相続をめぐって相続人の間でトラブルが起きないように、生前に相続対策をしておくことは非常に大切です。
生前の相続対策には様々な方法がありますが、この記事ではその1つの手段として「死因贈与」についてご説明致します。
もくじ
1.死因贈与ってなに?
死因贈与とは、贈与者(財産を渡す人)と受贈者(受け取る人)の間で、「贈与者が死亡した際に指定した財産を受贈者に贈与する」という内容の契約を結ぶことです。
一般的に周知されている、遺言によって特定の人に財産を相続するという意思表示をすることは「遺贈」といい、贈与者の死亡によって相続財産移転の効力を生ずるという点においては、遺贈も死因贈与も同様の性質を持ちます。
しかし、遺贈は単独行為であり、贈与者の意思表示によって成立しますので、受遺者の承諾が不要なのに対し、死因贈与はあくまで契約であり、贈与者と受贈者の意思の合致がなければ成立しません。
また、遺贈は贈与者が受遺者に贈与する意思を示した遺言書が必ず必要となりますが、死因贈与の契約は必ずしも書面で取り交わす必要がなく、双方の意思の合致があれば口約束でも成立するものとされています。
なお、書面によらない贈与の場合だと、一定の場合を除き撤回が可能となりますので、注意が必要です。
死因贈与の種類の1つに、贈与者と受贈者の間で何らかの義務・負担を課した契約を交わす「負担付死因贈与」というものがあります。
「負担付死因贈与」とは、相続が発生するまで受贈者が贈与者に対して課された義務・負担を遂行し、相続の発生後に受贈者が贈与を得ることができるものです。
例えば、「自分が死ぬまで同居して介護をしてくれたら、不動産を贈与する」「住宅ローンを返済してくれたら、自宅の土地と建物を贈与する」といった内容で契約をすることが可能になります。
なお、受贈者が負担を一部でも履行した後に贈与者が一方的に契約を撤回することは認められておりません。その理由については後述します。
2.死因贈与の手続き方法とは?
死因贈与の契約は双方の意思の合致により成立します。
遺贈の場合は、自筆証書遺言や公正証書遺言等の民法で定められた形式に従って遺言を作成しなければなりませんが、死因贈与の場合は定められた形式はないため、口頭の約束でも契約が成立します。
なお、口頭で契約を交わす場合は、受贈者と贈与者の他に証人が1人必要となるため注意が必要となります。
しかし、口頭での契約は、契約内容について後に相続人との間でトラブルになる可能性が高いため、一般的には死因贈与契約書を作成して取り交わすことが多いとされています。
実際に死因贈与契約書を作成する場合は、以下の項目について明確に記載して作成しましょう。
(1)贈与者と受贈者について
贈与者と受贈者の氏名・住所を記載し、「誰が誰に贈与するのか」を明確にします。
(2)贈与財産について
贈与する対象財産を正確に記載します。対象財産に不動産が含まれている場合は、登記事項証明書の記載に基づき正確な記載が必要です。
また、預貯金の場合は金融機関名と支店名、口座番号、名義人を正確に記載します。
(3)契約の効力について
契約の効力がいつ発生するのかを記載しましょう。具体的には、贈与者の死亡によって契約の効力が生じ、死亡と同時に贈与財産の所有権が受贈者に移転することを明確に記載します。
(4)執行者について
契約内容の執行者を記載しておくと、贈与者の死後、死因贈与契約に基づく様々な手続きを執行者が一任して執り行うことが可能です。
執行者の指定がなければ、各手続きに全ての相続人の署名等が必要となり、契約内容を実現するまでに多くの時間がかかってしまいます。
3.死因贈与のメリット・デメリット
死因贈与のメリットの1つとして、遺贈の場合に比べて受贈者の権利が守られやすいということが挙げられます
。遺贈の場合は、遺贈者が受遺者との合意を必要としないため、仮に受遺者が遺贈を望んでいなかったとしても、受遺者の意向については考慮されません。
しかし、死因贈与は双方の承諾が必要な契約であるため、受贈者にとって望まない贈与が実施されることはありません。
また、もう1つのメリットとして、上記に述べた通り負担付死因贈与契約が挙げられます。 贈与者は、受贈者と負担付死因贈与契約を締結することによって、受贈者に贈与をする代わりに自らの利益となることを負担させることが可能です。
一方、死因贈与のデメリットとしては、遺贈と比較し納税の負担が大きくなる点が挙げられます。
通常土地や建物の名義を相続人に変更する際、登録免許税と不動産取得税等の納税義務が発生しますが、遺贈と死因贈与では以下の通り税率が異なり、遺贈の方が負担は少なくなります。
死因贈与 | 遺贈 | |
登録免許税 | 一律2.0% |
法定相続人:0.4% 法定相続人以外:2.0% |
不動産所得税 | 一律4.0% |
法定相続人:非課税 法定相続人以外:4.0% |
また、負担付死因贈与のデメリットの1つとして、撤回できない場合があることが挙げられます。
遺贈の場合、遺言書は何度でも書き直しをすることができるため、いつでも撤回が可能です。
死因贈与も基本的には撤回が可能ですが、「負担付死因贈与」の場合は撤回が認められない場合があります。
といいますのも、この契約に課されている義務や負担が、たとえ一部であっても既に果たされている場合、撤回を認めてしまうと受贈者にとって不利益となってしまうためです。
4.まとめ
自身の相続について死因贈与を検討されている方は、死因贈与の仕組みや契約書作成時の注意点、死因贈与のメリットとデメリットをしっかり理解する必要があります。
死因贈与の手続きや死因贈与契約書の作成について不明な点があれば、早めに相続の専門家に相談し、万全な相続手続きのため対策を行いましょう。