堺雅人さん演じるドラマ「半沢直樹」が大ヒットしたのは2013年。銀行で繰り広げられる逆転劇に多くの人が引き付けられました。半沢直樹の世界では、大和田常務や浅野支店長が重大な罪を犯していたのですが、半沢は結果的に見過ごしてあげています(別の回でお話します)。
そして、有名な「やられたらやり返す、倍返しだ」というフレーズ。実は「倍返し」はちょっと法律とも関係あるのですが、それも別の回でお話します。
一方で、堺雅人さんといえば「リーガル・ハイ」も有名。こちらはお金のためならなんでもやる、非情ながらも人間味にあふれた弁護士の古美門研介と正義感の強い弁護士、黛真知子の人気ドラマです。
今回はリーガル・ハイの第7話ワンシーンをテーマに遺言書の意外な決まりを紹介したいと思います。
もくじ
1.遺言書が何通も!?
古美門は黛の取ってきた相続事件に対して否定的でしたが、渋々解決に臨むことになりました。古美門と黛は、蟹頭村(かにこべむら)という村の醤油メーカー、徳松醤油を舞台とする相続争いの解決に臨むことになったのです。
徳松醤油では社長である徳松喜平の遺産について、兄弟間で争いが勃発していました。
この喜平氏の二男にあたる紀介が遺言書を持っていたので、それを兄弟に見せると、長男の泰平と長女の清江も同じ喜平が書いた遺言書を出すシーンがあります。
ちなみにこの1話で出てきた遺言書の数はなんと計4通!!!
「現実ではありえない話でしょ!」
「自分の身近にそんな気分屋はいない!」
「偽造したんじゃないの?」
と思われてしまいそうですが、「人間は感情の動物である」といわれるように、人間の行動は感情に左右されやすいので、その時々の感情で遺言書を書いた結果、多数の遺言書が出てきてもおかしくはないのです。
以下では、このように何通も遺言書が出てきた場合の遺言同士の関係性について、見ていきたいと思います。
2.遺言書は書き放題?~遺言撤回の自由~
遺言をする人のことを遺言者といいます。
遺言は表意者(意思表示をする人)の最後の意思に対して法律的な効力を与えようとしたものですから、その裏返しとして、遺言者が生きているうちは、すでに遺言によりおこなわれた意思表示を撤回するのは自由であるとされています。
つまり、遺言者が生きている間は、遺言者はいつでも、何度でも遺言を撤回することができます。
しかも、遺言者が遺言の撤回権を放棄できない(撤回できない遺言はかけないということになります)ものであるとすることにより、この撤回自由の保障を貫徹しているのです。
こうして遺言が自由に撤回できると思うと、人生で1度しか書かないようなイメージを持ってしまいがちな遺言書を作成してみるハードルがぐっと下がりますね。
3.撤回の意思表示の方法
遺言を撤回するときには、法律で決まっている遺言の方式(全部で7種類もあります)に従っておこなわなければならないとされています。
遺言の方式に従って撤回するのであれば、7種類の方式のうちどの方式をとってもいいものとされています。
4.撤回擬制
表意者(意思表示をした人)が撤回の意思表示をしたことが明らかな場合(以前の遺言を撤回する意思を表示した撤回遺言が作成された場合)のほかにも、遺言が撤回されたものとみなされる場合として、次のようなルールが定められています。
(2)遺言の内容と、その後の生前処分とが抵触する場合。
(3)遺言者が故意に、遺言書または遺贈目的物を破棄した場合。
5. 遺言に書かれている内容を実現するには何をすればよい?
5-1.遺言執行者の役割と選任手続き
遺言書の内容をそのとおりに実現するためには、まず「誰が相続の手続を進めるのか」を明確にする必要があります。
相続人全員で役割分担を決めて行うでもよし、相続人のうちだれか一人に任せるもよし、ここは法的な決まりはありません。
ただ、遺言書の中で「遺言執行者」が指定されていた場合については、遺言執行者になった人が相続手続を進めることになります。
関連:遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の目的を確実に実現する役割と権限を持つ人として、遺言に書かれている内容通りに相続手続を行うべき人です。
相続人の誰かが指定されるケースもあれば、弁護士や司法書士といった法律の専門家を指定しているケースもあります。
遺言書の中で遺言執行者が決められていなかったとしても、相続人が裁判所に申立てをすることで追って選任することもできます。
5-2. 自筆証書遺言の検認手続をする
自筆証書遺言の場合は、開封する前に必ず検認手続が必要ですので、まずは裁判所での検認を行ってください。(検認手続を経ていない自筆証書遺言は相続手続に使えません。)
公正証書遺言の場合、自筆証書遺言を法務局で保管している場合は、検認手続は不要なので、そのまま相続手続に進めます。なお、相続手続には「正本」が必要になりますので、公証役場もしくは法務局に連絡の上で手元に取り寄せてください。
補足:遺言書の内容に疑念がある場合は?
検認で遺言書の中身を見たときに「これは本当に本人が書いたのか?」というような疑問がでたとしても、あくまで検認は形式的な確認にとどまるので遺言の有効・無効には関知できません。
もし、遺言書自体の有効性が怪しいと思われる場合は、後述する「遺言無効確認訴訟」にて遺言書自体の効力を判断してもらう必要があります。
5-3.具体的な手続き—名義変更や預貯金の解約など
遺言書の中の「不動産を長男に相続させる」「預貯金は長女に全額渡す」といった具体的指示に沿って、遺言執行者または相続人は、各機関で必要書類を揃えて名義変更や解約手続きを進めます。
なお、相続人にて手続きをする場合は相続人全員の戸籍・印鑑証明書などが必要になるため、書類収集に少し手間がかかってしまうかもしれません。(遺言執行者にて相続手続をする際は、遺言執行者の本人確認書類・印鑑証明書のみで手続きが進められます。)
5-4.遺言で指定されていない財産の扱いはどうなる?
遺言書がどれだけ詳細に財産分けを規定していても、書き漏らしや書き方の曖昧さが原因で「分け方が指定されていない財産」が後から出てくることがあります。万が一、追加の財産が見つかった場合は、相続人全員で話し合いを行い(遺産分割協議)、誰にどう分配するかを決めたうえで遺産分割協議書を再度作成し、それに沿って相続手続を行うこととなります。
6. 遺言の内容通りに遺産を分けたくないときは?
6-1.遺留分の主張により最低限の相続分を確保する
遺言書により特定の相続人に大半の財産が集中してしまい、「自分がもらえる財産が不当に少ない」と感じるケースでは、一定の範囲の相続人であれば法律で保障された最低限の取り分(遺留分)を請求することができます。遺留分を請求できるのは、配偶者、子、直系尊属で、請求できる期限は相続開始および遺留分を侵害していることを知った時から1年以内、または相続開始から10年以内のいずれか早い方です。
もし遺言書の内容に納得できず、かつ遺留分の請求ができる立場であれば、この制度を活用することが可能です。
6-2.相続人全員の合意による内容変更
遺言書がある場合は、原則遺言に書かれている内容が最優先ですが、相続人全員が一致して「別の分け方にしたい」と合意すれば、協議で遺産分割の内容を変える道も残されています。
7. 遺言書が偽造されている気がする・本人の意思ではない気がするときは?
7-1.遺言無効確認訴訟の概要
もし「自筆証書遺言の文字がどうも不自然」「筆跡が故人のものとは違う」「そもそも遺言を作ったときはすでに認知症で何も分からない状態だったのでは?」などの疑念がある場合、この遺言書は効力がないという訴えを裁判所に行うことができます。(遺言無効確認訴訟)
偽造・変造の可能性を主張する場合は筆跡鑑定、意思能力がなかったことを立証するには、医療記録や診断書、周囲の証言などが重要な判断材料となります。
なお、遺言者本人が書いていたとしても、誰かに脅されて書かされた場合や、虚偽の情報を与えられ騙されて作成した場合には、遺言書自体が無効となる可能性がありますが、客観的かつ具体的な事実でここを立証するのは難しいため、実務上のハードルは高いのが現状です。
この訴訟を行い、遺言書が「無効」だったと確定すれば、遺言書の全内容が否定されるため、相続は遺言書のない状態(もしくは別の有効な遺言書がある場合はそちら)で進むことになります。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
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