現在の民法で定められる相続は均分相続が原則とされています。
例えば被相続人(亡くなった方)の配偶者が既に死亡しており、子のA、B、Cの3人が相続人、うちAに事業を後継したいと意向があり、財産も事業用資産が大半だった場合、どのように対策をすればいいでしょうか?
1.法定相続分による相続
はじめに申し上げましたとおり、法定相続は均分ですので被相続人が生前に相続対策を講じなければ、民法の定める相続分にしたがって行われます。
3人の子(A、B、C)のうち『Aを事業の後継者にしたい』という相続のケースはめずらしくありません。
被相続人の配偶者は亡くなっており、子のA、B、Cはご兄弟のため法定相続分は3分の1ずつです。
財産の大半が事業用資産だった場合、法定相続分どおりの遺産分割を行うとなれば後継者をAにしたいという被相続人の意向にも関わらず事業用財産である不動産や自社の株式を3分の1ずつ、事業を承継しない者(B、C)にも散逸しなければいけません。
このケースでのリスクは以下のようになります。
不動産や自社の株式が多く現物分割ができないからといって金銭に替えてこれらを分割してしまうと即ちAへ経営の継承が出来なくなってしまいます。
②現物分割によって起こる経営権のはく奪
不動産や自社の株式を現物でBとCが取得した場合は不動産の賃料の増額請求、立ち退き請求などが行われる可能性があり、のちのち経営権のはく奪への問題に発展することもあります。
③法定相続分を超えた代償金を支払うことが難しい
後継者Aが不動産や自社の株式を相続するために、相続財産の3分の2(B、Cへ各3分の1ずつ)相当の代償金を支払う(代償分割)を行う場合、Aの法定相続分3分の1をゆうに超えた代償金を支払わなければいけません。
2.遺言のみが法定相続分を変更できる
こういったケースでは法定相続分を前提とした遺産分割協議の成立は困難を極めることになります。ではどのようにすれば、Aに事業用資産を継承させることができるのでしょうか。
この点、後継者の有する法定相続分が事業用資産を取得するのに不足している場合には、後継者の相続分を増やす必要があります。
民法で定めている法定相続分を変更できるのは被相続人に限られています。
そして、被相続人は推定相続人(被相続人が死亡した場合に、法律の定めから原則として相続権があると考えられる人)の相続分を民法と異なる内容に指定できる方法が「遺言」なのです。
遺言により指定された相続分を「指定相続分」といいます。
後継者に確実に事業用資産を取得させるには、被相続人が前もって指定相続分を遺言として残しておく必要があります。
3.まとめ
金銭では分割できない財産を継承する場合、被相続人が前もって対策を立てておくことが必要だということがわかりました。
しっかりと継承対策を立てておくことで、大切なお子様たちが起こさなくてもよい紛争が起こる状況を回避することができるはずです。
相続したい財産や相続人の状況によってさまざまな手続きや遺言書の内容が異なります。ぜひ一度遺言書作成や相続に経験が豊富な弊所の専門家にご相談してみてはいかがでしょうか。