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コラム

家族信託にかかる税金とは?信託契約の前に知っておきたい課税の仕組みと注意点を弁護士が解説

2025.12.06

家族信託は、財産を柔軟に管理・承継していくための手段として、近年注目を集めています。
認知症対策や事業承継、生前の相続対策にも活用できる非常に有用な制度ですが、その一方で「信託をすると税金がかかるのでは?」という不安や誤解も少なくありません。本記事では、家族信託を活用する際に関係する主な税金の種類や課税タイミング、制度を正しく使うための税務上の注意点を、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

1. そもそも家族信託とは何か?制度の基本をおさらい

家族信託とは、財産を持つ人が、信頼できる家族などにその財産の管理や処分を託し、最終的にその利益を受け取る人のために運用・承継していく制度です。
主に、認知症対策や障がいを持つ家族への配慮、事業承継や不動産管理の柔軟化などを目的として活用されます。

1-1. 家族信託の仕組みと関係者(委託者・受託者・受益者)

家族信託は、以下の3者によって構成されます。

委託者

信託契約を結ぶ財産の保有者

受託者

財産を託され、管理・運用する人

受益者

信託された財産から利益を受ける人
たとえば、親が自宅不動産を子に信託し、親が亡くなるまで自宅に住み続け、死亡後は不動産を他の子に相続させる、といった複雑な希望も、家族信託を活用すれば柔軟に実現できます。

1-2. 家族信託が注目される背景と活用場面

近年、家族信託が広く注目されている背景には以下のような事情があります。

認知症による財産移動制限

認知症発症後は、不動産の売却や預金の引き出しが原則できなくなる

成年後見制度の限界

成年後見では柔軟な財産運用ができない

相続対策の選択肢の多様化

遺言だけではカバーできない「生前からの段階的承継」や「家系内の財産循環」などに対応
家族信託を活用すれば、本人の意思が明確なうちに「誰に、どのように、どんな目的で財産を託すか」を設計でき、将来の相続トラブルの回避や税務対策にもつながる可能性があります。

2. 家族信託に関係する税金の全体像

家族信託は、民法や信託法の制度として設計されるものですが、信託契約の締結・運用・終了といった各段階において、課税関係が生じる可能性がある点に注意が必要です。信託の形態によっては、本人にとっても家族にとっても思わぬ課税リスクを生むことがあります。
この章では、まず「家族信託と税金」がどう関係するのかを俯瞰的に把握し、どのタイミングでどんな税金が関係してくるのかを整理します。

2-1. 信託で発生しうる税金は主に3種類

家族信託で関係してくる税金は、主に以下の3種類です。

1. 贈与税

 財産の名義が変わることで、形式的・実質的に「贈与」とみなされる場合に課税対象となります。

2. 所得税(+住民税)

 信託財産から生じた利益(家賃収入や利息など)について、誰に課税されるかが問題になります。

3. 不動産取得税・登録免許税

 不動産を信託財産とする場合、登記や信託契約によってこれらの税金が発生することがあります。
また、信託が終了するタイミングや、信託財産の受益者が変わる局面では、相続税・譲渡所得税などの別の税金が問題になる場合もあります。

2-2. 信託の段階別に見る課税ポイント(設定・運用・終了)

信託に関する税務を理解するには、以下のように「時系列」で整理するのが分かりやすいです。

タイミング 関係する税金 主な論点
信託設定時 贈与税、不動産取得税、登録免許税 財産を受託者へ移す行為が課税対象かどうか
信託運用中 所得税、住民税 収益の発生主体(誰に課税されるか)
信託終了時 相続税、贈与税、譲渡所得税 財産の帰属・受益権の移転・売却の有無など

2-3. 信託財産の種類ごとに異なる税務処理の考え方

信託する財産の内容によって、税金の取扱いが異なる点にも注意が必要です。

現金・預貯金の信託

通常は登記不要、贈与税の問題が主

不動産の信託

登記が必要となり、登録免許税や不動産取得税が発生しうる

上場株式の信託

所得税と評価額の取り扱いに注意

自社株・非上場株の信託

評価方法や相続税法の特則に精通した対策が不可欠
財産の種類が複数ある場合、それぞれに応じた課税論点を整理し、信託スキームの設計時に先回りして対応しておくことが非常に重要です。

3. 信託契約時に問題となる税金と注意点

3-1. 贈与税:形式上「他人に渡した」とみなされるケース

家族信託における贈与税の問題は、「受益者が『委託者本人以外』に移転したと見なされる」場合に生じます。

たとえば
委託者

受託者

長男

受益者

長男(=父ではない)
このように、受益者が委託者本人以外(=別人)である場合、信託設定時点で贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があります。

課税を回避するには
  • 信託設定時点では委託者=受益者とする(自益信託)
  • 贈与とならないよう、信託の開始時点で受益権の移転が生じないように設計する

というような工夫が必要です。

3-2. 不動産取得税:登記移転時に課税されるかどうか

信託財産に不動産が含まれている場合、受託者への名義変更登記が必要となります。
この際、原則として不動産取得税の対象にはなりません(信託を原因とする移転は非課税扱い)が、いくつかの条件があります。

非課税とされるための要件
  • 委託者と受益者が同一であること(自益信託)
  • 受託者が信託の目的に基づいて財産を管理する立場にあること
  • 形式的な所有権移転であることが明確であること

※ただし、信託契約の文言が不明確な場合、信託目的が曖昧な場合は課税されることもあるため、契約書の作成には細心の注意が必要です。

3-3. 登録免許税:信託契約と信託登記に伴う費用負担

不動産の信託登記には、登録免許税が必ず発生します。
登録免許税の税率は、土地の場合は固定資産税評価額の0.3%、建物の場合は0.4%(所有権移転登記)です。
※なお、当初の受託者が第三者(家族以外)である場合や、同時に持分変更があるような場合には、税率が異なることもあります。

3-4. 税金がかからない設計にするためのポイント

信託契約時に余計な税金を発生させないためには、以下の設計が重要です。

  • 委託者=受益者(=本人が生きている間は自身が利益を受ける)という構成にする
  • 受益権の移転(贈与)を将来発生する“条件付き”にする(=信託終了時など)
  • 信託契約書に信託の目的・信託の非営利性を明確に記載する
  • 不動産の評価額や相続税評価との整合性も事前に検討しておく

これらのポイントを踏まえた信託設計をすれば、契約時点での課税リスクを大幅に回避することが可能です。

4. 信託運用中にかかる税金と課税の仕組み

家族信託は、契約締結後すぐに終わるものではありません。信託が続いている間、信託財産から収益が発生する場合には、その収益に対して所得税などの税金が発生します。
この章では、信託運用中に誰が納税義務を負うのか、どのように申告・納税すべきかといった点を整理します。

4-1. 所得税:受益者課税と信託課税の違い

信託の税務処理において重要なのが、「誰に対して所得税が課されるのか」という点です。
信託制度では、大きく以下の2パターンがあります。

受益者課税方式(原則)

 信託財産から生じた利益(不動産賃料、利息など)は、受益者が得たものとみなされ、受益者に所得税が課されます。

信託課税方式(例外)

 受益者が存在しない信託(=目的信託など)では、受託者が課税対象となる場合があります。
家族信託では多くの場合、受益者が明確に設定されているため、原則として“受益者課税”が適用されると考えて問題ありません。

4-2. 不動産収入・利息・配当等の取扱い

信託財産に不動産が含まれており、その不動産から家賃収入が発生するような場合。

  • 不動産の所有者名義は受託者(たとえば長男)であっても
  • 税務上の収入は受益者(たとえば委託者の親)の所得として扱われ
  • 所得税は受益者が申告・納税を行う必要があります

つまり、法律上の名義と、税務上の納税義務者は一致しない点がポイントです。
この関係性を正しく理解していないと、「受託者がもらっているから申告しなくていい」と誤解されるケースが少なくありません。

4-3. 名義が受託者になっている信託財産の納税は誰が実施する?

家族信託では、信託契約の設定に伴い、不動産などの信託財産の名義が受託者へ移転されます。一見すると、名義が変わった以上、受託者がその財産から発生する税金を負担するのでは?と考えられがちですが、税務上の納税義務者は、形式的な名義ではなく、実質的に利益を得る者=受益者であるかどうかで判断されます。
そのため、次のように整理されます。

  • 不動産から発生する賃料収入などの所得は、受益者の所得として扱われます
  • 所得税や住民税の申告・納税義務は、原則として受益者が負います
  • 受託者は、あくまで信託財産の管理を委ねられている者であり、税務上の納税義務者ではないのが基本です(ただし、記録・帳簿管理などの実務的責任は生じます)

つまり、信託財産が受託者の名義で登記・管理されていたとしても、税法上は「誰がその財産から利益を得ているか(経済的利益の帰属)」によって課税の主体が決まるということです。

ただし、以下のような例外的ケースでは注意が必要です。

  • 受益者が死亡し、新たな受益者が不明なまま収益が発生した場合
  • 受益者が存在しない「目的信託」など、特別な信託形態
  • 法人化信託や第三者受益者による特殊な利益受領

これらの場合、信託課税や譲渡課税の対象になり得るため、事前にスキーム設計を確認することが不可欠です。

4-4. 確定申告・納税における実務対応

受益者課税となる場合、受益者が収益を得ている限り、毎年の確定申告が必要です。
また、委託者=受益者であるケースでは、信託開始後もこれまでと同様に委託者本人が申告を続ける形となります。

実務的には
  • 賃貸不動産の収入がある場合は、受益者の確定申告書に信託財産からの収入を記載
  • 所得税に加えて、住民税・個人事業税などの申告も連動
  • 税理士と連携して、信託収益の取扱いを帳簿や申告書に適切に反映させる

受託者は納税義務者ではないものの、帳簿記録や収支管理を担う関係上、税務実務のサポートを行うことが求められるケースも多くあります。

5. 信託終了・受益権移転時に発生しうる税金

家族信託は、契約を結んでスタートし、信託財産の管理や運用を経たあと、信託の目的を果たしたタイミングで「終了」します。
信託の終了に伴って財産の名義が最終的な承継者に移る際や、受益権そのものが第三者に移転する際には、相続税や贈与税、譲渡所得税といった税金が新たに発生する可能性があります。

5-1. 信託終了時の課税関係(相続税 or 贈与税)

信託が終了するタイミングとしては、以下のようなケースが考えられます。

  • 受益者(委託者)が死亡し、信託が終了する
  • 信託の存続期間が満了する
  • 受益者を次世代に移す形で信託を再構成(受益権の移転)

このとき、信託財産が誰に帰属するか(=誰が受け取るのか)によって、課税関係は以下のように分かれます。

財産を受け取る人 課税関係
受益者の相続人 相続税が課税される
受益者の相続人以外の第三者(親族など) 贈与税が課税される可能性

5-2. 財産の名義変更・所有権帰属に伴う税金

信託が終了し、信託財産の名義が受託者から帰属者(例えば子や孫)へ移る際には、法務局での登記手続が必要となります。
この際、以下の税金が問題となります。

登録免許税

帰属者への名義変更に税率が課されます

不動産取得税

帰属者が新たな所有者となるため、通常の取得と同様に課税されます(ただし相続等の場合は非課税の特例あり)
名義変更が相続を原因とするものであれば不動産取得税は非課税になりますが、贈与や売買と判断されれば課税対象となります。

5-3. 売却・清算・再信託時の譲渡所得課税リスク

信託終了後、財産を帰属者がすぐに売却するような場合には、譲渡所得税が問題となることもあります。
特に注意すべきパターンは次のとおりです。

  • 受益権を他者に譲渡した(=実質的に所有権が動いた)
  • 信託終了後すぐに信託財産を売却し、利益が出た
  • 清算型信託などで一度現金化して分配する設計になっている

これらの場合、譲渡益に対して20.315%(所得税+住民税)の譲渡所得税が課税される可能性があります。

6. 家族信託を検討する際の税務と法務の連携ポイント

家族信託は、単なる「契約書の作成」や「不動産の名義変更」だけで完結するものではありません。
信託の設計段階から終了時まで、法務と税務の両面から整合性のとれたプランニングが必要となります。
この章では、家族信託を安全かつ効果的に活用するために、どのように専門家と連携すべきかを解説します。

6-1. 税理士と弁護士、どちらに相談すべきか?

家族信託の導入を検討している際、まず迷いやすいのが「誰に相談すべきか」という点です。
税理士と弁護士はそれぞれ得意分野が異なりますので、目的に応じて相談の窓口を使い分けることが理想的です。

相談内容 適した専門家
信託契約書の設計・法的有効性の確認 弁護士
相続人間の権利調整や争いの回避 弁護士
不動産の信託登記、所有権移転 司法書士(弁護士と連携)
贈与税・相続税・所得税の課税関係 税理士
確定申告、納税相談、評価額の算定 税理士

初期段階での制度設計では、弁護士を起点として全体の法的設計を行い、その後税理士と連携して税務検証を加えるのがリスク軽減にはよいでしょう。

6-2. 税務調査・否認リスクを回避するための契約設計とは

税務署は、形式だけの信託契約や実態のない受益権移転については、「実質的には贈与・相続と同様だ」として課税するリスクがあります。
こうした否認を避けるには、契約設計の段階で以下のような工夫が求められます。

  • 契約書に信託の目的と構造を明記し、「税逃れの意図」がないことを明示
  • 委託者・受益者・受託者の関係と権限を明確に規定
  • 財産の帰属先を明確化し、課税関係を整理しておく
  • 必要に応じて税理士と共同で評価方法・課税想定を検討

こうしたプロセスを経ることで、信託制度を正しく活用し、税務調査にも対応できる「透明性と一貫性のある設計」が可能となります。

7. 当事務所の支援体制

家族信託を安心して活用するためには、制度設計・契約書作成・登記・税務処理など、複数の専門分野をまたいだ一貫したサポート体制が不可欠です。
当事務所では、家族信託に関するあらゆるご相談に対応できるよう、弁護士・税理士・司法書士によるワンストップ支援体制を整えています。
家族信託の利用を検討されておられる方は、まずは一度ご相談ください。

 

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監修者:後藤 祐太郎
弁護士後藤 祐太郎

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士後藤 祐太郎

  • 2010年
    日本大学法学部 卒業
  • 2012年
    慶應義塾大学大学院法務研究科 修了
  • 2014年
    竹口・堀法律事務所 入所
  • 2016年
    現:弁護士法人Nexill&Partners 入所 那珂川オフィス支店長 就任

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