2025年7月、政府が「デジタル遺言書」の制度化に向けて本格的な検討に入ったという報道がありました。高齢化社会の進展とともに相続への関心が高まるなか、デジタル技術を活用した遺言制度の整備は、まさに時代の流れともいえますが、その全容は未定です。便利さが際立つ一方で、デジタル遺言書ならではの課題やリスクも存在することが想定されます。本コラムでは、最新報道の内容を解説したうえで、これから相続を考える方が知っておくべきポイントや注意点を、相続に強い士業グループの視点から詳しく解説します。
もくじ
1. デジタル遺言書が有効に?直近の最新報道の概要
1-1. 概要
2025年7月、政府は遺言書のデジタル化に向けた制度設計を進めていることを発表しました。これまで「紙」による作成が原則だった遺言書において、パソコンやスマートフォンを使って作成・保管・閲覧できる仕組みの導入が検討されています。報道によれば、デジタル遺言書は2026年にも制度化される可能性があり、内閣官房が主導して実務的な制度整備に乗り出すとのことです。
1-2. 報道内容の要約とポイント
今回の、デジタル遺言書に関する報道のポイントは以下の通りです。
- パソコンやスマートフォンで作成・保管が可能な「デジタル遺言書」の制度化を政府が検討中
- 高齢者のデジタル利用の拡大、書面作成の負担軽減を背景とした動き
- 年内にも具体的な制度案を取りまとめ、2026年施行を目指す方針
- 利用者本人による作成であることをどう担保するか(本人確認や改ざん防止など)に課題あり
この動きは、現在の遺言制度が抱える「使いにくさ」を補うものとして注目されています。一方で、制度化には慎重な検討も必要であることが報じられています。
2. 遺言書のデジタル化が導入されることで想定されること
2-1. 遺言書のデジタル化におけるメリット
デジタル遺言書には、以下のようなメリットが期待されています。
作成の利便性
紙や筆記用具が不要になり、PCやスマートフォンなどで簡単に作成可能
保管の安全性
紛失や改ざんのリスクを減らし、クラウドなどでの安全な保管が可能
コストの削減
印紙代や公証人費用などの負担が軽減される可能性
閲覧性の向上
相続発生後の関係者への共有がスムーズになる
これまで自筆証書遺言や公正証書遺言に煩雑さを感じていた方にとっては、大きな前進となる可能性があります。
2-2. 遺言書のデジタル化におけるデメリット
一方、デジタル化には以下のような懸念点もあります。
改ざん・なりすましのリスク
本人が本当に作成したものかをどう証明するか
法的有効性の担保が難しい
遺言能力の有無や、真正性の確保が課題
ITリテラシーの格差
高齢者や機器に不慣れな人には不向きな面もある
遺族間トラブルの火種に
紙の署名や印鑑がないことで、逆に「本物か?」と疑義が生じやすくなる
デジタルという利便性の裏に、「形式的な信用力」が失われる危険性があることも念頭に置く必要があります。
2-3. デジタル遺言書の活用を検討する際の注意点
たとえ制度としてデジタル遺言書が整備されたとしても、「導入されたから安心」とは限りません。実際に活用するにあたっては、次のような観点から慎重に検討することが大切です。
誰がどのようにアクセス・編集できるのかを明確にすること
デジタル遺言書は物理的な紙ではなく、データとして存在するため、不正なアクセスや第三者による改ざんリスクが生じます。特に遺言書の内容が相続人間の利害に関わるものである以上、アクセス権限の管理や履歴の記録といったセキュリティ面への配慮が不可欠です。
専門家によるチェックが入りにくくなることへの懸念
紙の遺言書であれば、弁護士や公証人が事前に内容を確認することで、法律的な不備や不公平感を未然に防ぐことが可能でした。デジタルで個人が完結できてしまう仕組みになった場合、専門家の関与が省かれ、形式や内容に不備があっても気づかないまま進んでしまう恐れがあります。
相続税や二次相続を含めた長期的視点での設計がなされにくいこと
遺言書は単なる財産の分け方を記載するものではなく、税務や将来の相続の連鎖を踏まえた「相続設計」としての役割も持ちます。ITツールを使って手軽に作れるようになる一方で、深い専門的配慮に欠けた内容になるリスクもあります。
これらの点から、たとえ作成のハードルが下がったとしても、「簡単に作れること」と「本当に適切な内容が書けていること」はまったく別の話であるという点を理解しておく必要があります。制度の利便性のみに注目するのではなく、法的・税務的観点からの整合性や実効性についても十分に検討しておくべきです。
3. 現時点で注意をしておくべきこと
3-1. 注意点① 従来型の遺言書との比較検討は必須
現行の遺言方式として、主に使用されているのは以下のような方法です。
種類 | 特徴 | 主な留意点 |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で全文・日付・署名を書く | 書式不備で無効の可能性あり |
公正証書遺言 | 公証人が作成に関与 | 費用と手間がかかるが最も安全 |
法務局保管制度 | 自筆遺言を法務局で保管 | 紛失リスクは回避できるが内容確認は自己責任 |
今後、デジタル遺言が新制度として加わったとしても、これら既存制度の代替になるかどうかは現時点では不明です。仮に、既存制度の代替ではなく、新しい方式として追加されるような場合は、むしろ併用や使い分けを前提に考える必要があります。
3-2. 注意点② 相続税対策や二次相続を踏まえた内容に
遺言書は法的かつ経済的な効果をもつ重要な文書です。
そのため、
- 特定の財産を特定の相続人に渡すことで不公平が生じないか
- 二次相続時に税負担が重くならないか
- 相続放棄や代襲相続といった特別な事態に配慮されているか
など、多角的な視点からの設計が求められます。
特に不動産や株式など分けづらい資産がある場合や、相続税が発生する家庭では、弁護士・税理士が連携して遺言内容を検討することが不可欠です。
3-3. 注意点③ 制度化までは現行の方式で確実に準備を
デジタル遺言書の制度化がいつどのようなかたちで実現するかは、まだ未確定です。仮に2026年施行となっても、制度の安定運用には時間がかかると考えられます。
そのため、
- 現在相続に備えておきたいと考えている方
- 高齢や病気などで「いまのうちに準備したい」という状況の方
には、現行制度の活用による確実な準備をおすすめします。
特に、公正証書遺言や自筆証書遺言+法務局保管制度は、今すぐにでも利用できる安全な手段です。
まとめ:いま準備できることを、確実に
デジタル遺言書の制度化は、社会のデジタル化と高齢化という2つの大きな波に対応する画期的な試みです。しかし、制度設計や運用の詳細はこれからの議論次第であり、しばらくは「便利そうだけれど不確実な制度」であることも事実です。
相続は、いつ起きるか分からないからこそ、備えは「いまできること」を積み重ねていくことが重要です。当事務所では、遺言書の作成はもちろん、遺言執行、相続税対策、登記手続まで、弁護士・税理士・司法書士が連携し、すべてをワンストップでご支援しています。
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