「遺言書を作るなら、公正証書が安全と聞いたけど、実際どう進めるの?」「公証役場に行く必要があるの?」――このようなお悩みをお持ちの方は少なくありません。
この記事では、公証役場で遺言書を作成する流れや事前に準備すべきこと、作成時に注意すべきポイントを、弁護士の視点から丁寧に解説します。
相続での不安や将来への備えをお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
もくじ
1. 公正証書遺言とは?基本的な特徴と他の方式との主な違い
公正証書遺言とは、公証人が遺言者の口述内容をもとに作成し、公証役場で正本・謄本として保管される形式の遺言書です。
日本公証人連合会の統計によると、公正証書遺言の作成件数は毎年12万件前後で推移しており、遺言書の中でも形式不備による無効のリスクを限りなくゼロに近づけることができる方式とされています。
公正証書遺言と他の方式との主な違いを整理すると、以下のとおりです。
比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
---|---|---|---|
作成のしやすさ | 自力で手軽に作成可能 | 公証人との手続が必要 | 書面と封印を要する |
法的安全性 | 形式不備のリスクが高い | 公証人の関与で非常に高い | 内容が不明確でも気づかれにくい |
保管の信頼性 | 紛失・改ざんリスクあり | 公証役場に原本保管 | 自分で保管/紛失の恐れあり |
検認手続 | 必要(保管制度除く) | 不要 | 必要 |
2. 公正証書遺言のメリット|公証役場で作ることの強み
2-1. 無効リスクが極めて低く、法的信頼性が高い
最大のメリットは、「形式不備による無効リスクがほぼ無い」という点です。
自筆証書遺言ではありがちな「日付・署名の書き漏れ」「押印漏れ」「誰に何を残すか不明確」といった形式の不備についても、公証人が遺言書作成の法的要件に照らして内容を確認・修正してくれるため、法的要件をしっかりと満たす形での遺言書が作成でき、相続発生後のトラブル回避につながります。
2-2. 遺言書の原本が公証役場に保管される安心感
作成された遺言書の原本は、公証役場が半永久的に保管します。
遺言者本人や相続人には正本・謄本が交付されますが、万が一それを紛失しても、公証役場で再発行が可能です。
自筆証書遺言のように、「作成した遺言書を紛失してしまった」「相続人が勝手に開けてしまった/廃棄してしまった」といった事態が起きにくく、確実に見つけてもらえる・執行されるという意味でも非常に安心できる仕組みです。
2-3. 検認手続が不要で、相続開始後すぐに使える
公正証書遺言は、家庭裁判所での検認手続が不要です。
相続発生後、すぐに遺言の内容に従って手続きが進められるため、相続人にとっても精神的・時間的な負担が少なくて済みます。
遺言執行者を就けておくことで、遺言に基づく相続手続を遺言執行者の実印のみで進めることができるため、さらに手続がスムーズに進みます。
2-4. 全文の手書き不要/出張対応も可能で作成負担軽減
自筆証書遺言と違って遺言者が全文を手書きせずによいため、本人が高齢や病気、身体的な障がいなどにより文字を書くことの負担が大きい場合でも適切に遺言を残すことができます。また、何らかの事情で公証役場に出向けない場合でも、公証人の出張による作成が可能ですので、病院や介護施設、自宅などでも公正証書の形で作成できます。(出張の場合は、別途公証人の出張費用がかかります。)
3. 公正証書遺言の作成手順をステップ別に解説
3-1. ステップ①:事前相談と意向の整理
まずは、自分が遺言で何を実現したいのか、以下のような観点から考えを整理します。
- どの財産を、誰に、どのように引き継ぐか
- 法定相続分と異なる内容にしたいかどうか
- 遺留分の侵害を避けたいか
- 法定相続人以外の人(孫、内縁の配偶者、第三者(知人・外部団体)など)に残したいものがあるか
- 遺言執行者を誰にするか
可能であれば、相続に詳しい弁護士や専門家と一緒に上記を決めていくことが望ましいです。
3-2. ステップ②:必要書類の収集と文案の作成
次に、相続人(受遺者)と相続財産の内容が分かる書類を準備します。
主な必要書類(例)
- 遺言者の戸籍謄本・印鑑証明書
- 相続人・受遺者の戸籍謄本・住民票
- 不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書
- 預金口座や証券残高の情報
- 財産目録(任意だが、作成しておくと公証人との打ち合わせの際に効率的です。)
弁護士に依頼をする場合は、上記の財産内容と遺言内容に基づいて遺言文の文案までこの段階で作成をしてもらいます。
3-3. ステップ③:公証人との打合せ・証人手配
遺言の意向と相続人・相続財産が分かる書類がそろったら、公証役場に作成依頼を行います。公証人との面談や打ち合わせで、遺言の内容を法的に問題がないかどうか確認し、細部を調整しながら遺言書の文案を詰めていきます。(弁護士に依頼をしている場合は、作成済みの文案を提出したうえで調整を進めていきます。)
また、この段階で、公正証書作成時の証人2名の手配も必要になります。証人はご自身で自由に選定できますが、以下のような制限があるため、ここに該当しない人物に証人になってもらってください。
- 未成年者、成年被後見人は不可
- 相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族は不可
- 公証人の事務所職員なども証人になれない
証人が見つからない場合には、弁護士事務所や公証役場で有料で手配してもらうこともできますので、その際は相談をされてみてください。
3-4. ステップ④:公証役場での作成・署名・押印
打合せ内容をもとに、いよいよ公証役場で遺言書を正式に作成します。
遺言書作成当日は、
- 本人が口頭で遺言内容を公証人に伝えて
- 公証人が伝えられた内容を記録・その内容を遺言者と証人に読み上げて内容の同意を得る
- 最後に署名・押印を行い、正本・謄本が交付されます
なお、身体的な事情などで遺言者が署名することができない場合は、公証人の判断を経たうえで代筆や指印などでの対応も可能です。
3-5. ステップ⑤:作成後の謄本保管と通知方法
作成された遺言書の原本は公証役場で保管されます。遺言者には「正本」や「謄本」が交付されますが、これはご本人や相続人が内容を確認するための写しです。
なお、相続手続を行う際は、正本での手続きとなります。
ご本人の判断力が低下した場合や相続発生後に備え、信頼できる相続人や遺言執行者に遺言書の存在と保管場所を伝えておくことが重要です。
4. 公正証書遺言の作成時に注意すべきポイント
4-1. 公証人に伝える内容の整理と誤解を防ぐ工夫
公正証書遺言を作成するにあたっては、公証人に対して伝える遺言内容をあらかじめ明確に整理しておくことが非常に重要です。
たとえば、遺言者が「財産は兄弟で仲良く分けてください」といった抽象的な表現を希望されるケースもありますが、こうした表現は具体的に誰に、どの財産を、どのような割合で分けるかが明確でないため、遺言の主文としては法的効力を持たせることができません。
公正証書遺言では、民法に基づき、公証人が遺言者の意思を確認しながら内容を法的に整理します。そのため、あまりに曖昧な記載については、公証人が遺言者の確認を経て、法的に有効で実行可能な文言へと修正・具体化されるのが通常です。
ただし、遺言者の希望として「相続人が円満に協力し合って遺産を受け継いでほしい」といった心情的なメッセージを残すこと自体は可能であり、その場合は「附言事項」として、主文とは別に以下のように別途記載されることがあります。
「遺言者は、本遺言による財産分配の内容が、兄弟姉妹間の円満な協議のもとに進められることを強く希望する。」
このような附言事項は、法的な拘束力を持たない一方で、相続人が遺言の意図や気持ちをくみ取るための補助機能としての意味合いを持ちますので、遺言内容に関しては、主文に書くべき内容と、附言にとどめるべき内容を明確に分けて整理することが重要です。
必要であれば、弁護士に相談の上で事前に文案を調整しておくとよいでしょう。
4-2. 相続人間の公平性と遺留分への配慮
公正証書遺言を作成する際に重要な視点の一つが、相続人間の公平性への配慮と、遺留分を侵害しないようにすることです。
遺言は原則として遺言者の自由意思に基づいて財産を配分することができますが、民法上は、配偶者・子・直系尊属といった相続人に対して最低限の取り分を保障する「遺留分制度」が設けられています。
たとえば、ある子どもにだけ全財産を相続させるという内容の遺言を作成した場合でも、他の子どもから「遺留分を侵害された」として遺留分侵害額請求がなされれば、最終的にその財産配分は調整されることになります。
このようなトラブルを避けるためには、次のような対策が有効です:
- 遺留分の割合を正確に把握する(相続人の構成に応じて異なる)
- 配分の理由を遺言書に附言事項として丁寧に記載する
- 配分に差がある場合は、代償金や保険などで調整する設計を検討する
弁護士に相談の上で、遺留分リスクのシミュレーションを行ったうえで遺言内容を検討・作成するとよいでしょう。
また、以下のような附言文を添えることで、相続人の心理的な受け止め方が大きく変わることもあります。
「長男には事業の後継ぎとして日頃から会社の経営を任せていたため、他の相続人よりも多くの財産を相続させることにしました。」
こうした附言は法的拘束力を持つものではありませんが、他の相続人が遺言者の意思を理解し、遺留分請求に至らないように働きかける効果が期待できます。
4-3. 高齢期の作成では意思能力の証明が重要
高齢になってからの遺言書作成では、「本人の意思で作成したのか」「認知症の影響はないか」などが後から争点となることがあります。
公正証書遺言では、公証人が遺言者本人と面談を行い、口頭でのやり取りを通じて意思能力(理解力・判断力)を確認した上で作成することが義務付けられています。
そのため、自筆証書遺言などと比べて「無効主張をされにくい」ことは確かです。
しかしそれでも、以下のようなケースでは相続人から無効主張がなされることがあります:
- 高齢で寝たきり状態の中、家族が一方的に作成を主導したと疑われる
- 遺言内容が極端に偏っていて「誰かに誘導されたのでは」と疑念を持たれる
- 遺言作成直前に認知症の診断を受けていた記録がある
このような場合に備えて、作成前に医師の診断書を取得する、遺言作成時のやり取りなどをメモや録音で記録するなどで、遺言書作成時に判断能力があったことを証明するための資料を残しておくとよいでしょう。
公証人もこうした状況を慎重に判断しますが、意思確認が曖昧と判断された場合は遺言作成を断られることも実際にあります。
そのため、特に高齢である場合や、判断力の低下が心配される場合は、弁護士が事前に本人と丁寧に面談し、内容や経緯を記録に残しておくことで、後日の紛争リスクを大幅に低減できます。
5. 公正証書遺言のデメリットはあるのか?
5-1. 作成に費用がかかる
公正証書遺言には、以下のような費用がかかります(概算)。
- 公証人手数料:1万1,000円〜(財産額に応じて加算)
- 正本・謄本の作成費:数千円〜(通数による)
- 出張費(病院・施設等での作成):1万数千円〜
- 証人手配費用(専門家による場合):1万円〜2万円/人
出張や証人手配が無い場合は数万円程度、出張費用などが発生する場合は~10万円程度が一般的な目安です。
弁護士に作成を依頼する場合は、上記に加えて弁護士報酬が発生するため、追加で費用がかかってくることとなります。
5-2. 公証役場とのスケジュール調整の手間
公証人・証人・本人の三者の予定を合わせる必要があるため、日程調整に1〜2週間程度かかることが多いです。
体調に不安がある方や、急ぎの事情がある場合は、早めの段取りが必要です。
5-3. 遺言内容の修正をする場合は再度公正証書作成が必要となる
遺言の内容を変更したい場合は、新たに公正証書遺言を作成し直す必要があります。
その際も、証人や公証人の手続が再び必要になるため、「ちょっと直したいだけ」でも費用と時間がかかる点には注意が必要です。
6. 公正証書遺言でよくあるQ&A
Q. どんな内容まで書いていい?財産以外の記載は?
A. 遺言書は法定相続分にとらわれず、遺言者の希望に沿った財産配分が可能ですので、法定相続分とは異なる財産配分や、相続人以外への遺贈など、財産に関する内容を自由に記載できます。(遺留分への配慮は別途検討が必要にはなります。)
また、法的効力はないものの、家族への感謝や希望、葬儀の希望などを「附言事項」として記載することも可能です。
この附言は相続人への心理的影響が大きく、遺言内容への理解や受け入れを促す意味でも有効な手段となります。
Q. 証人を立てられない場合はどうする?
A. ご自身での証人の確保が難しい場合、公証役場や弁護士事務所などに中立的な証人の手配を依頼することができます(証人手配には別途報酬がかかります)。
証人は公正証書作成に立ち合うこととなるため、遺言内容を知ることにはなりますが、守秘義務があるため、内容が外部に漏れる心配はありません。
当事務所でも、証人の手配・立会いを含めたフルサポートを行っておりますので、ご相談ください。
Q. 公証役場に行けない人はどうすれば?
A. 体調や移動の問題で公証役場に出向けない方は、病院・施設・自宅などへの「出張作成」で対応してもらえます。
公証人による出張には事前の予約・追加費用が必要ですが、寝たきりの方や認知症初期の方でも、遺言書を作成するうえで必要となる判断能力・意思確認ができれば作成可能です。
Q. 公証人に伝えたくないことは省いてもいい?
A. 遺言書を作成する際に、「すべての財産を公証人に伝えるのはちょっと抵抗がある…」という方もいらっしゃいます。
このような場合、一部の財産だけを記載して遺言書を作成することは、法的には問題ありませんが、次のようなリスクがありますので、遺言書の文言を作成する際は慎重な判断が必要です。
遺言書に記載する財産を省くことによる主なリスク
未記載の財産については、法定相続人間で再度協議する必要がある
結果として、相続人間の話し合いが難航すると遺言書を残したメリットが薄れてしまう。
一部の財産だけ記載する意図が他の相続人に伝わらず、結果的に紛争になるリスクがある
「なぜこの財産だけ記載されたのか」と、不信感や不公平感につながり、紛争化する原因になりかねない。
財産を網羅的に記載しないことで財産の特定や執行上の問題につながることもあるため、事前に弁護士と相談の上、記載の可否や範囲を検討することをおすすめします。
7. 当事務所のサポート体制|公正証書遺言を確実に作るために
7-1. 文案作成から公証人との事前調整・作成まですべてサポート
当事務所では、遺言者の希望を丁寧にヒアリングした上で、法的に有効かつ実行可能な遺言文案を弁護士が直接作成いたします。
遺留分や相続税の観点からのリスク分析も行いながら文案作成を行うため、可能な限りのリスク回避を実現します。
加えて、公証人との打ち合わせ、証人の手配、必要書類の準備もすべてお任せいただけますので、依頼者は当日ご本人確認と意思確認をするだけで、安心して作成に臨める体制を整えています。
7-2. 相続発生後の執行サポート・死後事務委任も含めたご提案
当事務所では、遺言書作成だけでなく、遺言執行者としての就任・遺言執行も含めてすべてご対応可能です。
その他、葬儀・行政手続・遺品整理などを代行する「死後事務委任契約」など相続人の手間や混乱を最小限に抑える包括的なサポートを行っております。
公正証書遺言は、法的安定性が高く、安心して遺言書を作成したいという方にとっては最良の選択肢といえます。
「自分だけで公証人とやり取りできるのか」「手続きが面倒そう」と不安に思われる方も多いですが、専門家のサポートを受けることでスムーズかつ確実に作成できますので、どうぞお気軽にご相談ください。
Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)
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