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相続手続き

相続放棄をしたけど,財産があることが分かった!もう遺産をもらうことはできないの?

2017.06.02

両親が亡くなった場合,子は預貯金や不動産等のプラスの財産だけでなく,借金等のマイナスの財産も全て相続します。そこで,借金の方が多ければ,相続放棄をして何も相続しないという選択が考えられます。相続放棄をするかどうか決めることができるのは,原則として相続開始を知ってから三カ月間です。そのため,急いで相続放棄をしたものの,後々財産が発覚するということがあります。今回は,相続放棄をした場合の撤回,取消し,無効についてご説明していきます。

もくじ

1 相続放棄の撤回

Aさんの父が亡くなりました。相続人はAさんと妹です。Aさんは,父の遺産はいらないと思い,相続放棄の申述を家庭裁判所にし,受理されました。しかし,妹が遺産を取得するという話を聞いて,やはり遺産を相続したいと考え直しました。父が亡くなってまだ三カ月が経っていませんが,相続放棄の撤回はできないでしょうか?

この事例では,残念ながらAさんは相続放棄を撤回することはできません。民法919条1項で「相続の承認及び放棄は,第915条第1項の期間内でも,撤回することができない。」と規定されており,一度行った相続放棄は撤回することは禁止されています。
 これは,一度相続の承認や放棄をした後に撤回ができるとすると,他の相続人や債権者の立場が不安定になってしまうからです。
 ただし,相続放棄の申述が受理される前であれば,申述の撤回(取下げ)も認められます。なお,申述の「受理」とは,受付のことではなく,申述を受けた家庭裁判所が,本人の意思確認等を行って初めて行われるもので,受理されることによって相続放棄の効力が遡って発生します。ですので、相続放棄の申述申立書を家庭裁判所に提出した後でも、手続が完了するまでは取り下げが可能ですので、家庭裁判所へ問い合わせてみてください。

2 相続放棄の取消し

Bさんの父が死亡しました。相続人はBさんと兄です。Bさんは兄から「親父には5000万円の借金がある。」と言われたので,相続放棄しました。しかし後日,実は兄が嘘をついていて,本当は父に借金などなかったということが分かりました。Bさんは相続放棄を取り消して遺産を取得したいと考えていますが,可能でしょうか。

Bさんは,兄の詐欺によって相続放棄をしたことになります。詐欺により意思表示を行った場合,その取消しができると民法に規定されており,これは相続放棄の場合も同様です。
相続放棄の取消しを行うには,その旨を家庭裁判所に申述し,受理されると相続放棄が遡って無効となります。
相続放棄の取消しができるのは,以下の場合です。
・未成年者が法定代理人の同意を得ないで単独でした場合
・成年被後見人自らがした場合
・被保佐人が保佐人の同意を得ないでした場合
・詐欺又は強迫によってされた場合
・後見監督人がある場合に,後見人がその同意を得ずに被後見人を代理してした場合
・後見監督人がある場合で,後見人がその同意を得ずにした同意に基づいて未成年被後見人がした場合
取消しは,いつでもできるという訳ではありません。取り消しの原因となる事情を知った時(今回の事例だと,Bさんが騙されたと気付いたとき)から6カ月以内に取消しの申述をしなければ時効になりますし,相続放棄をしてから10年が経過すれば,取り消すことはできなくなります。
相続放棄の場合,相続をめぐる権利関係を早期に確定させるため,通常の法律行為の取消し期間よりも短く設定されているので,注意が必要です。

3 相続放棄の無効

Cさんの父が死亡しました。相続人はCさんと兄と妹です。Cさんと妹は,家業を継いだ兄に全ての遺産を相続させるため,申述書に「父の遺産を兄に相続させるため,私は放棄します。」と記載をして相続放棄しました。しかし,なぜか兄も相続放棄してしまったため,父の弟である叔父が遺産を取得することになってしまいました。Cさんは,兄が相続しないのであれば話が違うので,自分が遺産を取得したいと考えています。相続放棄は無効にできるのでしょうか。

民法では,錯誤(平たく言うと,勘違いのことです。)があった場合,その意思表示は無効となると規定されており,相続放棄の場合にも,錯誤により相続放棄の申述をしたのであれば無効になります。
 相続放棄の申述をする場合,その結果自分が被相続人の権利義務を一切承継しないことは分かっているので,その点について錯誤があるというケースは考えにくいです。
 しかし,相続放棄をするに至った動機について錯誤があるという場合は多々あるでしょう。この事例でも,Cさんが相続放棄をしたら相続人は誰になるかという,相続放棄の動機について錯誤があります。過去の判例では,誰が相続人になるかという問題は相続放棄者にとって重要なものであり,このような動機が相続放棄の手続において表示され,それにより,受理裁判所はもとより,当該相続放棄の結果反射的に影響を受ける利害関係者にも知り得べき客観的な状況が作出されている場合には,表示された動機にかかる錯誤として,民法95条により当該放棄の無効が認められるとされています。(東京高判昭和63年4月25日)
この事例では,Cさんが兄に相続させるために放棄をしたという動機が申述で示されており,無効が認められるでしょう。
 相続放棄の無効を主張したい場合には,家庭裁判所に申述するのではなく,別途訴訟で争うことになります。具体的には,相続放棄の無効を前提として,財産を取得した人に対し,遺産分割協議のやり直しを求める請求や,取得した財産について不当利得返還請求をする形になります。

4 まとめ

 今回は,相続放棄の撤回,取消し,無効についてご説明しました。相続放棄をした経緯によっては,取消しや無効が認められることもあります。そして,一旦放棄した相続の遺産分割協議を求めることも可能です。しかし,この手続をご自身で行うのは困難ですから,相続放棄を取り消したいという場合には,相続放棄について詳しい弁護士に相談しましょう。
 また,相続放棄をするかどうか決める期間は原則として三カ月ですから,急いで決断すると「やっぱり放棄しなければ良かった…。」と後悔することもあります。家庭裁判所に申立てをすれば,期間を伸長することも可能です。少しでも迷っているのなら,弁護士に相談し期間の伸長を行い,後悔のない選択をしましょう。

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