前回は、生前贈与による相続税対策のうち、主に暦年贈与についてご説明させて頂きました。
今回は、前回に引き続き生前贈与による相続税対策のうち、相続時精算課税制度の活用について詳しくご説明させて頂きます。
もくじ
1 相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度とは、贈与者が贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、受贈者が贈与を受けた年の1月1日において20歳以上(なお、令和4年4月1日以降の贈与は18歳となります。)の者のうち、
贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫である場合に、特別控除枠2500万円超の贈与財産額についてのみ贈与の課税対象となる制度です。
つまり、2500万円迄の贈与であれば、贈与税の負担なく贈与を行うことができる制度です。
特別控除枠を超える部分については、一律20%の贈与税がかかります。
例えば、贈与額が3000万円の場合、特別控除枠2500万円を超える500万円に対して、
500万円×20%=100万円の贈与税が発生することとなります。
なお、相続時精算課税制度は特定の贈与者との関係で選択するものとなりますので、
他の贈与者からの贈与については、前回説明した暦年贈与制度の適用を引き続き受けることができます。
2 具体的な手続きは?
それでは、相続時精算課税制度の特例を受けるためには、どのような手続きを行う必要があるのでしょうか。
当該制度の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税制度の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に、
①相続時精算課税選択届出書
②住民票の写し(なお、令和2年1月1日以後の贈与については不要となりました。)
③戸籍謄本等の一定の書類
を添付のうえ、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。
3 相続時精算課税制度選択時の相続税について
相続時精算課税制度を選択した場合、相続時精算課税制度を利用した贈与額の合計と、相続財産の合計額から相続税を算出することになります。また、算出された相続税額から、相続時精算課税制度に基づき負担している贈与税額を差し引いた金額が最終的な相続税額となります。
仮に、既に負担している贈与税額が、算出された相続税額を上回った場合、
払い過ぎた贈与税額分の還付を受けることができます。
但し還付を受けるためには相続税申告を行う必要がありますので、注意が必要です。
ここで具体例で考えてみましょう。
例えば、親が子に対し、3000万円の生前贈与を行った場合
(3000万円-2500万円)×20%=100万円が贈与税額となります。
その後、親が死亡した際に相続税が発生する程の相続財産がないのであれば、贈与税100万円の手続きを経ることにより、100万円の還付を受けることができます。
4 相続時精算課税制度を選択する際のメリット・デメリット
①メリット
以上のとおり、相続時精算課税制度は、一定の要件を満たす場合に2500万円の範囲内であれば非課税となる制度ですので、仮に贈与者の財産が相続税の基礎控除額以下である場合には、相続時に贈与分を加算しても相続税が発生しないため贈与税・相続税のいずれもかかることなく贈与が可能となります。
また、推定相続人にまとまった資産が必要な場合に、そのタイミングで当面の贈与税の負担なく
贈与が可能となります(上述のとおり、相続税の基礎控除額以下である場合は、相続税の負担もありません)。
更に、上記3のとおり、相続時精算課税制度を選択した場合、相続時精算課税制度を利用した贈与額の合計と、
相続財産の合計額から相続税を算出することになりますが、この「贈与額」とは、申告時の時価となり、相続発生時の時価ではありません。
したがって、不動産のような価額変動がある財産を贈与した場合には、相続時に時価が高騰していたような場合には、相続税を抑えることができます。
②デメリット
上記のとおり、相続時精算課税制度を選択するメリットを挙げることができますが、
当然ながらデメリットもあります。
例えば、相続時精算課税制度を一度選択すると、撤回して暦年贈与の適用を受けることができません。
また、上記2のとおり相続時精算課税制度を選択する場合には、必ず届出が必要であり、また、特別控除枠2500万円を超える贈与については、毎年申告が必要となりますので、申告の手間がかかる点もデメリットといえるでしょう。
更に、上記①の最後で述べた点の裏返しとして、贈与された財産の価額が相続時において下落していた場合には、結果的に相続税が高くなってしまう可能性があります。
その他、相続時精算課税制度を選択した場合、小規模宅地等の特例と併用することができません。
当該特例の詳しい説明は改めてさせて頂きますが、簡単に申し上げると、一定の条件を満たす状況で土地を相続した場合に、当該土地の評価額が最大80%減額される特例です。
状況によっては、小規模宅地等の特例を利用できないことデメリットとなりますので、土地を贈与する場合には、いずれの制度を選択するか検討が必要となります。
5 まとめ
今回は、相続税対策のうち、生前贈与の活用例としての相続時精算課税制度について説明致しました。
次回は、今回ご紹介できなかった生存贈与の活用例についてご説明させて頂ければと思います。
生前贈与を活用して相続税対策をしたいが、暦年贈与、相続時精算課税制度のうち
どちらを活用するのがご自分にとって最適なのかよく分からないといった方は
是非一度相続に詳しい専門家にご相談されることをお勧め致します。