相続登記を行う際、「税金がどれくらいかかるのか」「そもそも登記すると課税されるのか」といった不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、相続登記と税金の関係を分かりやすく整理し、実務上のポイントを弁護士がわかりやすく解説します。
1. 不動産を相続するときに関連する税金は主に3種類
不動産を相続するときに登場する主な税金は以下の3つです。
| 税金の種類 | 発生タイミング | 主な対象 | 納税義務者 |
|---|---|---|---|
| 登録免許税 | 相続登記時 | 所有権移転登記 | 相続人(登記申請者) |
| 相続税 | 相続発生時 | 全相続財産 | 各相続人 |
| 固定資産税 | 毎年1月1日時点 | 不動産保有者 | 所有者(登記名義人) |
このうち、相続登記で必ず必要になるのは登録免許税になります。
以下、次の章以降でそれぞれを詳しく説明します。
2. 相続登記で必ずかかる「登録免許税」とは
相続登記を行う際、原則として必ず納めなければならないのが登録免許税です。
これは、不動産の名義変更を登記する際に法務局へ支払う国税であり、登記申請における最も基本的な税金といえます。
この章では、登録免許税の意味、計算方法、必要書類、納付の実務について詳しく解説します。
2-1. 登録免許税とは?相続登記に不可欠な税金
登録免許税は、登記や供託などに関して法律行為を行うときに課税される税金です。
相続登記では、被相続人(亡くなった方)から相続人への不動産の所有権移転登記をする際に課税されることになります。
この税金は、登記申請書に貼付する収入印紙の形で納付するのが一般的です。
2-2. 登録免許税の計算式:不動産評価額 × 0.4%
登録免許税は、相続の場合、次の計算式で求められます。
この「固定資産税評価額」は、不動産の所在地の市区町村で発行される固定資産税評価証明書に記載されている価格を用います。
たとえば
評価額が2,000万円の土地を相続する場合
なお、不動産が複数ある場合には、それぞれの不動産について固定資産税評価額を確認し、その合計額に0.4%を乗じて登録免許税を計算します。
2-3. 固定資産税評価証明書の取得と記載内容の読み方
登録免許税を正確に計算するためには、対象となる不動産の「固定資産税評価証明書」が必要です。
これは、不動産所在地の市町村役場で取得可能で、年度ごとの評価額(課税標準額)が記載されています。
注意すべき点は以下のとおりです。
- 建物と土地はそれぞれ別の評価額が記載されているため、合算が必要
- 評価証明書は登記申請時の年度のものを使用(通常は4月1日以降発行の最新年度版)
- 非課税の不動産(私道など)は評価額が記載されていない場合がある
なお、固定資産評価額が記載されていない不動産の場合も登録免許税は免除されるわけではなく、市町村の内部台帳や近隣地の評価を参考に、別途評価額を算定して課税されることが一般的です。
実務では、評価額の算出に時間を要することがあるため、早めに市区町村や司法書士に確認を依頼することが望ましいでしょう。
2-4. 登録免許税の納付時の注意点
登録免許税の納税時に注意しておきたい点としては、以下のようなものがあります。
- 評価証明書の金額ではなく、市場価格を使って計算してしまう
- 申請時の添付書類に誤った不動産の評価額を記載する
- 建物のみ、または土地のみの税額しか反映していない
登録免許税は登記申請とセットで提出されるため、不備があると法務局で補正指示や却下となる可能性もあります。
司法書士に依頼する場合には、これらの金額算定や納税処理も含めて対応してもらえるため、特に不動産が複数ある場合などは専門家に確認してもらうのが安心です。
3. その他の税金:不動産取得税・固定資産税・譲渡所得税
相続登記を進める中で、「他にも税金がかかるのでは?」という不安を持たれる方も多くいらっしゃいます。
実際、相続時に注意すべき税金には、登録免許税の他にもいくつかあります。
この章では、それぞれの税金の性質を整理して解説します。
3-1. 相続では不動産取得税は非課税:贈与や売買との違い
不動産を取得するときに発生する税金として有名なのが「不動産取得税」です。
これは不動産を買ったり、もらったりしたときに都道府県に納める地方税です。
しかし、相続によって取得した場合は非課税とされていますので、納付の必要はありません。
3-2. 固定資産税は「1月1日時点の所有者」に課税される
固定資産税は、毎年1月1日時点で登記簿上の名義人に対して課される市町村税です。
相続登記をしたかどうかにかかわらず、年初時点で名義人が誰であったかによって課税対象が決まります。
たとえば
1月1日時点で被相続人の名義
被相続人に対して課税(実務上は相続人代表が納税)
登記が2月以降に完了
翌年の課税から新名義人へ
固定資産税は登記後すぐに課税先が切り替わるわけではなく、タイミングによっては亡くなった年の固定資産税1年分を相続人が負担することになる点に注意が必要です。
なお、固定資産税の納税通知書については、市町村によっては「代表相続人届」や「納税管理人届出書」の提出により、通知書の送付先を特定の相続人宛に切り替えることができます。
3-3. 相続後すぐに売却する場合、譲渡所得税がかかるケースも
相続した不動産をすぐに売却する場合は、「譲渡所得税」に注意が必要です。
これは、相続人が取得した不動産を売却して利益(=譲渡益)が出た場合に課される税金です。
譲渡所得税は、次の計算式で求められる譲渡所得に対する所得税+住民税のことを指します。
なお、相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却した場合には、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。
①売却価格(=実際の売却代金)
不動産を売却した際に買主から受け取った金額です。
仲介手数料や印紙代などは含めず、「純粋な売却金額」で見ます。
②取得費(=もともといくらで買ったか)
これは、被相続人がその不動産を購入したときの金額(取得価額)を引き継ぐことになります。
相続人自身の購入額ではない点が重要です。
含まれる主な費用
- 不動産の購入代金(被相続人が買った当時のもの)
- 建物の取得時の消費税(課税業者から購入した場合)
- 建物の増改築・リフォーム費用(一定の要件あり)
- 登記費用・仲介手数料・不動産取得税などの付随費用(過去分)
なお、取得費が分からない場合は、「概算取得費(売却価格の5%)」を使わざるを得なくなり、課税額が大幅に増えることもあるため注意が必要です。
③譲渡費用(=売却にかかった経費)
売却時に実際に支払った費用で、譲渡益から控除できます。
- 仲介手数料(不動産会社に支払ったもの)
- 売買契約書の印紙税
- 売却のための建物解体費・測量費(特定条件下で)
なお、該当の不動産の取得時期が5年超保有に該当すれば「長期譲渡所得」として軽減税率が適用されます。
相続直後の売却でも、保有期間は被相続人の取得時点からカウントされるため、亡くなった方が5年以上保有していれば長期譲渡所得となります。
4. 相続登記に関連する税金についてのよくある質問(FAQ)
Q. 相続登記をしなかった場合、相続税はどうなりますか?
A. 相続登記をしていなくても、相続税の申告義務があるケースでは、税務署に対して相続税の申告・納税は必要です。
登記の有無に関係なく、相続財産を取得した事実があれば課税対象になります。
また、相続登記を長期間放置すると、不動産の管理や売却が困難になるだけでなく、2024年4月の相続登記義務化以降は「過料(10万円以下)」の対象になる可能性もあります。必ず相続登記は実施するようにしましょう。
Q. 登記にかかる登録免許税は、誰が負担すべきですか?
A. 登録免許税の納税義務者は、登記によって不動産を取得する相続人(登記名義人)です。
ただし、相続人間の話し合いにより、相続財産の取得割合に応じて按分するようなケースもあります。
費用負担の考え方は、遺産分割協議書などで明確にしておくとトラブルを避けられます。
Q. 相続税申告の際、登録免許税の支払いは経費として控除できますか?
A. 登録免許税は不動産取得のための費用であり、相続税の計算上は控除できません。
一方で、相続した不動産を将来売却した場合には、譲渡所得の計算において取得費の一部として加算される可能性があります。
ただし、実際の取り扱いは個別事案によって異なるため、税理士と相談の上で判断するのが安全です。
Q. 相続人が複数いて、全員で共有名義にした場合の税務上の注意点はありますか?
A. 不動産を複数の相続人が共有で相続する場合、登記上は「持分割合」で名義を分けます。
税務上も、各相続人が取得した持分に応じて相続税の課税価格が決まるほか、固定資産税の納税義務は共有者全員が連帯して負うことになりますので注意が必要です。
また、共有名義にしてしまうと、将来的な売却・賃貸・修繕などの際に全員の同意が必要になるため、税務負担だけでなく管理上のリスクにも注意すべきです。
当事務所(Nexill&Partnersグループ)では、司法書士法人・弁護士法人・税理士法人が一体となって相続案件の対応を行っているため、相続登記申請の手続だけでなく、遺産分割協議書作成・相続税申告・その他の相続手続までをワンストップでご対応が可能です。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)
福岡を中心に、全国からご相談をお受けしております。 弁護士だけでなく社労士・税理士・司法書士・行政書士と多士業が在籍。 遺産相続、企業支援(企業法務・労務・税務)に特化した総合法律事務所です。 博多駅徒歩7分。初回相談無料、お気軽にお問い合わせください。 当グループでは博多マルイ5Fの「相続LOUNGE福岡オフィス」を運営しております。こちらもぜひご活用ください。
