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後見対策

法律から見た本人(被後見人)の意思

2019.02.05

判断能力が著しく低下した本人の法定代理人として、本人の生活における様々なことへ対処していく成年後見人。
成年後見人としての業務を遂行するにあたり、何が本人のためになり、本人は何を望んでいるのか、と悩むことは多々あります。
以下の内容については、そのような時の参考にしていただければと思います。

1.本人の意思の制限

後見人が行った法律行為の効果は本人に帰属しますが、委任契約による代理と異なり、代理権の内容や範囲に制約はありません。
つまり、包括的な代理権を認められていることが後見制度という仕組みの根幹的な核心となっています。
そして、後見人が後見業務を遂行するにあたり、民法第858条に次の内容が定められています。

民法第858条「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」

この条文は後見業務を行う際の基本的な指針であり、本人の意思の尊重、身上配慮義務と呼ばれるものです。このことから、後見人に包括的な代理権が認められているとはいえ、本人の意思に配慮しない後見業務というものは認められないと考えられています。
そもそも、後見人が就任しているということは、本人の判断能力が著しく低下していることが前提として考えられますが、意思表示の可否に関わらず、後見人は本人の意思を確認することが必要不可欠なのです。

しかし、本人の判断能力が低下していることが原因で、本人の意思表示が社会的に認められない状況にありますので、それが本人へ経済的、身体的、悪影響を及ぼすとき、後見人は本人の意思よりも身上配慮、生活状況への配慮を優先して後見業務を遂行すべきでしょう。

2.後見人の権利義務

後見人が有する権利は「代理権」、「取消権」、「追認権」の3種類となります。
本人は契約等の法律行為が出来ないため、後見人に同意権は付与されていません。
もし、本人が何らかの契約を行った場合、後見人は契約の内容を確認し、追認権、若しくは取消権を行使し、その契約に対する処理を行います。

これに対する義務として、後見人には「身上配慮義務」、「財産管理義務」の2つの義務があります。
身上配慮義務が必要となる一例として、医療契約の締結、施設への入所のための契約締結等が挙げられます。後見人はこれらの契約に際し、後見人のみの判断で決定するのでなく、本人の生活状況、本人の意思、身上に十分に配慮したうえで契約締結を行わなければなりません。
なお、これらの条件を満たすには、後見人は本人と接点を持ったうえで、本人の生活状況、本人の意思を確認しなければ、適正な後見業務の遂行は難しいでしょう。

また、財産管理義務と身上配慮義務を並行して考えなければならないケースもあります。施設へ入所している本人の居住用不動産(自宅等)の売却を例として考えていきます。
後見人は本人の資産状況を把握したうえで、資産維持のために居住用不動産の売却がやむを得ないと考えることはあるでしょう。
しかし、居住用不動産を売却するということは、その他の資産状況によっては本人が帰る場所を失うこととなり、本人の今後の生活へも大きな影響を及ぼします。

このような場合、後見人は金銭面以外の部分で、居住用不動産が本人にとってどれだけの価値があるものか(経済的な価値に限らず、生活の本拠としての機能性などを含む)などを事前に確認をすべきです。
また、施設の関係者と緊密に連携し、今後の本人の看護、介護計画等をよく把握し、将来的に自宅に戻れる可能性についても検討します。そして、本人へ居住用不動産の売却について丁寧に説明し、必要性を理解してもらうよう努力することが必要です。(成年被後見人は、認知症の方が多いですが、日によっては多少の判断能力がある場合もあります。)

このように、財産管理義務というのは決して帳簿上の金銭管理だけではなく、本人への身上配慮義務が同時に必要となるケースもあることを認識し、後見業務を遂行していくべきでしょう。

3.本人の意思の尊重

成年後見人制度は、本人の判断能力が著しく低下しており日常生活も困難な場合のための制度ですが、本人が代理人に頼らずに自らなし得る法律行為が存在します。

1つ目は、日用品の購入、その他日常生活に関する行為です。民法では本人の法律行為について以下の様に定義されています。

民法第9条「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」

民法第9条内のただし書きの部分を読むと、日用品の購入、その他日常生活に関する行為については、本人が代理人によらず行える法律行為であり、後見人も取消権を行使することが出来ないと解釈できます。
そもそも、後見は日用品の購入も満足にすることが出来ない方を対象としているため、後見制度の趣旨と相反する内容になっていますが、本人も通常の生活を行うことができるようにという配慮を示すノーマライゼーション(誰もが健常者と同様の生活が出来る様に支援するべきという考え)の表れであると考えられています。

2つ目は、身分行為となります。身分行為とは、主に婚姻、協議離婚、任意認知、養子縁組、離縁であり、成年後見人の同意を要しないという規定があるか、それが準用されています。
これらの行為は愛憎に基づく行為であり、本人の判断を尊重され、本人のみがなし得る行為であると考えられており、後見人は同意も代理も出来ず、取消も出来ないこととなります。

また、医師の立ち合いも、診断書も必要とされていないため、理論上、これらの私的行為には介入が出来ません。
これらの行為に後見人が介入すれば、本人の意思が尊重されず、結果的に本人の権利を侵害することに繋がる可能性があるためです。

また、最後に、医師の介入が条件とはなりますが、本人には遺言書の作成も認められています。一時的に事理弁識する能力が快復した時に、医師2人以上の立会いのもと、遺言書の作成が可能となります。遺言書の作成が認められた場合、後見業務とは別に、本人は自らの意思で遺言書を作成し、財産処分が可能となります。
以上の行為については、本人の意思が尊重されるべき行為として、基本的に後見人の介入は認められておりません。

4.まとめ

以上の通り、後見制度というのは大きく2つの側面があると言えます。
1つ目は、事理弁識能力がないということを前提に、本人では法律行為が出来ないという側面です。この場合、後見人は本人の意思を尊重しながら代理行為を行うべきであると考えられます。

もう一方は、日常生活の基本となる行為であり、単独で行うことが可能なものです。加えて、身分行為に関しては、本人の私的な問題であり、代理行為には適さないため、本人の意思、判断に任せられます。
また、これらには原則的に後見人の介入はないため、場合によって後見人の全く知らない間に、身分行為、遺言書の作成等が行われる可能性も存在するということです。

後見人は、後見業務を遂行するにあたり、「本人の意思を確認し、可能な限り尊重することの重要性」、また、「後見人の介入が馴染まず、本人の意思が尊重されるべき行為」について、正しく理解して取り組むことが最終的に本人の利益へ繋がることになるでしょう。

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