相続人が遺言書を見つけた場合、やはり真っ先に目が行くのは具体的に財産がどのように分配される決まりになっているか、その遺言書の内容についてでしょう。
しかし、どれだけ遺言書の内容を気にしても、その遺言書が法的に有効でなくては単なる紙切れに過ぎませんので遺言書の有効要件を満たしているか必ず確認をする必要があります。
また、 その遺言書の内容に関しても気にすべきところが多々ありますので、今回はその辺をお伝えさせていただきます。
1 遺言書の有効要件
民法960条は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定め、民法968条は「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定めています。
つまり、「①全文・日付・氏名を自書すること」、「②押印すること」が自筆証書遺言が有効であるための要件になります。
従来はこの条文に従って、預貯金や不動産の目録などについてもすべて手書きで自書しなくてはなりませんでしたが、最近は法改正が行われたため、目録についてはパソコンで作成した上でページとページの間に契印をして、各ページに署名押印をすることで手書きでなくても用いれるようになりました。
遺言書を書かれる方は、やはり高齢の方が多く、何ページにも渡る遺言書を全て手書きで書くことが難しい方もいらっしゃいます。
もちろん、条文の部分である本文はすべて手書きで記載しなくてはなりませんが、目録だけでも手書きしなくて良くなったのは重要な改正ですね。個人的には、遺言書に記載されている内容が本人の意思に沿っているかどうかは、本人の署名押印などで担保すれば良いので、必ずしも全ての文章を手書きすることにこだわる必要はないのではないかと思っていますが、法律がそのような建て付けになっている以上は仕方ないので、遺言書の作成に来られた方にも何とか頑張って記載して頂いております。
この有効要件を満たしていれば、ひとまず遺言書としての存在は認められますので、後は内容が適切かどうかが問題になります。
2 内容の確認
次に遺言書の内容の確認です。
まずはどの財産を誰に相続させることとなっているか、具体的な内容を把握しましょう。そして、そこに書かれている財産が本当に被相続人の財産なのかどうか、そうだとして被相続人の財産を遺言書に書かれている範囲で全て網羅できているかどうか確認しましょう。
仮に被相続人の所有物以外のものが紛れ込んでいれば、その部分は被相続人に何も処分権がない財産ですので、遺言書としては無効になってしまいます。
次に、網羅できていなかった場合、その部分は遺言書が存在していないのと同じですから、遺産分割協議が必要となります。この場合には全相続人で遺産分割協議を行い、話し合いをまとめた上で遺産分割協議書を作成する必要がありますので、必ず漏れがないか確認を行いましょう。
次に遺言執行者が選任されているかどうかです。遺言書の中に遺言執行者が選任されていれば、相続人による相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為は無効とされます(民法1013条)ので、遺産の管理処分権はすべて遺言執行者が握ることになります。
また、遺言書の中に包括遺贈・認知・廃除などが記載されている場合、遺言執行者が手続きを行わなくてはならないと法律に定められていますので、選任された遺言執行者が手続きを行います。仮に遺言執行者が選任されていない場合には、手続きを行うための遺言執行者を選任してもらうよう家庭裁判所に申立てを行うことになります。
3 検認の有無について確認
以上の通り、有効要件と内容について確認を行って、これらが問題ないとされた場合、いよいよ相続手続きを行って参りますが、自筆証書遺言であれば家庭裁判所で検認手続きを経なくては相続手続きに用いることができません。
この検認手続きは、裁判所から相続人全員に対して呼び出しがかかり、出頭できる相続人だけ集まって裁判官の目の前で遺言書を開封する手続きです。
裁判官が遺言書の有効要件などを確認するわけではありませんが、遺言書を実際に開封して、そこに書かれている文字が被相続人本人の文字かどうか、押されている印鑑が本人が日常的に用いていた印鑑かどうかなどの確認を行います。
そして、検認手続きの時点で封がされていたかどうか、これらの質問に各相続人がどのように答えたかなどが記載された検認調書と呼ばれるものが作成され、発行されます。
4 まとめ
以上のような流れを経て、最終的に検認まで完了した遺言書を使って実際の相続手続きを行っていきます。
大抵の手続きには戸籍や自筆証書遺言のコピー・検認調書などが必要になりますので、これらを複数通用意しておくと手続きがスムーズでしょう。
遺言書を見つけた場合、そこに書かれている内容や遺言執行者が選任されているかどうか、具体的な財産として何が記載されているかなど、様々な事情に応じてその後の手続きが変わってきます。
被相続人が作成した遺言書を発見された相続人は、その後の手続きについて専門家へ相談し、全ての段取りを専門家と一緒に進めていくことをお勧めします。