相続を考えるにあたり、「遺言書」は切っても切れない関係だということはご存知の方も多いのではないでしょうか。
しかし、遺言書はただ作成すれば良いわけでもなく、要件を満たさなければいけなかったり、要件から外れたものになってしまったりした場合は、せっかく作成した遺言書が無効となってしまうこともあります。また、そのほかにも意外と知らないポイントがあったりします。
今回は、遺言書作成における禁止事項と、有効性が問われるケースについていくつかご説明します。
1.共同遺言の禁止
まず、1つ目です。1つ目に取り上げるのは「共同遺言の禁止」です。共同遺言とでは何なのかというと、「同一の遺言証書で2人以上の者が遺言をする」ことを言います。民法第975条で「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」と定められているので共同遺言は禁止されているのです。
なぜ、共同遺言は禁止とされているのでしょうか?
それは、
・遺言書作成後、遺言撤回の自由が制約されてしまう
主に以上のような理由からです。
民法において、「遺言は他人の意思に左右されることなく行わなければならない。また、遺言者が自由に撤回できるべきものである」と定められていますから、これを共同で作成してしまうと、お互いに内容が見えてしまい気にしてしまいますよね。
また、共同作成してしまうと、遺言書の書き直しや撤回も2人そろって行わなければなりません。こういった制約が出てきてしまうので共同遺言は禁止されています。
ちなみに、裁判例によっては、形式的には共同遺言であるが、実質的には共同遺言にはあたらず、有効であると認められているケースもあります。
しかしながら、これは裁判所のその事例に応じた一つの判断に過ぎませんので一概には言えません。
ご夫婦で遺言書を作成されることがあったとしても、必ず、遺言書は1人ずつ作成しましょう。
2.遺言代理の禁止
次に、遺言は代理で行うことも禁止されています。遺言を代理で行うというのは、遺言書を代理で作成するということです。これは、自筆証書遺言にも公正証書遺言にも該当します。自筆証書遺言を代筆することも出来ませんし、公証役場に委任状を持って行っても作成は出来ません。公正証書遺言作成の際は、あくまで本人が出向く必要があります。専門家がサポート出来るのは、遺言書の内容の検討や公証役場での立ち合いの部分になります。
これは、未成年が遺言書を作成する場合も同様です。未成年であっても、15歳以上で意思・能力があれば遺言できるので、代理ではなく本人が遺言しなければなりません。(15歳未満の未成年は、遺言ができません。)
なぜ、遺言代理が出来ないのでしょうか。
それは、遺言というのはそもそも人の最終的な意思表示であって、遺言者本人の意思を最大限尊重する必要があり、遺言者が選定した代理人であっても、その意思を表示させることが出来るのか疑わしい、かえって代理人本人の意思が反映されてしまうことにもなりかねないためです。
また、遺言の代理というのは遺言書作成だけに限りません。
「遺産の分割方法を〇〇に委ねる」という内容の遺言であった場合、遺言書は無効になったという例があります。
これは、遺言書によって受遺者が定められていたわけでもなく、さらに遺産分割方法も明記されていなかったので、遺贈(遺言によって遺産を受け渡すこと)の本質的な部分を第三者に委ねるということになってしまうため、すなわち遺言代理とみなされ、無効となってしまったのです。
仮に、この分割方法を決定する人に、法定相続人以外の人を抜擢していた場合は、遺言書が無効となり、法定相続人ではないため遺産を相続する権利のないその人に一切の遺産が渡らない可能性もあるので、きちんと具体的な分割方法を明記しておくのが良いでしょう。
3.受遺者が亡くなった場合の遺言
遺言者よりも先に、遺言書で遺産を受け取る人として指定していた受遺者が亡くなってしまった場合はどうなるでしょうか?
答えは、「その遺言は無効となる」です。民法第994条1項において、「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定められています。
そのため、たった1人を受遺者と指定して遺言をしていた場合は、その遺言自体が無効となってしまうのです。
なお、受遺者を複数人にしていた場合は、先に亡くなった人の部分だけ遺言が無効となります。
また、無効になった遺言については法定相続に戻ります。
以上のように、受遺者が遺言者よりも先に亡くなってしまった場合は、遺言が無効となってしまうので、そういった場合の対策として、予備的条項を含めた遺言書を作成することも可能です。予備的条項とは、ここでは不測の事態に陥った場合に備えて記しておく第二の遺贈方法のことです。例えば、○○が遺言者の死亡前に死亡したときは、財産全部を○○に相続させる等という記載をすることになります。
また、予備的条項を記載していなかった場合でも、その事実を知った場合は遺言書を作成し直すなど、必要に応じて対応可能です。
まとめ
今回は、皆さんが意外と知らない遺言書作成のポイントについてご説明しました。
実際に作成するときは、今回ご説明した以上に細かく定められていることがありますので、遺言書を作成する際は一度専門家へご相談されることをお勧めします。