2018年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」が可決・成立し、同年7月13日に交付されました。
相続法は約40年ぶりの改正となり、本改正の1つとして、新しく「配偶者居住権」という権利が認められるようになりました。今回は、この「配偶者居住権」の概要ついてご説明致します。
1 配偶者居住権はどんな権利?
配偶者居住権とは、簡単に説明すると「相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、居住することができる」という権利です。
ここで、簡単な例を挙げてみましょう。
Xさんには配偶者Yさんと一人息子のZさんがいます。Yさんはこれまで住んできた自宅に引き続き居住したいと考えています。
YさんとZさんの間での遺産分割協議の結果、法定相続分の2分の1ずつ取得することとなり、Yさんが自宅、Zさんが預金を全て取得することになりました。
一見すると、公平な分け方のように見えますが、この分け方だと、預金を相続しなかったYさんの今後の生活が成り立たなくなる恐れが生じます。
また、仮に自宅が3,000万円、預金が1,000万円の場合で法定相続分で相続すると、Yさん、Zさんが各2,000万円ずつ遺産を取得することになります。
しかし、上記のとおり預金は1,000万円しかありません。
Yさんが自宅を取得する場合、Zさんに残り500万円を相続させるためには、YさんがZさんに代償金500万円を支払わなければならず、最悪の場合、せっかく取得した筈の自宅を売却しなければならなくなります。
これまでの民法では、上記のような事態を回避する点までカバーされていなかったのですが、社会の高齢化が進み平均寿命が延びたことから、夫婦の一方が亡くなった後、残された配偶者が長期間にわたり生活を継続することも多くなりました。
その際には、配偶者が、住み慣れた住居で生活を続けるとともに老後の生活資金として預貯金等の資産も確保したいと希望することも多いと考えられるため、今回の法改正により、「配偶者居住権」が認められるようになりました。
具体的には、上記の例で、自宅は2,000万円の価値がありますが、これを配偶者居住権と、その他の権利の2つに分離させます。
仮に配偶者居住権の価値が1,000万円で、その他の権利が1,000万円だったとします。Yさんは、自宅に住み続けることが目的ですので、配偶者居住権があれば目的は達成されます。
2 配偶者居住権はどんな場合に認められる?
では、配偶者居住権はどのような場合に認められるのでしょうか。
配偶者居住権は、相続発生した時点で、その自宅に住んでいた配偶者にだけ認められます。
したがって、別居をしていた夫婦間では認められませんし、相続時に賃貸に出していた物件には配偶者居住権は認められません。
また、配偶者居住権は、登記を経なければ第三者に対抗することが出来ません。
配偶者居住権の設定の登記は、配偶者居住権を取得した場合に、これを公の帳簿(登記簿)に記載し、一般に公開することによって、取得した配偶者居住権を第三者(例えば、居住建物を譲り受けた方)に主張することができるようにするものです。
したがって、配偶者居住権者が登記を失念してしまった場合、自宅の所有権を取得した相続人が第三者に自宅を売却し、第三者が先に所有権移転登記を経てしまうと、配偶者居住権を第三者に主張できない結果、当該権利を失ってしまうことになってしまうので、注意が必要です。
3 その他、注意点等は?
配偶者居住権が存続している間の、配偶者居住権者と居住建物の所有者との法律関係は、次のとおりになります。
【法律関係】
①居住建物の使用等
配偶者居住権者は、無償で居住建物に住み続けることができますが、これまでと異なる用法で建物を使用することはできないほか(例えば、建物の所有者に無断で賃貸することはできません。)、建物の使用に当たっては、建物を借りて住んでいる場合と同様の注意を払う必要があります。
②建物の修繕について
居住建物の修繕は、配偶者居住権者がその費用負担で行うこととされています。
建物の所有者は、配偶者居住権者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに自ら修繕をすることができます。
③建物の増改築について
配偶者居住権者は、建物の所有者の承諾がなければ、居住建物の増改築をすることはできません。
④建物の固定資産税について
建物の固定資産税は、建物の所有者が納税義務者とされているため、配偶者居住権が設定されている場合であっても、所有者がこれを納税しなければなりません。
もっとも、配偶者居住権者は、建物の通常の必要費を負担することとされているので、建物の所有者は、固定資産税を納付した場合には、その分を配偶者居住権者に対して請求することができます。
また、配偶者居住権は配偶者の居住を目的とする権利のため、配偶者が家族や家事使用人と同居することも当然予定されています。したがって、配偶者居住権者はこれらの人を建物に同居させることも可能です。もっとも、建物を賃貸住宅として第三者に賃貸しようとする場合には、建物の所有者の承諾を得る必要があります。
4 まとめ
今回は、「配偶者居住権」の概要について説明致しました。
もっとこの権利の詳細を知りたい、自分に配偶者居住権が認められるのか知りたいといった方は、一度専門家にご相談されてみてください。