遺産相続の際、遺産総額が一定の条件を超えると、相続税が発生してしまいます。
遺産を受け取るのに税金がかかるなんて…。とお思いの方も多いのではないでしょうか。
実は、相続税というのは工夫次第で節税することが可能です。
今日はその対策の1つとして養子縁組についてお話したいと思います。
1.養子縁組とは?
そもそも、「養子縁組」とは何なのかご説明します。
養子縁組とは、血縁関係がない、または嫡出親子関係が無い者同士で親子関係を結ぶことをいいます。
「婿養子」や「連れ子」という言葉を耳にすると思うのですが、これらは、養子縁組をしていなければ「養子」と呼ばれたとしても全く別物になりますのでご注意下さい。
養子縁組をすることにより、親子関係が成立し、相続人とみなされることになるのです。
ちなみに、養子縁組は、普通養子縁組と特別養子縁組の2つに分けられ、普通養子縁組は実の親との法律上の親子関係が解消しないまま養子縁組をすることをいい、一方の特別養子縁組は、実の親との法律上の親子関係を解消し、新たに親子関係を結ぶことをいいます。今回、節税の面からいうと、普通養子縁組でも特別養子縁組でも効果は変わりません。
2.養子縁組による節税効果
次に、養子縁組により、相続が発生した場合どのような効果が得られるのかをご説明します。
①基礎控除額の増加
相続税には、基礎控除額と言い、この金額以下であれば非課税であるという金額がありますが、この相続税の基礎控除額は、3000万+600万×法定相続人の人数と定められています。
1人増えると600万円基礎控除額が増加します。
そのため、相続人が増えると必然的にこの控除額も大きくなるのです。
②生命保険・死亡退職金の非課税枠の増枠
生命保険では、非課税枠が「500万円×法定相続人の人数」と決まっています。
養子縁組で法定相続人が増えることにより、①基礎控除額の増加と同様に、非課税枠が大きくなります。
死亡退職金は、被相続人が本来会社から受け取るはずだった退職金のことです。これも、生命保険と同じく「500万円×法定相続人の人数」の非課税枠があるため、非課税枠が増え節税になります。
③適用税率の軽減
さきほど、基礎控除額についてお話しましたが、遺産総額が基礎控除額である「3000万+600万円×法定相続人の人数」を超えた場合は相続税かかってしまいます。そして、相続税とは1人当たりの遺産の取り分(=法定相続分)により税率が変わってきます。この税率を適用税率といいます。適用税率は、法定相続分が大きくなるほど高くなります。
養子縁組で法定相続人が増えると、法定相続分が減りますので、適用税率が下がるので、節税になるというわけです。
適用税率は、以下の通りです。
法定相続分 | 適用税率 | ※控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※控除額:実際の相続税の額は、「法定相続分×適用税率」から控除額を引いた額になります。
3.養子縁組のデメリット
ここまで、養子縁組によって得られる節税効果(=メリット)をご説明しましたが、実は、デメリットも存在します。
①そもそも、養子縁組は節税目的では認められない可能性」がある
養子縁組は、結果として節税対策にはなりますが、節税を目的として養子縁組をすることは難しいです。
養子縁組を行う際は、裁判所に申し立てを行う必要があり、理由を説明しなければなりません。
一般的な養子縁組の理由は
- 相続人ではないが恩があるので法定相続分の遺産を渡したい
- 家業を継がせるため(跡取り)
- お墓を継がせるため
などが挙げられ、裁判所からも認められる場合が多いです。
しかし、明らかに節税目的になってしまうと、否認され養子縁組が出来ない恐れがあるので注意が必要です。
また、養子縁組出来ても実際に相続が発生した際に、税務調査が入り、その際に養子縁組が節税対策だと認定されてしまった場合は、養子が法定相続人にならない場合もあります。
こういった場合もあるので、跡取りがいない…などとお困りであれば養子縁組を行うことで跡取り問題も解決、かつ節税にもなりますが、節税目的だけの場合は慎重にならなければいけません。
②税務上の法定相続人として認められる養子は「2人」
民法上では、養子の数に制限はありませんが、相続税法上では制限があるのです。
これは、実子がいる場合といない場合で異なりますが、実子がいる場合、税法上法定相続人と認められる養子は1人、実子がいない場合は2人となっています。
節税になるからと何人も養子縁組をしたとしても、これらの制限を超えてしまっては無意味となってしまうので注意が必要です。
③他の相続人とのトラブルに注意
養子縁組をすることで、節税の効果は得られますが、法定相続人が複数人いる場合は法定相続人のそもそもの取り分が減ってしまいます。
そのため、それを良しとしない人も中にはいるかもしれません。そうなった場合は、遺された相続人同士のトラブルになりかねません。
そういったトラブルを防ぐためにも、実子がいて養子縁組をお考えの場合は、実子にも相談の上行い、トラブルのリスクを減らしておくのが良いでしょう。
まとめ
養子縁組について、ご理解いただけたでしょうか?
跡取り問題や節税対策にもなる反面、実子がいた場合、ご家族と事前に話し合っておかないと、相続発生時に残されたご家族が思わぬトラブルに直面することもあります。
そういったトラブルを防ぐためにも、少しでも養子縁組を考えている方がいらっしゃれば事前に専門家へのご相談をおすすめします。