親族が亡くなると相続が発生し、被相続人(亡くなった方)の遺産を相続人で分配することになります。
預貯金や不動産など価値のあるプラスの財産だけでなく、被相続人に借金等があった場合は、マイナスの財産であっても相続しなければなりません。
被相続人からマイナスの財産を引き継いでしまった場合、対処できる方法として「相続放棄」という手続きがありますので、
今回は「相続放棄」についてご説明いたします。
もくじ
1.マイナスの財産も引き継ぐの?
民法896条で「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」
と定められています。つまり、借金等のマイナスの財産であっても、相続人が承継する義務があるということです。相続人が複数いる場合には、プラスの財産と同じように、法定相続分に従って相続しなければなりません。
例えば、被相続人に3000万円の借金があり、相続人が配偶者と子ども3人の場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもは6分の1ずつとなりますので、金額にすると配偶者は1500万円、子どもはそれぞれ500万円を相続します。自分たちが借金をしたわけではないのに、多額の借金を返済していかなければなりません。
このようなときに、相続するのを防ぐ方法として、「相続放棄」という手続きがあります。
詳しい手続きや費用については次でご説明いたします。
2.相続放棄について
① 相続放棄とは
相続放棄とは、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継せず、放棄する」ことをいいます。
つまり、裁判所から相続放棄が認められた場合には、プラス、マイナスの財産に関わらず、
被相続人の財産を一切相続できないことになります。
② 相続放棄の方法
相続放棄は、被相続人が亡くなった最後の住所地を管轄している家庭裁判所に申し立てを行います。
実際に裁判所まで足を運ぶことが難しい場合は、郵送でも申立書を提出することが可能です。
必要な書類は、
❶相続放棄の申述書(書式が裁判所のHPに掲載されています。)
❷戸籍謄本(被相続人が亡くなったことが分かる戸籍・申立人が相続人であることが分かる戸籍)
❸被相続人の住民票又は戸籍の附票
❹収入印紙(800円)
❺郵券(管轄の家庭裁判所ごとに金額や組み合わせが異なります。)
ですが、追加で資料を求められることもありますので、裁判所の書記官の指示に
従って書類を提出することになります。
また、相続順位によっても提出する書類の内容が変わってきますので、ご注意ください。
③ 相続放棄ができる期間
相続人は、被相続人が亡くなった日から3か月以内に相続放棄の申立てをしなければなりません。
相続放棄をすることが決まっていれば、必要書類を集めて裁判所に申し立てを行うだけなので
問題はないのですが、相続放棄を検討してる場合、まずはプラスの財産とマイナスの財産を
それぞれ確定させる必要があります。被相続人の財産を把握した上で、一般的には、
マイナスの財産がプラスの財産を上回った場合に相続放棄をすることが多いですが、
被相続人との関係が悪く、プラスの財産であっても相続したくない場合など理由は様々です。
どちらにしても、3か月以内に放棄するか決めなければならないので、
相続人の財産については、できるだけ早めに把握しておくと良いでしょう。
なお、財産の調査が3か月以内に終わらなかった等の理由で、相続放棄をするか決めることが難しい場合には、
家庭裁判所に相続放棄の期間の伸長申立を行うことができます。
認められると3か月間期間を延長することができます。
④ 相続放棄ができないケース
被相続人の財産を処分してしまったり、勝手に金融機関の口座から預金を引き出したりすると
相続する意思があるとみなされ、3か月以内であっても相続放棄の申立てができません。
被相続人の自宅の掃除で骨董品などを処分してしまうことがよくありますので、十分注意が必要です。
3.相続放棄の注意点
相続が発生した場合、民法で定められた順位(相続順位)に従って相続するよう決められています。
第一順位の相続人:被相続人の子(またはその代襲相続人)
第二順位の相続人:被相続人の直系尊属(父母や祖父母)
第三順位の相続人:被相続人の兄弟姉妹(またはその代襲相続人)
第一順位の相続人が全員相続放棄をした場合、第二順位が相続人となります。
第二順位の方は、自分が相続人になっていることに気付かないため、
第二順位以降の親族にも相続放棄したことを伝え、相続放棄を進めるなどの配慮をすると良いでしょう。
また、第二順位の相続人も相続放棄をしたい場合は、第一順位の相続人が相続放棄をした後に
相続放棄の申立てを行うことになります。第二順位の相続人が放棄をする場合は、
被相続人が亡くなった日から3か月以内ではなく、自分が相続人であることを把握した日から
3か月以内に申し立てを行う必要があります。
また、自分が相続人であることを把握しておらず、債権者からの通知等で相続人であることを知った場合は、
通知を受け取った日からできるだけ早い時期に申し立てを行う必要があります。
4.まとめ
相続放棄についてご説明しましたが、3か月以内の期限が決められているため、
早急に判断しなければなりません。相続放棄を検討されている方は、まず、
家庭裁判所などへお尋ねされるのがよいでしょう。
なお、法律事務所では、被相続人の財産調査も行っておりますので、
ぜひ専門家にご相談されることをお勧めいたします。