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遺言書

遺言書の検認手続きを行っても相続放棄はできる?知っておくべき関係性と注意点について

2025.06.22

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相続が開始し、手元に自筆証書遺言がある場合は遺言書の検認手続が必要になります。検認を経て遺言書を開封し、その内容を確認したうえで初めて相続の実務が始まりますが、相続財産の内容を見たうえでは相続放棄をした方がいいのかもしれないという状況になる場合もあります。「遺言の検認を受けたら相続放棄ができなくなるのか?」「検認後に負債が明らかになり、放棄を考えている」というようなご不安を抱えておられる方に向けて、本記事では、遺言書検認の基礎知識から、検認後の相続放棄の要件まで、弁護士が解説します。

1. 遺言書検認とは何か?制度の目的と概要

遺言書検認とは、裁判所にて遺言書を開封する法的手続きです。この検認手続の趣旨としては、遺言書の改ざんや隠匿を防ぎ、相続人同士の争いを未然に防止することにあります。

(遺言書検認のポイント)

  • 検認は遺言書の“真正性”を確認するのみで、遺言の有効性の有無(形式や作成者の意思能力等)を判断するものではありません。
  • 実際の相続手続を進めるうえでは、遺言書の検認が終わっていることが前提となります。
  • 申立人は検認期日への出席が必要ですが、その他の相続人については出席義務はなく欠席しても問題ありません。

遺言書が発見されたら、開封せずに速やかに検認の申し立てを行いましょう。

2. 検認手続きの対象となる遺言書の種類

遺言書には「検認が必要なもの」と「検認不要なもの」があります。相続実務では、自筆証書遺言や秘密証書遺言は検認が必要、公正証書遺言は検認不要である点を押さえておきましょう。

2-1. 検認が必要なもの(自筆証書遺言・秘密証書遺言)

自己保管の自筆証書遺言および秘密証書遺言は必ず家庭裁判所で検認を受け、裁判所にて開封を行う必要があります。

なお、令和2年の法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行以降は、法務局に遺言書の保管を申請できるようになり、この法務局での保管制度を利用した場合は検認手続きが不要です。

関連:弁護士が教える遺言書の種類|公正証書・自筆証書・秘密証書を徹底解説

2-2. 検認が不要なもの(公正証書遺言)

公正証書で遺言書を作成した場合は、家庭裁判所での検認手続は不要です。

相続が発生したら、手元にある公正証書正本を使って相続手続に着手できます。

ただし、紛失してしまった等で手元に遺言書が無い場合は、まずは公証役場にて公正証書遺言の再発行申請を行ってください。(なお、どこの公証役場で遺言書を作成したのかが分からない場合は、公証役場で検索をかけることができます。)

検認手続が遅れると、相続手続の遅れや最悪の場合検認をせずに相続人の誰かが遺言書を開けてしまうというようなリスクがありますので、遺言書の種類を適切に把握し、速やかに必要な手続きを進めるようにしましょう。

3. 検認手続きの流れと必要書類

検認申立ては一般的に次のような流れで進行します。

3-1. 家庭裁判所への申立て

遺言書の検認を行う際は、管轄の家庭裁判所に申立てを行う必要があります。

  • 申立を行う裁判所:被相続人(遺言者)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 申立人:遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人
  • 必要書類:裁判所書式の申立書、遺言書原本、被相続人の生まれてから死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改正原戸籍含む)、相続人全員の戸籍謄本、その他家族状況に応じた追加の戸籍謄本(代襲相続発生時など)

上記書類のほかに、申立ての手数料として収入印紙と裁判所との連絡用の切手が別途必要になります。

3-2. 検認期日の調整・通知

遺言書検認の申立てを家庭裁判所に行うと、裁判所から申立人を含めた相続人宛に検認期日の連絡がきます。(申立から大体2週間~1か月半程度が目安です。)

検認を申し立てた本人は、遺言書原本、印鑑、その他裁判所から指定された書類を持参のうえで期日に出席します。

申立人以外の相続人の出席は任意ですので、各自の判断で出席するかどうかを決めて問題ありません。

3-3. 検認実施・検認済証明書発行

期日当日は、申立人から提出された遺言書を裁判官が開封し、検認手続を行います。

検認が完了した後は、検認済証明書の発行を行ってください。(遺言執行の際は、この検認済証明書が必須となります。)

4.検認手続と相続放棄は“別物”─ただし取扱いを誤ると相続放棄できなくなる可能性が

家庭裁判所の検認は遺言書の存在確認と改ざん防止を目的とする形式的手続であり、遺言の有効性や相続人の権利選択(単純承認・限定承認・相続放棄)そのものを左右するものではありません。

したがって 検認手続が先でも後でも、期限内であれば相続放棄申述は可能ですが、先立って遺産を処分(換価・使用・売却など)する行為を行ってしまうと単純承認とみなされ相続放棄ができなくなるリスクがありますので注意が必要です。

5. 遺言を確認したのち、相続放棄をする場合

遺言書の内容を見たうえで相続をしないという判断をする場合は、以下の流れで家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行う必要があります。

5-1. 相続放棄の流れと必要書類

  • 申立て先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 必要書類:相続放棄申述書、被相続人の戸籍の附票もしくは住民票除票、相続放棄をする本人の戸籍謄本、相続放棄をする本人と被相続人との関係性に応じた追加の戸籍・除籍謄本(配偶者、子など立場によって必要な書類が変わります。)

上記書類のほかに、申立手数料分の収入印紙と裁判所との連絡用の切手が別途必要になります。

裁判所に申立を行ったあとは、早くて1か月程度で相続放棄の可否が通知されます。

なお、一度相続放棄が受理された後は、原則撤回はできません。

5-2. 相続放棄ができる期限について

相続放棄手続ができる期間(この期間のことを、熟慮期間と呼びます)は、以下のように定められています。

  • 自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内

休日祝日は関係なく日数はカウントされるため、注意が必要です。

なお、相続財産調査を行っても熟慮期間内に相続放棄をするか否かの判断をするための資料が得られない場合は、期限を延ばす申し出を裁判所に行うことができます。

延長が認められた場合は、大体1か月~3か月程度の範囲内で期限延長されることが多いため、その期間内にこのまま相続するか、放棄をするかを決めることとなります。

5-3. 伸長申立てをするには?

前述したとおり、熟慮期間内に相続放棄をするかどうかを判断するための財産資料が得られない場合は、裁判所に対して期限を延長してほしいという申立てが必要です。(相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てと呼ばれています。)

なお、伸長が認められるかどうかは個別事情を考慮して裁判所が決定しますので、申立てをしたら必ず伸長が認められるというわけではありません。

  • 特定の相続人が財産情報の開示をしてくれず一から調査が必要になってしまった
  • 被相続人の債務の状況が正確判明していないのでもう少し調査が必要

上記のように、財産調査を行っているものの時間的猶予がもう少し欲しいというようなケースであれば裁判所も延長を認めてくれる場合が多いです。

単純に仕事が忙しかった、家事や育児で相続調査をする時間が取れなかったというような理由では延長を認めてもらうことは厳しいので注意しておきましょう。

6. 遺言書検認後に相続放棄を検討する際の実務ポイント

6-1. 債務調査の進め方

相続放棄を検討するにあたっては、被相続人の相続財産と負債の内容を網羅的に把握することが重要です。

  • 手元の資料の洗い出し
  • 各種金融機関への照会
  • 不動産調査
  • 返済予定表や契約書類の確認
  • 被相続人が事業主だった場合は決算書類や会計資料

など、同時進行で財産および負債状況の調査を進めていきましょう。

「何を」「いつ」「どのように」調査していたか、現時点で何ができていないのかを示す資料がきちんとそろっていると、伸長の申し立てをする際の合理的な理由として裁判所への説明がしやすくなります。

6-2. 伸長した期間内に調査が間に合わない場合は必ず再度伸長申立を行う

熟慮期間の伸長が受理された場合、一般的には1~3か月程度の延長が認められますが、伸長後もなお財産調査が長引く場合は再度の伸長申立ても可能です。

ただし、必ず伸長された期間内に申立てが必要であるほか、裁判所側でもより慎重に審理されますので、裁判所が納得できるだけの合理的な理由を提示することが必要となります。

不安な場合は、弁護士に相談の上で対応を進めることが望ましいでしょう。

6-3. 処分行為に当たる行為を行わないように注意する

以下のような行為は、「処分行為」の一例として、行うと単純承認とみなされるおそれがあります。単純承認だとみなされると、相続放棄ができなくなってしまう恐れがあるため、相続放棄を検討している場合は、最終的な方針を決定するまではこのような行為は実施しないよう注意が必要です。

  • 相続財産の売却
  • 被相続人名義預金を払戻し、自分で使用する行為
  • 株式や投資信託を売却したり名義変更したりする行為
  • 被相続人が保有する債権の取り立て(所有する不動産の賃料請求など)
  • 被相続人の債務の弁済(滞納家賃、借金など)

なお、相続財産の価値を減らさないための最低限の措置については上記の処分行為には当たりません。(破損しかけている家屋の応急修繕、腐敗している残置物の処分など)

ただ、後に処分行為ではないかという点が争点化することもあるため、上記対応をする際の費用を支払う際は、支払前に「放棄を前提とした立替払いである」旨を文書で通知しておくとともに、相続人のポケットマネーから支出しておく方が安全です。(被相続人の財産からは支払わないようにする。)

対応を誤ると相続放棄ができなくなるリスクもあるため、取り扱いに迷う場合は、事前に専門家に相談をしたうえで対応を進められてください。

7. よくある質問(FAQ)

Q. 検認を受けずに相続放棄はできますか?

A. 原則は可能ですが、遺言書の内容を確認せずに相続放棄をすることとなるためあまり推奨はされません。相続財産の内容を確認する目的でも、検認後に遺言内容を確認したうえでの相続放棄申述の方が望ましいでしょう。(検認前に遺言書を開封した場合は過料・遺言無効のリスクがあります。また、検認後に財産を処分してしまうと単純承認と評価されて相続放棄ができなくなる可能性がありますので注意してください。)

Q. 公正証書遺言には検認がいらないと聞きましたが本当でしょうか。

A. 公正証書遺言は検認不要ですので、相続発生時は手元にある遺言書を使って、そのまま遺言執行手続きに進むことができます。

Q. 検認後に遺言書を閲覧しただけで単純承認になりますか?

A. 検認後の遺言書の内容を閲覧すること・遺言書を持ち帰ることは単純承認の要件にはあたりません。遺産の処分利用行為(財産の売却、消費など)があった場合には単純承認とみなされます。

Q. 相続放棄の申述後にやっぱり放棄を取りやめたいとなったときはどうしたらよいでしょうか。

A. 裁判所で相続放棄が受理される前の段階であれば、取下書を提出することで相続放棄申述自体を撤回することが可能です。ただし、すでに受理されてしまった後は原則撤回することはできません。

錯誤や詐欺等を原因としての取り消しを求める場合は、裁判所への提起により取消・無効を請求することができます。

8. まとめと無料相談のご案内

遺言書検認を終えた後でも、相続放棄は熟慮期間内であれば問題なく選択できます。検認後の放棄を検討する際は、まず負債調査を徹底し、必要な証拠資料を整えたうえで、熟慮期間内に申述手続きを進めましょう。手続きの煩雑さや判断の難しさを感じたら、当事務所の初回無料相談をご活用ください。相続に特化した弁護士を中心に、ご事情を丁寧にヒアリングした後に相続放棄をすべきかどうかを含めて最適な方法をご提案いたします。

 

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