相続においては、遺産分割が完了すれば、後はその遺産分割の内容に沿って手続きを行うだけですので、預貯金の解約手続きや不動産登記など遺産分割協議書の内容に沿って各種手続きを行うことで相続手続きはある程度完了します。
そのため、遺産分割協議書さえまとまってしまえば、後は特段のハードルがないのが一般的です。
しかし、遺産分割協議が無事に完了し、遺産分割協議書が完成して、各種財産関係の手続きができたとしても、それでもまだ発生し得る問題というのはゼロではありません。
少しイレギュラーな話にはなりますが、遺産分割が済んでも起こり得る問題を把握しておくことで、そのようなイレギュラーに対応できるでしょうから、整理しておきましょう。
1 認知
生前に認知していた場合には、死亡して相続が発生した時点ですでに認知されていますので、相続発生時点でその子は相続人であり、特段の問題は発生しません。
つまり、認知された子は子供として相続人になり、遺産分割協議に参加していることでしょう。
しかし、認知には通常の認知届を提出する方法だけでなく、裁判認知や遺言認知があります。
裁判認知の場合、父親が亡くなってから結論が出ることもありますし、遺言認知の場合は後日遺言執行者が認知手続きを行いますので、他の相続人が認知の状況を知らないまま遺産分割を終わらせてしまうかもしれません。
ここで問題が発生する原因は認知の遡及効にあります。
認知の効力は出生の時に遡ることとされていますので、途中で認知されたとしても、その子は生まれた時から被相続人の子供であったことになります。
だとすると、遡って相続人だったことになりますので、後日認知が認められた子供の参加していなかった遺産分割協議が成立していたとしても、相続人を欠いた遺産分割協議となってしまいます。
民法では、この場合に遺産分割協議を全て無効にしてしまうと経済合理性が認められないため、遺産分割協議の法的有効性は維持することとしています。
その上で、認知された子供の法定相続分を守るため、その子が子供として相続し得る法定相続分について、後日価額請求権を有することとしています。
つまり、遺産分割のやり直しはしなくて良いですが、その子が相続人として持つべき法定相続分に相当するお金は他の相続人が相続した財産から支払わなくてはならなくなります。だとすれば、一度成立した遺産分割協議について、後日認知が認められることで各自の相続分に変化が生じることになります。やり直しとまではいかなくても、相続分が変化することで各自の取り分が変わり、紛争化する恐れがあります。
これに対し、認知された子以外に子供がおらず、親を相続人として遺産分割協議が完了していた場合、認知によって子供が発生しますので、親は相続人ではなくなり、その遺産分割協議は法的に維持できなくなってしまいますから、遺産分割協議をやり直すことになります。
このように、遺産分割の後に認知の効力が発生するようなケースにおいては、遺産分割が終わっても全てが解決しませんので、まだまだ注意が必要です。
特に、遺言認知があると間違いなく死後に認知の効力が発生するので、問題が発生しやすいですね。
2 特別の寄与
相続人以外の親族が被相続人に対して介護を行っていたなどを理由に、「自分は相続人ではないけども、自分が介護を頑張っていたから介護費用がそれほど多くかからず、結果として遺産が多額に残っているのだから、現在の遺産を構築したことについて、自分の介護が多大な寄与をしているはずだ。」など特別の寄与を主張して、特別寄与料を請求することが可能です。
これは遺産分割とは関係なく、相続人ではない人が相続人に対して持つ請求権ですので、遺産分割が完了したとしても、その後に請求される可能性は十分にあります。
そのため、相続人でない人が被相続人の介護を行っていたケース、相続人でない人が被相続人の家業を手伝っていたケースなどにおいては、遺産分割が終わるだけではすべてのことが解決しないかもしれませんので、注意されてください。
3 新たな相続財産の発覚
遺産分割協議書を作成した時点では、その時点で判明している遺産しか遺産分割協議書には載せようがありません。
しかし、遺産分割協議書を作成した後に何らかの新たなの遺産が発覚する事はよくある話です。
例えば、遠方に不動産が見つかったり、昔住んでいた地域の金融機関に口座が残っていたり、株や投資信託などを持っていないと思っていたら後日証券会社から通知が届いたり、相続人が把握してない財産が後日見つかる事はあり得ます。
このようなものが発覚すると、遺産分割協議書に書き込まれていないため、誰が相続するのか決まっておらず、その部分についてだけ遺産分割協議を再度行わなくてはなりません。
4 まとめ
以上のように、遺産分割協議が完了して、遺産分割協議書の作成が完了しても、追加で発生する問題というものが考えられます。
上記のような知識を持っていれば、万が一そのようなケースに遭遇しても対応に苦慮はしないでしょう。上記のようなケースに当てはまる方は、かなりイレギュラーが発生しますので、是非専門家と相談しながら進め方を考えてみてください。