようになりました。
この種類株式の導入により会社は、権利の内容が異なる2種類以上の株式を発行することが可能になります。

この制度を活用することで議決権の一部を制限する株式(議決権制限株式)やその全部を制限する株式(無議決権株式)、あるいは株主総会決議事項そのものについて拒否権をもつ株式(黄金株)を発行することが可能になります。まだ幼い後継者に自社株式を移転するような場合には検討してみてはいかがでしょうか。

(3)遺産分割の観点

自社株式を相続する者が複数人いる場合、他の相続人に配慮した遺産分割は必要不可欠です。相続人はそれぞれ法定相続分に応じた相続権を持っており、自社株式を子供一人に贈与しただけであれば、後に他の相続人たちと争いが生じる可能性があるからです。

ただでさえ自社株式を子供1人に承継させたいという意向があるのであれば、遺言書なども併せて作成し、他の相続人に自社株式以外の財産を割り当てられるようにしておく必要があります。

4.さいごに

今回は、中小企業経営者向けの相続についてご紹介致しました。まだ相続を考えていない方も、今のうちから準備しておいた方がよいこともありますので、この機会にご家族と会社の相続についてお話してみてはいかがでしょうか?

電話予約

050-5799-4483

Web予約

無料相談は
こちら Zoom等で対応可能です