「そろそろ遺言書を作っておきたい」「自分で作れるの?それとも弁護士に頼むべき?」──こうした悩みをお持ちの方は少なくありません。
遺言書は、ご自身で作成することも、専門家に依頼して作成することも可能ですが、内容が不完全だった場合は、相続発生時に無効になってしまうこともあり、慎重な対応が求められます。
本記事では、「ご自身で作成する場合」と「弁護士に依頼する場合」の流れをそれぞれお伝えしますので、どちらが自分に合っているかを判断する参考にされてみてください。
もくじ
1. 遺言書の役割と作成が必要になる場面とは
1-1. 遺言書の基本的な目的と法的効力
遺言書とは、ご自身が亡くなった後に残された財産を「誰に」「どのように」引き継ぐかを指定する法的文書です。法的要件を満たした遺言書は、民法の規定により相続人間の合意に優先して効力を発揮します。
1-2. 遺言書がないと起こりうるトラブルとは
遺言書がないと、法定相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺言書がない場合、相続財産の分け方を決めるために「遺産分割協議」が必要になります。協議は法定相続人全員の合意が前提となるため、誰か一人でも欠けていたり、合意できなかったりすると、協議自体が成立しません。
また、相続人の中に認知症などで判断能力が十分でない方がいる場合、そのままでは協議に参加できないため、家庭裁判所を通じて成年後見人を選任したうえで、後見人がその相続人を代理して遺産分割を進める必要があります。
そのため、
- 家族間で話がまとまらない
- 判断能力がない相続人がいる
- 音信不通の相続人がいる
といった事情があると、相続手続き全体が大きく遅れてしまうこともあります。
1-3. 遺言書の作成が勧められる代表的なケース
特に以下のようなケースでは遺言書を作成しておくことが推奨されます。
• 子どもがいないご夫婦
子がいない場合、相続人は配偶者と故人の親や兄弟姉妹となるため、夫婦の一方が亡くなると、遺された配偶者が他の親族と財産を共有することになり、住まいの名義変更などが難航するケースがあります。
• 事実婚・内縁関係の配偶者がいる方
法律婚でない場合、相手には法定相続権がありません。遺言書がなければ、どれだけ長く一緒に暮らしていても財産を相続することはできません。
• 相続人の一部に財産を渡したくない事情がある場合
法定相続では公平に分ける建前ですが、家族内の関係性によっては「この人には渡したくない」「別の人に多く残したい」という思いがあることも。遺言書があれば、その意志を反映できます。(ただし、遺留分の問題は別途検討が必要です。)
• 事業承継・不動産の単独相続を希望する場合
法人や不動産など分割しにくい財産を特定の相続人に承継させたいという希望がある場合は、遺言書で指定しておかなければ共有名義になってしまう原因になりかねません。
• 未成年の子どもがいる場合
親が亡くなった際に、子どもが未成年の場合は遺産分割協議を行う際に「特別代理人」の選任が必要になるため、遺産分割協議が非常に煩雑になります。遺言であらかじめ相続内容を指定しておけば、こうした煩雑な手続きを避けることができ、遺された家族の負担を大きく軽減できます。
これらに該当しない場合であっても、「自分にはまだ早い」「特に問題はないはず」と思っていた方が、実際に相続が発生した際にトラブルを経験するケースは珍しくありません。
相続は財産の大小に関係なく、関係する人が多ければ多いほど、思わぬ意見の食い違いが起こりやすいものです。
その意味で、遺言書は将来の家族トラブルを未然に防ぐための最善の備えであり、特別な事情がない方にとっても「書いておいて損はない」ものだといえるでしょう。
2. 遺言書の主な種類とその違い
2-1. 自筆証書遺言:ご自身でも比較的容易に作成可能な方式
全文を自書し、日付・署名・押印を行う方式です。費用がかからず作りやすい方式ですが、法的形式不備や保管上のリスクがあるため注意が必要です。
2-2. 公正証書遺言:公証役場で作る安全性の高い方式
公証人の立会いのもと、公証役場で作成する方式です。公証人が内容を確認しながら作成するため法的有効性が高いのが特徴で、すべてを自筆する必要がないこと、遺言執行時の検認も不要なため、全文を自筆することに負担が大きい高齢の方や財産が多い方に推奨される方式です。
2-3. 秘密証書遺言:内容を秘匿できるが実務では少数派
署名済みの遺言書を封印した状態で公証役場に提出する形式です。内容を知られずに公証人に遺言を承認してもらうことができますが、検認が必要かつ法的形式不備のリスクも残るため、実務上ではあまり使われていません。
2-4. どの遺言書方式を選ぶべきか?比較と判断ポイント
どのような方にどの方式が向いているかは、状況によって異なります。以下、代表的なケースごとにどの遺言書が向いているかを整理します。
あなたの状況 | おすすめの方式 |
---|---|
財産が少なく、相続人も明確 | 自筆証書遺言(+法務局保管) |
財産が高額/事業関連の財産がある | 公正証書遺言 |
家族構成が複雑/将来揉めそう | 公正証書遺言 |
遺言の内容を秘密にしたい | 秘密証書遺言(ただし慎重に) |
自筆に不安がある | 公正証書遺言(読み上げ対応あり) |
書類作成に自信がない | 弁護士に相談して公正証書で作成 |
その他特殊な事情がある | 弁護士と相談し最適方式を選択 |
どのケースであっても、「自分にとって何を優先したいか(手軽さ、安全性、コストなど)」を考慮して遺言方式を決めるのが重要です。
その中でも、相続人間での紛争予防や確実な実行性を重視するのであれば、やはり「公正証書遺言」が最も安心できる選択であるといえます。
3. ご自身で遺言書を作成する場合の流れ
3-1. ステップ①:財産の洗い出しと相続人の確認
不動産、預貯金、有価証券、保険などをリスト化し、誰に何を遺すかを決めるためのベースを作ります。相続人の確認も重要です。
3-2. ステップ②:内容の検討と文案の作成
・どの財産を誰に渡すか
・相続人以外に渡す(例:友人、外部団体など)場合の表現
・遺言執行者を指定するか
などを整理し、文面を考えていきます。
3-3. ステップ③:法的形式を満たして書く
自筆証書遺言の場合は、全文を手書きし、日付、署名、押印を忘れずに記載する必要があります。ワープロや代筆は無効になります。
公正証書で作成をする場合は、公証役場とのやり取りを行い、作成した文案を公証人に確認してもらったうえで遺言書の作成を進めます。
3-4. ステップ④:作成後の保管
自筆証書遺言については、2020年から法務局での保管制度が開始され、検認不要で安全に保管することができます。自宅保管の場合は紛失や改ざんリスクに注意が必要です。
公正証書遺言の場合は、原本は公証役場に保管されるため、正本・謄本をご自宅や貸金庫等で保管するのが一般的です。
4. 弁護士に依頼して遺言書を作成する場合の流れ
4-1. ステップ①:初回相談(家族構成・財産のヒアリング)
家族構成、財産の種類、想定される相続トラブル、遺留分への配慮などを整理します。
4-2. ステップ②:法的課題の整理と分割方針の検討
弁護士が法的観点からリスクを検討し、かつ将来的な相続税金額や二次相続の観点も踏まえて財産の分け方について適切な分割方針を提案します。
4-3. ステップ③:文案作成と調整
ご希望に基づいて弁護士が遺言書案を作成し、必要に応じて文言調整や付言事項(法的効力を持たない遺言者の気持ちを伝える追記部分)の追加を行います。
4-4. ステップ④:遺言書の作成公証人との連携・作成手続き
公正証書で作成する場合は、公証役場との日程調整や遺言書文案の最終調整も弁護士が代行します。また、証人についても弁護士にて対応することも可能です。自筆証書の場合は作成内容の確認と記載方法のサポートを行いますので、それをもとに自筆していただくことになります。
4-5. ステップ⑤:作成後の保管
自筆証書遺言の場合はご自身で保管するか法務局にて保管をする、公正証書遺言の場合は正本・謄本をご自身で保管することになります。
なお、遺言執行者を弁護士にした場合は、弁護士事務所側で遺言書を保管しておくことも多いです。
5. ご自身で作成する場合と弁護士に依頼する場合の比較表
5-1. 比較項目:費用・作成の手間・法的安全性・将来の安心感
遺言書を自分で作るか弁護士に依頼するかを検討する際に、考慮すべき主要なポイントを以下の表にまとめました。
比較項目 | ご自身で作成する場合 | 弁護士に依頼する場合 |
---|---|---|
費用 | なし | 10〜30万円程度(内容・形式により異なる) |
作成の手間 | すべて自力で調査・検討・記述が必要 | ヒアリングから文案作成・修正まで全てサポート |
法的安全性 | 不備があると無効のリスクが高い | 法的要件を満たした遺言書を確実に作成できる |
紛争予防効果 | 記載の曖昧さでかえってトラブルを招くことも | 弁護士の法的視点でトラブルの芽を事前に排除 |
5-2. どちらが向いているかを見極めるチェックポイント
ご自身に合った方法を選ぶためには、次のような視点で検討するとよいでしょう。
ご自身で作成するのが向いている方
- 財産の種類や相続人が非常にシンプル
- すでに相続人間の関係性が良好で、紛争の可能性が低い
- 相続人の関係が複雑、または揉める可能性がある
- 財産に会社・海外資産などが含まれている
- 事業承継、遺留分対策など法的論点が絡む
- 将来の相続をスムーズに行いたい、執行者まで含めた対策をしたい
- 「子供に相続させる」と記載されているが、子が複数いて誰か判別できない
- 「知人の山田さんに寄付する」など、関係性や身元が特定できない
- 「長男に不動産を相続させる」とだけ記載されているが、不動産が複数存在している(どの物件か特定されていない)
- 「○○銀行の預金は妻に相続させる」と記載されているが、○○銀行に複数の口座がある
- 「次男には他の兄弟と同等の財産を与える」と書かれているが、「同等」という表現が抽象的で何を意味するか判断できない など
弁護士に依頼するのが向いている方
ご自身のみでの作成に不安がある場合は、紛争可能性が低い場合でも弁護士に相談の上で法的安全性を重視して作成されることをご検討されてみてもよいでしょう。
6. ご自身で遺言書を作成する場合の注意点
特に自筆証書遺言は手軽に作成できる一方で、形式面・内容面の不備によって無効と判断されるリスクもあるため、十分な注意が必要です。以下では、実際によくある失敗とそのリスクを整理します。
■ 法的要件の不備による無効
• 日付がない、署名がない、押印がない
• 全文が自筆されていない(※財産の目録については自筆でなくてもよいが、その場合は必ず目録の全頁に署名と押印が必要。)
これは民法で定められた形式的要件を欠くものであり、その場合は遺言全体が無効になります。
■ 財産の記載漏れ
すべての財産を網羅していない場合、その遺言書が無効になるわけではありませんが、遺言に記載されていない財産は法定相続分に従って分割されることになります。
つまり、せっかく遺言書を作っても「一部しか効力がない」という状況になってしまうため、記載が漏れていた財産については法定相続人全員での遺産分割協議が必要になってしまいます。
■ 受遺者の名前や関係性の記載ミス
氏名の漢字違いや誤字があっても、他の情報(生年月日、関係性など)から誰を指しているかが明確であれば有効とされるケースも多いです。
しかし、以下のような特定不能な記載になっている場合は、その受遺部分が無効とされる可能性が高くなります。
■ 遺言書の文言が曖昧で特定ができない
以下のように、遺言書の文言が不明確で、誰がどの財産を相続するのか判断できない状態だと一部無効のリスクがあります。
こうした場合、遺言執行者や相続人間で解釈が一致すれば問題ありませんが、争いが生じた場合には遺言の該当部分が「内容不明確」等として無効と判断される可能性があります。
ご自身で遺言書を作成する場合は、こうしたミスを避けるために、できるだけ具体的で明確な表現を使うことが重要です。また、不安がある場合には、作成前に専門家(弁護士等)に一度確認してもらうことで、形式不備や後のトラブルを未然に防ぐことができます。
7. まとめ:遺言書作成の流れを理解して、自分に合った方法を選びましょう
遺言書は、「今すぐ必要なもの」ではないかもしれませんが、「いざというときが来てからでは間に合わないもの」でもあります。
気になった今が作成のタイミングです。相続トラブルを未然に防ぐためにも、元気なうちに備えておくことが何よりも大切です。
遺言書は自分で作ることも可能ですが、「思っていたより難しい」「本当にこれで合っているか不安」という声も多く聞かれます。
一度プロに相談しておくことで、後々の大きな安心につながります。
当事務所では、相続案件に特化した弁護士を中心に、将来の相続税や家族関係の変化まで想定した長期的な視点での遺言書作成をご提案しています。初回相談から丁寧にサポートいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。