遺言執行者を指定して、遺言書を作成する人も少なくありません。
では、遺言執行者とは何をする人なのか、遺言執行者は指定した方がいいのか、指定された遺言執行者が任務を怠ったとき、どうすればいいのか…今回は遺言執行者についてお話させて頂きます。
1.遺言の執行
遺言執行者とは相続開始後に遺言の内容の通りに実現する人のことを言います。
遺言の内容が遺産分割の禁止、相続分の指定などだけであれば、遺言の内容を実現するための手続きは不要です。
しかし、遺言の内容が「遺産分割の方法の指定」「遺贈」などであれば、これを実現するための手続き(執行)が必要となります。
遺産分割方法の指定であれば、原則として受益の相続人が単独で手続きできるのですが、遺贈であれば相続人(遺贈義務者)全員の協力が必要となります。
そのため、相続人間で不平等な結果となる遺贈であったり、相続人以外への遺贈であれば、相続人全員が協力するとは限りません。
そのような場合に備えて、遺贈を内容とする遺言であれば、あらかじめ遺言執行者を指定し、遺言執行者が手続きを行う方がいいでしょう。
遺言に従って預金を受け取る相続人や受贈者は、それが「遺贈」であっても「遺産分割方法の指定」でも、銀行に対して、預金の解約払い戻しや名義変更を求めることになります。
遺言執行者を指定していない場合、銀行からは事実上相続人全員の承諾を要求されることが多いので、相続人全員の協力が得られなければ、銀行に対して手続きを行うことができません。
この場合、銀行から遺言執行者の選任を求められることもあります。
ですので、遺言執行者をあらかじめ選任しておくといいでしょう。
不動産については、「遺贈する」とした遺言では、移転登記手続きのために相続人全員もしくは遺言執行者の協力が必要となりますが、特定の不動産を「相続させる」とするなど「遺産分割方法の指定」として特定の相続人に不動産を取得させる内容の遺言であれば、その相続人は単独で移転登記できるため、遺言執行者は必要ありません。
2.遺言執行の妨害
遺言で遺言執行者を指定した場合、相続開始後に就職した遺言執行者は「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務」を持ちます。相続人の協力がなくても、遺言の内容を実現する手続きができます。
相続人は遺言執行者による遺言の執行を妨害することはできません。これは法律でも決められています(民法第10134条)。
また、この場合には、遺言執行者の指定がないため相続そうぞく開始後相続人は、遺言執行者が就任する前でも遺言に反する処分をすることができず、これに違反した処分行為は絶対的に無効となります。したがって、遺言者の石を確実に実現させたいと思うのであれば、「相続させる遺言」であっても、紛争の予防的に遺言執行者を指定する意味は大いにあります。
3.遺言執行者の解任
遺言執行者が「任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」は、相続人らの利害関係人は家庭裁判所に遺言執行者の解任を請求することができます。
例えば、遺言執行者がいつまでも財産目録を交付しない、相続人からの求めに対してまったく対応しない、という場合は「任務を怠ったとき」に当たるものとして、遺言執行者の解任を求めることができます。
また、相続人全員の信頼を得られないことがあきらかであることを理由に相続人からの解任請求を認めた裁判例もあります。
遺言執行者として、弁護士が指定されているケースも多いです。
さて、弁護士は所属弁護士会の監督を受け、品位を失うべき非行があった場合は懲戒を受けることになっています。例えば、弁護士である遺言執行者が一部の相続人に格別誘致な取扱いを図り、公正さを欠く場合、所属弁護士会に対して懲戒を請求することもできます。実際に、懲戒が認められたケースも少なくありません。もっとも、解任請求も懲戒請求も、弁護士を相手にするのは躊躇するでしょうから、事前に他の弁護士か所属弁護士会に相談されるとよいでしょう。
4.おわりに
「もし、相続が発生しても、私たち相続人は仲がいいから、争うことはない」「相続については、相続人間で前々から話しているので、問題が起こることはない」と考えられている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続人たちが、表面上仲良く見えたり、相続人に対して道理を言い聞かせたつもりでも、相続が開始すれば、些細な事が引き金となって紛争が起こってしまうことも多いです。もし、その予感があるのであれば、なおさら遺言執行者を指定しておく必要があります。
相続人間の調整役として遺言執行者を指定するのであれば、遺言執行者はなにより公平中立でなければならないので、共同相続人の一人を遺言執行者にすることは避けて、弁護士等の第三者を遺言執行者に指定することをお勧めします。