今回は、認知の基本的な内容について確認した上、認知がどのように相続にかかわって来るのかについて、専門的見地から、ご説明します。
1.認知について
(1)認知の種類
認知の種類は以下の通りです。
・遺言による認知(民法781条2項)
・裁判による認知(民法787条)
※父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、提起不可(認知の訴えの期間制限)。
(2)死後認知
父親に当たる方がなくなった後、認知の状態になることを死後認知といいます。
死後認知については、大まかにいうと、以下のようになります。
・結婚せずに子供が生まれた場合、認知をせずにそのまま過ごすこともあるが、認知の請求権は放棄できないという解釈なので、父親の生存中は認知請求ができない事情があったとしても死亡したら認知して欲しいという状況もあり得る。
2.認知と相続
(1)認知が遺産分割成立以前の場合
遺産分割に認知された子も入れなければならない。
なぜなら、認知は出生のときにさかのぼってその効力を生じる(民法784条)ことから、認知された子も法定相続人になるため。
(2)認知が遺産分割成立よりも後の場合
ア 910条の趣旨
認知の遡及効は「第三者が既に取得した権利を害することができない」(784条但書)ため、認知前の遺産分割によって既に他の共同相続人が取得していた権利は害されないということになりそうです。
そこで、このような場合に、既に終了した遺産分割のやり直しを避けてその効力を維持しつつ、被認知者の利益を保護するために、価額による支払い請求を認めたのが910条とされています。
イ 価額支払請求権の法的性質(消滅時効の適用に関連して)
「広義の遺産分割の一態様」(※1)であると考えられますが、法的性質についてそれ以上の具体的内容は明確ではなく、過去の判例においても述べられていません。
なお、学説上は、価額支払請求権の法的性質について、相続回復請求権の一種とする見解が多数説で、その結果、例えば民法884条の消滅時効の適用があるといった説明がされています。 (※2)
※1 最高裁判所事務総局家庭局編「改正民法及び家事審判法規に関する執務資料(家庭裁判資料第121号)」52頁
※2 884条の20年の期間は消滅時効であり,この時効期間は相続権侵害の事実の有無にかかわらず,相続開始の時から進行する(最判昭23.11.6)
ウ 価額算定の基準時
相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時とされています(※3)。
※3 最判平成28年2月26日民集70巻2号195頁
エ 計算の基になる遺産の価額として積極財産から消極財産を控除するかしないか
積極財産の価額を基に計算し、消極財産は控除しないとされています(※4)。
※4 最判令和元年8月27日判タ1465号49頁の原審が引用する一審
※当該判例では、この場合、当事者間の清算については、「法定相続分割合を超えて弁済した者が相手方とされている場合には、価額支払請求に対して、弁済に基づく不当利得返還請求権を自働債権として相殺をすることにより簡便な清算が可能である」、「法定相続分割合を超えて弁済した者が相手方となっていない場合においても、上記弁済者等が、被認知者が負担すべき債務の部分について、被認知者に対する不当利得返還請求権を行使することにより事後的な調整は十分に可能である」と説示されています。
オ 履行遅滞に陥る時期
履行の請求を受けた時に遅滞に陥ります。
カ 価額支払債務者が複数の場合の処理
被告らが複数の場合、①各債務者の債務を可分的なものとするか、不可分ないし連帯的なものとするのか、②現実に成立している遺産分割協議の内容に応じて請求し得るかが問題となります。
これらの点については、①について、現行法の解釈上は連帯債務や不可分債務とすることは困難である、②について、簡明な処理のためには相続分に応じて請求できるものとし、これにより生ずる不都合は他の共同相続人の内部問題とすることが適切であるとして、相続分に応じて請求でぎる(分割債務)とする見解が一般的です6。
※①②の問題については、実務的な結論の帰趨に大きな影響を及ぼすと思われます(例えば、①については、分割債務とした場合の時効中断の効力の問題、②については、各債務者に対する請求金額の割り付けの問題)。
3.まとめ
認知と相続については、論点も多く、悩ましい分野です。
論点ごとに整理した上、理解し見解を固めることが重要かと思います。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
KOMODA LAW OFFICE(菰田総合法律事務所)
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