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相続登記

民法改正で相続はどう変わったの?⑥◆相続登記における対抗要件の変更◆

2021.05.04

これまで、民法改正によって相続に関する法律や制度がどう変わったのかをご説明してきました。

前回は、遺留分の算定方法と効力の見直しについて説明をさせていただきましたが、
前回の記事はこちら:民法改正で相続はどう変わったの?⑤◆遺留分の算定方法および効力の見直し◆

今回は、相続登記に関しての制度の変更について、具体的にお話をしておきます。
※この改正民法は、基本的に法律の施行日より後に発生した相続、つまり施行日より後に被相続人がお亡くなりになったケースでのみ適用されます。
施行日より前に被相続人がお亡くなりになられたケースでは、あくまで改正前の民法が適用されることになりますので、ご注意ください。

1.前回のおさらい

【改正民法のポイント】
①配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設
②特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
③預貯金の仮払い制度の創設
④自筆証書遺言の方式の緩和、自筆証書保管制度の創設
⑤遺留分の算定方法の見直し、遺留分減殺請求の効力の見直し
⑥権利取得の対抗要件の見直し
⑦特別寄与料の新設

今回は、「権利取得の際の対抗要件の見直し」について具体的に説明していきます。

2.今までの法律では何が問題になっていたのか?

相続が発生すると、不動産の所有権は法定相続分で共有されることになります。
そして、相続人の共有持ち分の登記は、それぞれの相続人が単独で行うことができます。
これまでの法律では、被相続人が残した有効な遺言の中で、特定の不動産を特定の相続人に相続させるという指定があった場合、相続登記がされているかどうかにかかわらず、第三者および相続人の間でも遺言の内容が優先されるとされていました。

たとえば、父親が亡くなり、相続人がその妻と子供2人だったとします。
父親は、自宅を含めて複数不動産を所有していたようですが、所有する不動産のすべてを長男に相続させるという遺言書を残していました。この場合、遺言書が有効だと判断された際は、所有権のすべてが長男に相続され、相続登記が完了する前であっても、他の相続人や第三者に対して権利の主張をすることができます。

通常であれば、不動産の権利を主張する場合、第三者に対しては登記がないと権利主張ができないので、前述のように相続登記を行う前であっても第三者へ権利の主張ができるというところに関しては、財産を受け取る側にとっては良いことのように思えますよね。
どこに問題があるのでしょうか?

3.従来の制度で困っていたのは誰?

相続登記を行う前であっても、第三者への権利主張ができるということに対しては、相続人の債権者にとっては不安材料でもありました。
債権者は、自身が持つ債権を回収する為、債務者が所有する権利(不動産の所有権など)を債務者に代わって行使することができます。(これを、債権者代位といい、その権利のことを債権者代位権といいます。)
相続人が債務を有していた場合、その相続人の債権者は、相手方(債務者)である相続人の法定相続分について、債権者代位権を行使することができるのですが、ここについて「遺言」が後から発見されると困ったことになるケースがあったのです。

前述の例をもとにすると、相続人である子供のうち、次男に多額の借金があったとします。
父親が亡くなった時点で、父親名義の不動産の所有権は各相続人の法定相続分で共有されることになるので、次男は全ての不動産において自身の法定相続分の共有持ち分を持つことになります。
次男の債権者は、債権者代位を行えば、次男が相続した不動産の持ち分を自身の債権の担保にできるので、次男の法定相続分の共有持ち分について、債権者代位によって、次男名義での登記を行うことができます。

ところが、債権者代位で登記を行った後で、前述したような「不動産のすべてを長男に相続させる」という遺言がでてきた場合、その遺言の内容が優先されることになり、次男の共有持ち分はなかったことになってしまいます。
その結果、債権者が行った次男名義での登記も無いものになり、せっかく確保できていた担保を失ってしまうことになっていました。

4.今回の民法改正で何が変わったのか

債権者の立場を安定させる目的から、今回の民法改正で、「法定相続分を超える権利を相続した場合は、遺産の分割によるものかにかかわらず、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない」という制度に変更になりました。
つまり、有効な遺言によって、不動産を相続することになった場合で、それが自身の法定相続分を超えるものであったときは、相続登記を行わないと第三者に対しての権利主張ができなくなったのです。

前述した例でご説明をすると、長男が受け継いだ不動産が法定相続分を超えるものだった場合、長男が登記をする前に、次男が先駆けて自身名義で登記をしてしまったら、長男は自身の法定相続分を超える部分については第三者に対して権利を主張することができなくなってしまうことになります。
また、次男の債権者が債権者代位によって法定相続分どおりの登記を行い、その後債権者が次男の共有持ち分を差し押さえてしまうと、長男は次男の債権者に対して対抗することはできません。

5.まとめ

これまでの制度では、不動産のすべてを相続させる旨の遺言があれば、登記がされていなかった場合でも権利の主張ができていたので、相続から実際の登記まで間が空いてしまうケースも少なくなかったかと思います。

ですが、今回の制度変更により、遺言があったとしても速やかに登記をしなければ、多大な損失に繋がってしまう可能性がでてきます。
法定相続分を超える不動産を相続することになった場合は、早めに専門家にご相談されることをお勧めします。

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