私たちもしょっちゅう出会うケースではありませんが、相続人であるご家族の中に行方不明の方がいらっしゃるご家庭も意外とあるものです。
長年行方不明の場合、本人としてはわざわざ行方不明の親族に対して財産を残す意向は少ないでしょうから、遺言書なんて作る必要がないと思ってらっしゃるケースが多々あります。
しかし、これが大きな勘違いで、相続人の中に行方不明者がいるご家庭こそ、何としても遺言書を作成しておかなくてはならないものです。そこを詳しくご説明しましょう。
1 行方不明者と遺産分割
遺言書を残さなかった場合、遺産分割協議を行って、相続人全員で遺産をどのように分けるか話し合って決め、その内容を遺産分割協議書に落とし込んで遺産分割が完了するものです。
では、相続人の中に行方不明者がいたら、どうやってこの遺産分割協議を行うのでしょうか?
結論から言うと、行方不明者がいる場合、相続人が全員揃わないため遺産分割協議の当事者が全員揃わず、遺産分割協議が成立させられません。
しかし、長年行方不明であって探しても見つからないし、出てくるのを待つわけにもいきませんし、もしかしたら生きてない可能性もあります。そのような場合、遺産分割協議はどのように進められるのでしょうか?
2 不在者財産管理人
相続人の中に行方不明者がいる場合、話し合いである遺産分割協議だけでなく当事者が揃わないため遺産分割調停など家庭裁判所の手続きも進めることができません。
そこで、民法は行方不明の人の財産管理を行う係を制度として定めています。それが不在者財産管理人になります。
不在者財産管理人とは、行方不明になってしまった人がどこかで生きているかもしれないため、その人が元気に現れるまでの間、暫定的に財産を管理してあげる係になります。
3 遺産分割と不在者財産管理人
このような制度を活用し、行方不明者が相続人の中にいる場合には、まずはその行方不明者の代わりに遺産分割協議書に印鑑を押してくれる係として、不在者財産管理人を選任するよう家庭裁判所に申し立てます。
その上で、家庭裁判所が独自の調査も行って、確かに行方不明だと認定した場合には、不在者財産管理人の選任がなされます。(この調査の中で、家庭裁判所が全国のハローワークに対して雇用保険の加入状況に関する照会をかけますので、どこかで働いている人はこの調査に引っかかり勤務先が判明して、居場所が分かることが結構あります。
実務では、行方不明者を探し出す調査を行うために不在者財産管理人を申し立てることもあったりするくらいです。)
不在者財産管理人は選任されると行方不明である相続人の財産を管理する権限が与えられますので、その人の取り分としてもらえる相続分について、管理権限を持ちます。つまり、遺産分割協議に参加して、遺産分割協議書に行方不明の本人に代わって印鑑を押す権限が与えられるのです。
このように、相続人の中に行方不明者がいる状況で遺言書がないまま相続が発生すると、不在者財産管理人の選任申し立てを行って、それから遺産分割協議を行うというかなり面倒な手続きを取らなくてはなりません。
また、この手続きはなかなか素人では難しいでしょうから、弁護士に依頼をしてお金をかけて行うことになります。
4 遺言書があると
しかし、このケースで遺言書があったらどうでしょう?
このケースで遺言書があり、遺言執行者が選任されていれば、遺産分割協議は必要なく、遺言執行者が遺言執行者の印鑑だけで全ての手続きを行うことになりますので、行方不明である相続人に押印してもらう場面が生まれません。(遺言書を書いただけで、遺言執行者を選任していなければ、金融機関の解約等の相続手続きにおいて結局は相続人全員の印鑑が必要になりますので、遺言書がない場合と問題状況は変わりません。必ず遺言執行者を選任するようにしておきましょう。)
このように、行方不明者がいる場合、遺言執行者を選任した上で遺言書を作成しておくと、相続人の中に行方不明者がいることがその後の相続手続きでネックになりませんので、その後の手続きが全く変わってきます。
残された相続の必要な手続きも全然違いますので、注意が必要ですね。
5 まとめ
以上の通り、相続人の中に行方不明者がいるようなご家庭は必ず遺言執行者を選任した上で遺言書を作成すべきです。
これを行っておくことによって、不在者財産管理人などの余計な手続きを経ることなく相続手続きを完了させることができますので、行方不明者がいるご家庭は必ず作成しておきましょう。