神棚や仏壇、お墓等を管理していた方が亡くなった場合、その方のご家族やご親族の方々が引き続き管理を行うことが多いと思います。
このような祭祀の承継について、納得されているのであれば問題はありません。
しかし、自己の意思に反して祭祀承継者として指名された場合、これを拒否することはできるのでしょうか。
今回はこの点についてご説明させて頂きたいと思います。
もくじ
1 祭祀承継とは
祭祀(「さいし」と読みます。)とは、神様や祖先を祭ることをいい、そのための財産には先祖代々の家系図や仏壇、神棚、位牌などの祭具並びにお墓が含まれます。
つまり、祭祀承継(「さいししょうけい」と読みます。)とは、神様や祖先を祭り、お墓や神棚などの祭祀財産の管理を引き継ぐことをいい、祭祀を承継する人のことを「祭祀承継者」といいます。
2 誰が祭祀を承継するの?
⑴ 民法上の規定
祭祀財産は相続財産には含まれません。ですので、相続放棄をした人であっても祭祀承継者になることはできます。
また、相続財産に含まれないということは、祭祀承継者になり、祭祀財産を引き継いだとしても、相続財産を減らされることはないということになります。
祭祀承継者の決定方法については、民法上以下の通り規定されています。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように、民法において、祭祀承継者は①被相続人が指定する方法、②慣習に従う方法もしくは③家庭裁判所が決定する方法の3つの方法により決定されることになります。
⑵ 判断基準
では、③により決定される場合、どのような判断基準で決定されるのでしょうか。
この点に関して、以下の二つの裁判例があります。
ア 大阪高等裁判所昭和59年10月15日決定
「祭祀財産の承継者を指定するにあたっては、承継者と被相続人との身分関係のほか、過去の生活関係及び生活感情の緊密度、承継者の祭祀主宰の意思や能力、利害関係人の意見等諸般の事情を総合して判断するのが相当であると解される」
イ 東京高等裁判所平成18年4月19日決定
「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」
上記裁判例の通り、祭祀財産の承継者については、被相続人との親密さや、法事や墓の管理などを行う意思や能力等から判断されることになります。
また、被相続人であれば祭祀承継者として指定すると考えられる人がいる場合には、これを踏まえて祭祀承継者が指定されることになります。
3 祭祀の承継は拒否できるの?
上記①②③の方法により祭祀承継者に指定されてしまった場合、残念ですがこれを拒否することはできません。
祭祀財産が相続財産に含まれない以上、相続放棄の対象にもならず、民法上祭祀の承継を放棄する手段が規定されていないからです。
そのため、一度祭祀承継者として指定されてしまうと、誰か代わりに祭祀承継者になってくれる人が見つからない限り、指定された人が祭祀承継者になるしかないということになります。
4 祭祀承継者として指名された場合、他に打つ手はないの?
そんなことはありません。祭祀承継者は、祭祀の方針を決めることができますし、祭祀財産の処分をすることも可能です。
具体的には、祭祀承継者になったとしても、法事やお墓の管理をすることを法律上義務付けられるわけではないので、これらを行わなかったとしても法律上罰せられることはありません。
また、お墓や仏壇などの祭祀財産についても、お墓はいわゆる「墓じまい」をしてしまう方法や、仏壇についても閉眼供養をした後にお寺に引き取ってもらう方法により処分することができます。
これらの手続をとることで、祭祀財産を管理しなければならないという心理的なプレッシャーから解放されます。
5 まとめ
以上の通り、祭祀承継者に指定された場合、これを拒否することはできません。
ですが、祭祀承継者として、法事の主催やお墓の管理をしなかったとしても、法律上処罰されることはありませんし、祭祀承継者には、祭祀財産の処分権限がありますので、お墓や仏壇などを処分してしまっても何ら問題はありません。
もし仮に、意思に反して祭祀承継者として指定されてしまった場合には、祭祀財産の処分を検討されてはいかがでしょうか。