遺言書で特定の相続人に対して偏った相続が行われ、結果として亡くなった人の遺産を満足にもらえなかった相続人は、他の相続人や遺贈を受けた受遺者に対して遺留分侵害額請求権を行使することで最低限もらえずはずだった遺留分を確保することができます。
では、遺留分侵害額請求権の行使はどのように行うのでしょうか。
今回は、実際に遺留分侵害額請求を行使する方法について解説していきます。
もくじ
1 遺留分侵害額請求の行使の段階
遺留分侵害額請求の行使は、相手方に対する意思表示のみによって行うことができます。必ずしも裁判によって請求する必要はありません。したがって、口頭による請求であっても有効な行使にあたります。
しかし、それだけでは証拠が残らず、相手方がそんなものは行使されていないと主張する可能性があります。
そこで、 内容証明郵便によって請求することをおすすめします。内容証明郵便による場合には、請求内容と送達日時を証拠として残すことができるため、相手方の上記のような主張を防ぐことができます。なお、遺留分がいくら侵害されているかが分からないと通知が送れないと思っていらっしゃる方もいますが、遺留分侵害額請求は、「遺留分侵害額請求をするんだ」という意思表示のみで効果を発揮しますので、金額が未定の間でも通知を行うことは可能ですから、気にせず通知されてください。
もっとも、当事者同士の話し合いで解決できない場合には、遺留分侵害額の請求調停を申し立てることになります。調停にあたっては、調停委員の介入によって合意による解決を目指すことになります。
これによっても話がまとまらなかった場合には、訴訟提起へと移行することになります。
2 遺留分侵害額請求の行使の順序
請求の対象が複数ある場合には、その行使は法定された順番によらなければなりません。
(請求の対象については、遺留分侵害額や遺留分額の算定の記事に詳しく書いてありますので、そちらをご参照ください。)
そこで、遺贈と贈与の双方が存する場合が考えられます。遺贈とは、遺言による贈与のことで、贈与はここでは主に生前贈与のことをいいます。
この場合には、まずはより現在に近い時期になされた方の遺贈について請求し、それでも遺留分侵害額に足りない時に贈与について請求することになります。
遺贈は、相続開始によって効力が生じ、相続財産から支出されるため、相続財産に含まれない贈与よりも請求による影響が少ないからです。
3 複数の遺贈又は贈与(同時期)がある場合
(1) 相続人に対する遺贈の場合
次に、相続人に対する複数の遺贈又は同時期における複数の贈与がある場合には、これを受けた相続人にも遺留分が認められることから、それぞれの受遺者の遺留分を超える部分が請求の対象となります。
(2) 相続人以外の者に対する遺贈の場合
他方、相続人以外の者に対する複数の遺贈がある場合には、遺贈者に特段の意思表示がない限り、遺贈の目的物全体についてそれぞれの価額の割合に応じて請求することができます。
例えば、Aに対する遺贈が500万円、Bに対する遺贈が1000万円の場合、全体額は合計1500万円なので、遺留分侵害額のうちAに対して3分の1、Bに対して3分の2の割合ずつ請求を行うことができます。
4 異なる時期に複数の贈与がある場合
次に、異なる時期に複数の贈与がある場合には、相続開始時に最も近い最後の贈与から順に請求していくことになります。
なお、死因贈与については、遺贈と同じように考えられているため、遺贈の次に減殺の対象となります。
5 まとめ
このように遺留分侵害額請求権の行使は、遺贈や贈与の時期や人数によって行使すべき順序が異なっており、誤った順序によって行使した場合には行使の効力が認められなくなってしまい、さらなる負担が増加してしまいます。
当事者同士での解決が難しいと感じている方は、時効によって権利行使ができなくなる前にお早めに弁護士に相談することで、早期解決へと繋がります。