大切な人が亡くなったときは、悲しみで何も手につかないかもしれません。
しかし、親族が亡くなった直後は、病院とのやりとり、死亡届の提出、葬儀の段取り、その他市町村役場や銀行等での手続など、やらなければならないことが数多くあります。
今回は、葬儀の流れや、葬儀費用の問題についてご説明していきます。
1.葬儀の流れ
葬儀をすることは、法律上求められているものではありません。
そのため、故人や遺族の意思によっては、葬儀をしない場合もあります。
葬儀を行う場合、通常の流れとしては、死亡後、遺体が搬送・安置され、納棺、当日または翌日に通夜、通夜の翌日に告別式、出棺、火葬・骨上げとなります。
ただし、火葬場の空き状況や、友引の日に葬儀を避ける風習等により、通夜や告別式の日程を変更する場合もあります。
葬儀を行うにあたって、喪主の決定、葬儀の日取り・場所決め、遺影の選定、親族や友人への連絡等、しなければならないことが多くありますが、これらは精神的にも時間的にも遺族にとっては大きな負担となります。
そこで、葬儀全般については葬儀社に頼むことが一般的です。葬儀社は、故人が生前に契約していたり、病院から紹介されることもありますが、遺族がいくつかの葬儀社から見積もりをとって選ぶこともあります。
亡くなってから葬儀社を選ぶ場合、時間に限りがあるため吟味して選ぶことはなかなか難しいといえます。
本人がご健在のうちに、事前相談等に行き、本人と家族の意向をもとに葬儀社を選んでおくことをお勧めします。
喪主とは、葬儀の主宰者のことをいいます。通常は故人と最も縁の深い人、すなわち配偶者や子供が喪主となるのが一般的です。
2.葬儀にかかる費用
漠然と、葬儀には多額の費用がかかるというイメージがあるかと思います。
葬儀に係る費用の全国の平均は、188.9万円といわれています(財団法人日本消費者協会「第10回『葬儀についてのアンケート調査』報告書」(2014年))。
葬儀費用について、法律的にどのような扱いになるかは後述しますが、その額を裏付けるため領収書を保管することが重要です。
相続税の面でも、葬儀にかかった費用は控除される場合があります(相続税法基本通達13-4)ので、領収書は必ず受け取っておきましょう。
ただし、お寺への戒名代や心付けについては、領収書を発行してもらえない場合もあります。
その際は、支払った後、できるだけ早くノートなどにお寺の名称、所在地、支払金額、支払日を明記して、正確な記録を保存しておきましょう。
ちなみに、前述の葬儀に係る費用のうち、お寺へ払う費用は全国平均で44.6万円とされています(財団法人日本消費者協会「第10回『葬儀についてのアンケート調査』報告書」(2014年))。
また、葬儀にまつわる費用として、香典をどう扱ったら良いか疑問に思われるかもしれません。
法律的には、香典は、葬儀費用に充てることを目的として、喪主に対し贈与されるものと考えられています。
つまり、喪主の財産(遺産には含まれない)として、喪主が葬儀費用に充てる目的の範囲内でなら、自由に使えることになります。
もちろん、通夜や告別式以外にも、香典返し等の費用がかかるため、香典が余ってしまうということは通常はありません。香典返しとは、香典をもらったお礼として品物を贈ることをいい、一般的にはもらった香典額の3割~半返し程度とされています。
3.預貯金の引き出し
上記のように、葬儀費用にはまとまった金額が必要となります。
故人の預貯金から支出しようと思われる方も多いようですが、金融機関は、死亡の事実を確認し次第、故人名義の口座を凍結します。そのため、相続人全員の同意がなければ預貯金を引き出すことはできないというのがこれまでの運用でした。
令和元年7月に施行された民法第909条の2により、[相続開始時の預貯金額(口座ごと)]×[3分の1]×[払戻しを行う相続人の法定相続分]について、相続人が直接金融機関に払戻しを請求できるようになりました。ただし、この制度は上限が150万円とされています。
もしどうしても足りないという場合には、遺産分割調停や審判の申立てに加え、家庭裁判所に保全処分の申立てを行い、一部の仮払いを受けることもできます(家事事件手続法200条3項)が、葬儀費用に限れば150万円で執り行うことが可能でしょう。
4.葬儀費用の負担者
故人の債務については、相続財産から控除することができます。
ここにいう故人の債務というのは、生前の未払いの家賃や光熱費、入院費用などがこれに当たります。しかし、当然ながら、葬儀費用は故人の死後に発生する費用であり、故人の債務には当たりません。そのため、葬儀費用のための支出を当然には故人の遺産から控除することはできません。
では葬儀費用は誰が負担すべきでしょうか。
この点について、明確な決まりはありませんが、最近の裁判例では、「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担」(名古屋高判平成24年3月29日)する、すなわち、葬儀費用は喪主が負担すべきと判断されています。
以上は争いになった場合の話なので、もちろん、同意があれば、葬儀費用を相続人全員の負担とすることも可能です。
5.まとめ
今回は、葬儀の流れや葬儀費用についてご説明しました。故人が葬儀について何も準備をしていなかった場合、遺族は悲しみに暮れる暇もなく、慌ただしく各種手続きを行うことになりがちです。
ご自身の葬儀についての要望がある場合には、事前に家族に共有しておくと、死後の家族の負担も少なくなるでしょう。
また、葬儀費用については、後々遺産分割の際にトラブルとなりやすいところです。
ご不安な方は、弁護士に相談のうえ、他の相続人との協議を行っていくことをお勧めします。