民法改正によって、相続に関する法律や制度が大きく変わっており、これまで何回かにわたってその内容をお話しております。
前回は、預貯金の仮払い制度についてご説明させて頂きました。
前回の記事はこちら
今回は、その続きとして、「自筆証書遺言の方式の緩和」と「自筆証書遺言保管制度の創設」について、具体的に説明をしていきます。
※この改正民法は、基本的に法律の施行日より後に発生した相続、つまり施行日より後に被相続人がお亡くなりになったケースでのみ適用されます。
施行日より前に被相続人がお亡くなりになられたケースでは、あくまで改正前の民法が適用されることになりますので、ご注意ください。
もくじ
1.前回のおさらい
①配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設
②特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
③預貯金の仮払い制度の創設
④自筆証書遺言の方式の緩和、自筆証書遺言保管制度の創設
⑤遺留分の算定方法の見直し、遺留分減殺請求の効力の見直し
⑥権利取得の対抗要件の見直し
⑦特別寄与料の新設
今回は、「自筆証書遺言の方式の緩和」と「自筆証書遺言保管制度の創設」について具体的に説明していきます。
2.これまでの制度だと自筆証書遺言は作りにくかった?
自筆証書遺言というのは、文字通り遺言書を作成する人が手書きで残す遺言書のことです。
皆さんが遺言書と聞いて、おそらく真っ先に思い浮かべられるのがこの形の遺言書かと思います。
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば誰でも作成することができ、思い立った時にすぐに作ることができるため、最も作成しやすい遺言といえるのですが、逆に「全文の自署」という要件がネックになってしまうこともありました。
財産の目録を含めて、一言一句全て手書きしなければいけないので、残したい財産が多い方であれば、遺言書を書くだけで一苦労ですよね。
さらに、ご病気で寝たきりになってしまい自分で文字を書くことができない人であれば、遺言書の作成をすること自体が難しいですし、体が不自由でうまく文字を書けない人などであれば、遺言書のすべてを手書きするということは大きな負担になってしまいます。
そして、自筆で遺言書を残していたとしても、うまく字が書けていなくて、書かれた文字が判別できなかったときは、遺言としての効力が認められないという可能性もありました。
3.制度の変更ですべてを自署しなくてもよくなりました!
このような問題点を考慮し、今回の法改正では自筆証書遺言を残す際の方式が緩和され、財産目録については、一部自署でなくてもよくなりました。
具体的な法改正の内容は以下のとおりです。
- これまで通り、遺言書自体は全て自署が必要です。
- 財産目録については、自署でなくて大丈夫になりました。
財産の目録は、手書きしなくてよくなりましたので、パソコンで作成ができます。
また、財産の中に不動産がある場合は、不動産の登記事項証明書を、預貯金については通帳のコピーを添付すれば足りるようになりました。
一点注意しなければいけないのは、パソコンで作成した財産目録と、登記事項証明書、通帳のコピーにも、遺言者本人の署名捺印が必要になるということです。
これがなければ、無効になる可能性がありますので、気を付けましょう。
4.法改正で自筆証書遺言がより安全に保管できるようになりました
さて、ご自身で自筆証書遺言を作成された場合、おそらく大多数の方がご自宅で保管をされているかと思いますが、やはりご自宅での保管は紛失・改ざんのリスクが高くなります。
例えば、ご自宅が火事になって遺言書が無くなってしまったり、ご自身がお亡くなりになった後で、遺言書の存在を良く思わない相続人が遺言書を隠してしまったり、そもそも自宅のどこに保管しているかが分からず、せっかく作成した遺言書が発見されないという可能性もあります。
このようなリスクを避けるためには、これまでは公正証書遺言を作成し、公証役場で保管をすることが一般的でしたが、どうしても自筆証書遺言よりも作成の費用がかかってしまっていました。
そこで、今回の法改正で、自筆証書遺言をより安全に保管できる方法として、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が始まりました。
法務局での保管については、紛失や偽造・改ざんのリスクが無いという点に加えて、本来であれば自筆証書遺言は開封する前に家庭裁判所での検認手続きを行う必要がありますが、法務局保管をしていればその手続きが不要になるという点がメリットとしてあげられます。
法務局での自筆証書遺言の保管をご希望される場合、作成する遺言書の書式(用紙の余白の指定など)にいくつか決まりがありますので、その点は注意しておきましょう。
まとめ
自筆証書遺言はご自身でいつでも作ることができますが、形式の不備だけでなく、遺言の内容に不備があって無効になってしまうこともあります。
せっかく作成をしたのに要件をみたしていなかったが故に意味をなさないものになってしまっては勿体ないですので、自分で遺言書を書きたいと思われる場合でも、内容に関しては専門家に相談のうえで作られることをお勧めします。
当事務所では、法務局保管に対応した形式での自筆証書遺言作成も可能ですので、法務局での遺言書保管をご検討の方はぜひご相談ください。