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コラム

遺言書の作成方法をポイント別に整理|種類ごとの手続きと注意点を弁護士が解説

2025.07.24

遺言書は大切な財産を希望通りにご家族に渡すための手段ですが、種類によって作成方法や必要なステップが異なるため、「どの方式で作るべきか」「どう進めればいいのか」で迷う方は少なくありません。全体の流れを把握せずに作り始めてしまうと、後々無効になってしまうリスクもありますので、遺言書を確実に、安心して作成したいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。

1. 遺言書の作成方法は“種類”によって大きく異なる

民法で認められている主な遺言書の方式は次の3つです。

1. 自筆証書遺言:自分で全文を書いて作成する方式
2. 公正証書遺言:公証人が内容をまとめて作成する方式
3. 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま、公証人に遺言の存在だけを証明してもらう方式

遺言書はその方式ごとに作り方や準備するもの、気をつける点が異なります。
たとえば、自筆証書遺言は紙とペンさえあれば書けますが、少しでも形式に不備があると遺言書自体が無効になるおそれがあります。一方、公正証書遺言は手続きに時間と費用がかかるものの、形式面と内容に不備が生じにくいという特徴があります。
何を優先したいか(費用面なのか、リスク対策なのかなど)で作成方法を選ぶとよいでしょう。

2. 遺言書の方式別比較|あなたに合った作成方法はどれ?

以下に、各遺言方式の主要な比較ポイントをまとめました。

比較項目 自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
費用 なし(法務局での保管制度を使用する場合は数千円の手数料が発生) 3万〜10万円程度(資産規模に応じ変動) 数千円(公証役場での証明手数料のみ)
作成の手間 自筆で全て記載 公証人との調整を行い、公証役場で作成 自力で内容作成+公証役場提出の2段階
法的安全性 低い(ご自身での作成となる) 高い(公証人が内容の法的確認実施) 低い(公証人の内容確認なし)
保管の信頼性 ご自身で保管/紛失・改ざんリスクあり
※法務局での保管制度使用で上記リスク防止
公証役場で原本保管/紛失・改ざんリスク低 ご自身で保管/紛失・未発見の恐れあり
相続発生後の扱い 検認必要(法務局での保管制度を使用している場合は不要) 検認不要 検認必要

弁護士に依頼する場合は、ここに弁護士報酬が別途かかります。

3. 自筆証書遺言を作成するときのポイント

3-1. 実際に書くときは必ず「形式要件」を満たすこと

自筆証書遺言は、法律上の決まりに沿っていないと無効になってしまうリスクがあります。基本的な要件は以下の通りです。

  • 遺言書の全文を自筆で書くこと(※財産の目録については、自筆でなくてもよいですが、その場合は必ず目録の全頁に署名と押印が必要です。)
  • 作成した日付、署名、押印が必要
  • 加除訂正をした場合の訂正方法もルールに従う必要あり。「ただ書けばよい」というものではないことに注意が必要です。

3-2. よくある記載ミスと無効になる例

以下のようなケースは、ご自身で作成する際に起こりやすくなっています。

  • 日付が「○月吉日」となっている
  • 署名・押印がない
  • 「不動産を長男に相続させる」とあるが、具体的な物件の明記がない
  • 「娘に相続させる」とあるが、娘が複数いて誰を指しているか特定ができない など

これらは、形式不備あるいは「内容が不明確」とされて遺言書が無効または一部無効になる可能性があるものです。遺言書は、明確かつ特定性の高い表現が求められます。

4. 公正証書遺言を作成するときのポイント

4-1. 公証役場での遺言書作成の流れ

公正証書遺言は、公証人が遺言者の口述に基づいて内容を文章にまとめ、公正証書として作成する方式です。手続の流れは次のようになります。

1. 弁護士・専門家との事前相談(任意)
2. 必要書類の準備(戸籍・登記簿・資産一覧など)
3. 公証人との事前打ち合わせ
4. 証人2名を立てて、公証役場で作成・署名押印
5. 完成後、原本は公証役場に保管。正本・謄本を本人に交付

公証人は、本人確認・意思能力・法的形式などを厳格に確認するため、遺言の法的有効性が極めて高く、後のトラブルをほぼ回避できます。

4-2. 作成前に整理すべき点は?

スムーズな作成のために、以下の資料を事前に用意しておくと良いでしょう。

  • 財産目録(不動産・預金・証券等)
  • 不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書
  • 相続人・受遺者の戸籍謄本、住民票

また、ご自身の意向をメモなどにまとめておくと、公証人との打ち合わせの際に伝えたいことが漏れるのを防げます。

4-3. 証人は誰に頼めばいい?

公正証書遺言では、必ず証人2名の立ち会いが必要です。ただし、以下の人は証人になれません。

  • 相続人や受遺者、およびその配偶者・直系血族
  • 成年被後見人や未成年者など意思能力のない人

ご自身で証人が確保できない場合は、公証役場で手配してもらうことも可能です(別途費用が発生します)。また、弁護士に依頼をする場合は弁護士が証人となることも可能ですので、依頼の際に確認をされてみられてください。

5. 秘密証書遺言を作成するときのポイント

秘密証書遺言は、内容を秘密に保ったまま遺言の「存在」だけを公証人に証明してもらう方式です。
作成の流れは以下の通りです。

1. ご自身で遺言書を作成(署名は自署が必要ですが、それ以外はパソコンでの作成も可能です。)し、封筒に封入・封印
2. 公証人・証人2名の前で遺言書を提出し、原本であることを証明してもらう
3. 封印されたまま、本人に返却される(公証役場には内容保管なし)

自筆証書遺言として自由に作成ができて、かつ内容を公にせずに遺言書の原本であることを公証人に証明してもらえるというところで、一定のメリットはありますが、実務では、以下の理由からあまり選ばれない(大体の方が自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかを選択されます。)ことが多いです。

  • 公証人が内容をチェックしないため、遺言書に法的不備があっても指摘がされず無効リスクがある
  • 公証役場で遺言の存在は証明してもらえても、自筆証書遺言と同じく検認手続が必要となる
  • 法務局での保管制度は使えない

「誰にも内容を見せずに遺言を残したい」という希望が強い場合は、秘密証書遺言の形がベストな場合もありますので、その際は内容の形式不備を理由に遺言自体が無効にならないよう、弁護士に相談の上で作成をされることをお勧めします。

6. 家族構成・財産の種類・将来の不安に応じた選び方

具体的な状況別に、どの形式が適しているかを説明していますので、ご自身で作成される際の参考にされてみてください。

できるだけ費用をかけず、最低限の備えをしたい方

 → 自筆証書遺言+法務局保管制度
 → ご家族に遺言の存在と保管場所をきちんと伝えておくことも前提です。

相続人間でのトラブルが懸念される方、資産が多い方

 → 公正証書遺言にしておくのが安全です。弁護士と相談すれば、相続税や遺留分への配慮や執行者指定も含めた遺言設計が可能です。

内容をどうしても秘密にしておきたい方

 → 秘密証書遺言が選択肢になりますが、内容の法的不備や遺言自体が発見されないというリスクに備え、併用対策も検討しましょう(例:保管場所の通知、信頼できる第三者への情報共有など)。

7. 遺言書作成に関する“よくある誤解や不安”

7-1. 「財産が少ないから遺言書はいらない」は本当?

これは非常に多く聞かれる誤解です。「財産が少ないから相続でもめないだろう」「相続税がかからないなら問題ない」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、実際には「金額の大小よりも“感情のこじれ”が原因で揉める」ケースの方が多いのです。
こうした場面では、遺言書があることで相続人全員での遺産分割協議なしに相続手続が粛々と進められますので、相続手続の遅延を防ぐ意味合いでも遺言書を準備しているほうがよいといえます。

7-2. 「一度作れば一生使える」というのは本当?

作成時からお亡くなりになるまでの間で、ご自身の状況や財産状況が一切変わらない場合は、一度作成してそれきりにしても理論上は問題ないのですが、おそらくそういった方は少ないのかなと思います。
遺言書は、法的に有効な形式で作成していれば、何度でも書き直すことができます。
むしろ、家族構成・財産状況・気持ちの変化などを考慮すると、5年に1回程度は内容を見直すことをおすすめします。
くわえて、具体的に以下のようなタイミングがあれば、その時点でも内容を再確認の上で状況に沿った遺言内容にアップデートするのが理想です。

  • 結婚・離婚・再婚など、家族関係に大きな変化があったとき
  • 子や孫が独立・結婚したとき
  • 不動産を売却・購入したとき
  • 会社経営や事業承継の計画に変更があったとき

なお、遺言の内容を更新したい場合は、前回と同じく法的要件を満たす新しい遺言書を作成するだけで、過去に作成したものは効力を失いますが、とはいえ古い遺言書がそのまま残っていると、「どちらが有効なのか」「複数あるがどれを使えばよいのか」と混乱を招く原因にもなります。
そのため、遺言書の書き換えを行う際はそれより前に作成した遺言内容は破棄する旨を記載の上で、古い遺言書はきちんと処分しておくほうがよいでしょう。

7-3. 「エンディングノート」と「遺言書」はどう違う?

最近では、自分の人生をまとめる「エンディングノート」を書く方も増えてきました。
ただし、エンディングノートと遺言書の間には、明確な法的な違いがあります。

項目 エンディングノート 遺言書
法的効力 なし あり(法的要件を満たしていることが前提)
書き方の自由度 高い(どのように書いてもOK) 法的形式に従う必要あり
財産の分け方指定 参考にはなるが、法的拘束力なし 指定どおりに相続が進む

エンディングノートは、葬儀や死後の手続の希望や家族への想いを伝えるツールとして非常に有効ですが、法的な拘束力はないため、仮にエンディングノートで財産の分け方を指定していたとしてもそれに強制力はありません。
ご自身の希望通りに財産を分けてほしいという場合は、エンディングノートだけでは足りないため、遺言書を残しておくことが必要不可欠です。

7-4. 「遺言書を書く=死を意識している」と思われたくない

ご相談に来られる方の中にも、「遺言書を作るなんて、縁起でもない」と感じる方もいらっしゃいます。
けれど、実際に遺言書を作成された方の多くが、「気持ちがすっきりした」「安心してこの先も過ごせるようになった」とおっしゃいます。
遺言書は、ご自身だけでなく、家族の安心も形にするための生前の準備ですので、健康なうちにこそ冷静な判断で作成をすることはとても意義のあることだといえます。

当事務所では、遺言書の作成を単なる「書面作成」では終わらせず、相続に特化した弁護士を中心に将来的な相続税の観点や遺留分を考慮しながら最適な財産の分け方を検討したうえで遺言書の内容をご提案しております。
「どの方式が自分に合っているか分からない」「内容がまとまらない」そんなときは、どうか一人で抱え込まず、当事務所へご相談ください。
経験豊富な弁護士が、ご家族にとって一番よい形を一緒に考え、サポートさせていただきます。

 

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