限定承認をするとどうなるの?
被相続人のプラスの財産よりも,借金等のマイナスの財産の方が多いケースでは,相続放棄をするのが一般的です。しかし,遺産の中にどうしても手放したくない財産がある場合,限定承認という制度が利用されることがあります。今回は,限定承認とはどういうものなのか,また手続きの方法について福岡の弁護士がご説明していきます。
1 限定承認とは
Aさんの父が亡くなり,相続人はAさん一人です。父は多くの負債を抱えており,相続するとAさんが負債を受け継いでしまうため,相続放棄することも考えました。しかし,相続放棄をした場合,父が所有していた実家も手放すことになってしまいます。Aさんは,自分の生まれ育った実家だけは相続したいと思っていますが,何か良い方法はないでしょうか。
限定承認とは,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐというものです。この事例で限定承認をした場合には,裁判所が選任した鑑定人が実家の評価をし,それに従った弁済を行うことで,Aさんが実家を取得することができます。
このように,限定承認は有限責任となるため,被相続人が債務超過か明らかでないときや,今回の事例のように相続財産の一部を買い取りたいときに有用な制度です。
限定承認を行うには,相続の放棄と同じように,家庭裁判所に申述の申立てが必要となります。申立てができるのは,自己のために相続の開始があったことを知った時から三カ月以内(請求によって伸長することも可能)です。また,申立ての際に財産目録を添付する必要があります。目録には被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も記載することが必要で,もし財産を知りつつ記載しなかった場合には,単純承認したものとみなされ,被相続人の一切の権利義務を承継してしまうので,注意が必要です。
2 共同相続における限定承認
Bさんの父が亡くなり,相続人はBさん,母,妹です。父とBさんは一緒に事業を行っており,父には財産も負債もありますが,事業を続けたいBさんは限定承認をしたいと考えています。妹は相続放棄をしたいと言っているのですが,Bさんと母だけ限定承認をすることも可能でしょうか。
相続人が複数いるとき,限定承認は,共同相続人全員が共同して行わなければなりません。これは,単純承認をした人と限定承認をした人がいると,法律関係が複雑になってしまうからです。そこで,この事例でも,原則はBさんと母,妹の3人全員が限定承認の申述を行う必要があります。
しかし,相続放棄をした場合,放棄した人は初めから相続人にならなかったものとみなされるので,放棄した人は共同して限定承認を行う必要はありません。したがって,この事例で妹が相続放棄した場合,Bさんと母とで限定承認の申述をすれば足ります。
Cさんの父が亡くなり,相続人はCさんと弟です。父には実家の不動産(評価額2000万円)と,宝石(評価額100万円)の財産,5000万円の負債がありました。父は債務超過であったものの,実家を手放したくないCさんは,弟と共に限定承認をしようと考えています。しかし,弟が自分の借金を返済するため,父の遺産の宝石を既に他人に売ってしまったことが明らかになりました。Cさんと弟は限定承認できるでしょうか。
相続財産の処分は,法定単純承認事由に当たります。つまり,財産を処分してしまった人は相続を承認したものとみなされ,その後に相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。これは,相続人全員が共同して行わなければならない限定承認でも同様で,相続人が複数いるケースで,限定承認前に相続財産の全部又は一部を処分した者がいる場合,限定承認をすることはできません。
したがって,この事例でも,限定承認前に弟が宝石を処分してしまった以上,Cさんも限定承認することはできず,単純承認して実家と負債を承継するか,相続放棄して実家を手放すかという選択になります。
3 まとめ
今回は,限定承認についてご説明しました。限定承認は相続財産の中にどうしても承継したいものがある場合や,プラスとマイナスの財産のどちらが多いか分からない場合等には有用な制度です。しかし,利用件数は少なく,平成27年度は,相続放棄の申述が18万9381件であるのに対し,限定承認は759件でした(最高裁平成27年司法統計)。
利用件数が少ないのは,手続きが煩雑なことが原因だと考えられます。ご説明したように三カ月の期間制限があることや,目録を正確に作成しなければならないことはもちろん,限定承認が受理された後は清算手続を行うため,相続財産の管理もしなければなりません。相続人が一人である場合はその人が管理・清算手続を行い,相続人が複数いる場合は家庭裁判所が相続財産管理人を選任し,相続財産管理人が管理・清算手続を行います。このように,限定承認の手続きは複雑なため,限定承認をしたいと考えている方は,ご自身で進めようとせず,弁護士に相談することをお勧めします。