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コラム

【相続の生前対策】高額の株式を保有している場合の相続税対策|対策を始める金額の目安と生前対策のポイントを弁護士が解説

2026.02.27

証券口座の株が値上がりすると、嬉しい反面、将来の相続税が気になりませんか。相続税は、株だけで決まるものではありませんが、上場株式は評価方法が比較的明確なため、早い段階で概算シミュレーションを作りやすい資産でもあります。今回は、株の相続税の目安の考え方と、生前に着手しやすい対策の全体像を整理します。

第1章 株がいくらあれば相続税対策が必要?判断基準となる金額の目安

多くの投資家にとって、最初の疑問は「自分の保有資産額で対策が必要なのか」という点でしょう。相続税はすべての人に課されるわけではなく、一定のボーダーラインが存在します。

1-1 基礎控除額から逆算する「相続税がかかるライン」の確認

相続税には「基礎控除」という非課税枠が設けられています。正味の遺産額がこの基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
基礎控除額の計算式は以下の通りです。

相続税の基礎控除額の計算式

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人であれば、基礎控除額は4,800万円となります。
この金額を超える資産がある場合、相続税の課税対象となる可能性が高まります。相続税の対象となるのは株式だけでなく、預貯金、不動産、生命保険、死亡退職金なども含まれます。

1-2 上場株式・投資信託の保有額が「3,000万円」を超えたら要注意

前述の通り、基礎控除の最低ラインは3,600万円(相続人1人の場合)です。そのため、証券口座の評価額だけで3,000万円を超えている場合は、自宅不動産や預貯金などの他の資産を合算すると、基礎控除を上回る可能性が高まります。
特に注意すべきなのは、株価の上昇です。長年保有している株式は、取得時の感覚のまま認識していることが少なくありません。ご自身が「まだ大丈夫だろう」と考えていても、実際には相続税の対象額に達していることもあります。
証券口座の評価額が3,000万円を超えた段階で、他の資産と合算した概算試算を行い、税額の見通しを確認しておくことが重要といえます。

1-3 不動産や預貯金との合算で変わる税率のシミュレーション

相続税は「累進課税」であり、遺産額が多ければ多いほど税率が上がります。10%から最大55%までの幅があり、高額資産家ほど合算のインパクトを軽視できません。
例えば、5,000万円相当の不動産を持つ方が、さらに5,000万円の株式を保有していた場合、合計1億円の資産となります。相続人が子2人であれば、相続税の総額は約770万円(税額控除前)に達します。さらに、株式が5,000万円から1億円に値上がりすれば、総資産は1億5,000万円となり、連動して税額も約1,840万円まで跳ね上がります。
これは、他の控除や特例を考慮しない単純化した試算例ではありますが、株式と他の財産を合算し、課税遺産の総額が増加すると税率も上がるため、相続税の負担が想定以上に増えることがあります。

第2章 上場株式の相続税評価額はどう決まる?知っておきたい4つの基準

2-1 亡くなった日の終値だけで決まるわけではない評価ルール

原則として、相続税評価額は「被相続人が死亡した日の最終価格(終値)」を用います。しかし、株式市場は日々の変動が激しいため、たまたま亡くなった日に株価が高騰していた場合、過大な税負担を強いることになりかねません。
そこで、死亡日の終値が一時的に高騰している場合には、次の価格と比較することが認められています。

上場株式の相続税評価における4つの時価基準
① 【原則】亡くなった日の終値
② 亡くなった月の終値の平均額
③ 亡くなった前月の終値の平均額
④ 亡くなった前々月の終値の平均額

このように亡くなった月を含めた過去3ヶ月間の平均値を比較検討することも可能です。これにより、例えば、亡くなった直前に株価が急騰しても、その前月や前々月の相場が落ち着いていれば、「前月の終値の平均額」や「前々月の終値の平均額」を選択することで納税額を適正に抑えることができます。

2-2 投資信託(ETF・一般投信)の評価方法の違い

証券口座で運用されている方の中には、個別の株式だけでなく投資信託を保有されている方も多いでしょう。投資信託は大きく分けて「上場投資信託(ETF)」と「一般投資信託」がありますが、相続においてはそれぞれで評価方法が異なります。

ETF(上場投資信託)

2-1で解説した上場株式と同様に「4つの時価基準」を比較し、結果として最も低い価格で評価されます。したがってETFを保有する場合は、4つの時価基準の適用によって評価額を抑えられる可能性があります。

一般投資信託(非上場)

一般投資信託の評価は、原則として被相続人が亡くなった日(相続開始日)の基準価額で計算します。ただし、実際の評価額は、解約した場合に受け取ることができる金額を基準とするため、信託財産留保額や解約手数料、源泉徴収されるべき税額相当額などを差し引いた金額になります。

第3章 株価の変動リスクを考慮した株式の生前贈与|適切な実行タイミングの判断基準

相続の生前対策において、一般的かつ効果が高いとされる手法に生前贈与があります。しかし、価格が常に変動する株式においては、その実行タイミングが成否を分けることになります。

3-1 株価が下がった局面で贈与を行うメリットと評価額の考え方

株式の贈与税は、原則として「贈与を実行した日の時価」を基準に計算されます。そのため、将来的に値上がりが期待できる銘柄が一時的な調整局面(安値)にあるタイミングで贈与を行えば、同じ税額負担でも、より多くの株数を移転させることができます。
移転した後の値上がり分については将来の相続税の課税対象から外れるため、結果として大きな節税効果を生む、という考え方です。

3-2 暦年贈与と相続時精算課税制度|株式贈与に適した選択

株式を贈与する際には、主に「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のいずれを選ぶかが重要な判断になります。

暦年贈与(年間110万円の非課税枠)

毎年110万円までの贈与であれば贈与税がかからない制度です。株式を少しずつ移転することで、将来の相続財産を圧縮していく方法です。ただし、相続開始前の一定期間内に行った贈与は相続税の計算に加算されるため、直前対策としてまとめて行うことは適していません。

相続時精算課税制度

生前にまとまった株式を移転し、相続時にその贈与財産を加算して相続税を計算する制度です。将来的に値上がりが見込まれる銘柄について、現在の評価額で移転できる点が特徴です。

3-3 贈与後に株価が変動した場合の税負担のリスク

生前贈与を検討する際に留意すべきは、贈与後に株価が下落してしまうケースです。
税額の計算は、あくまで「贈与した時点の価格」で確定します。そのため、贈与した後に大幅な下落が起きると、結果として評価が高い時の価格で贈与税を支払うことになり、生前贈与をせず相続まで持ち続けた方が、結果的に税負担が軽かった、となる可能性もあります。
このリスクを軽減するために、一度にすべての保有株を贈与するのではなく、数年に分けて時期を分散し、時間的なリスクヘッジを図りながら進めることが推奨されます。

第4章 株式を多く保有する方が直面しやすい遺産分割と納税資金の課題

株式を主軸とした資産構成の場合、税金負担の問題だけでなく、「どのように分けるか」「納税のための現金をどう確保するか」という実務上の困難に直面することも少なくありません。

4-1 相続発生後の株価急落による納税資金不足への備え

相続税における上場株式の評価は先述の通り、原則として「亡くなった日の終値」や「その月以前の一定期間の平均株価」など、亡くなった日までの価格を基準に決まります。
つまり、相続が発生した後に株価が下落しても、その下落分を相続税の評価額に反映させることはできません。
たとえば、相続発生時の評価額が1株1,000円だった株式が、その後の市場変動により納税時点では700円まで下落したとします。この場合、税務上の評価は1,000円を基準に計算されますが、実際に売却して得られる資金は700円分にとどまります。
その結果、株式を売却して納税資金を準備しようとしても、実際の売却額が税額に届かないという事態が生じ得るのです。
このような、税務上の評価ルールと、その後の市場動向による換金価値の乖離は、株式資産家が最も警戒すべき課題の一つといえます。

4-2 含み益がある株式を売却して納税に充てる際の所得税負担

あなたが亡くなった後に、相続人が納税資金を確保するために株式を売却する場合、税務上の二重の負担を考慮しなければなりません。
保有していた株式が購入時よりも値上がりしている場合、その値上がり益に対しては上場株式等の譲渡益として所得税・住民税(復興特別所得税を含め概ね約20%)が課税されます。
例えば、相続税を支払うために1,000万円分を売却しても、その株式が購入時よりも値上がりしていれば、売却益に対して所得税が差し引かれます。そのため、売却代金の全額をそのまま相続税の支払いに充てられるわけではありません。
相続税の支払いのために資産を切り崩すと、さらに所得税の負担も発生するという仕組みを前提に、相続人の手元に残る現金をシミュレーションしておくことが重要です。

第5章 その他、検討しておきたい株式相続の周辺対策

ここまで確認した通り、株式の相続には「評価額の変動」や「納税資金の確保」といった特有の課題があります。これらに対処し、円滑な承継を実現するための代表的な対策を3つ紹介します。

5-1 遺言書の作成:特定の銘柄を誰に引き継ぐか明確にする重要性

遺産の多くが株式である場合、相続人間で「誰がどの銘柄を取得するのか」を巡って意見が対立することがあります。株式は銘柄ごとに価格や将来性が異なるため、単純に「平等に分ける」ことが難しいからです。
こうした混乱を防ぐ有効な手段が遺言書の作成です。「A銘柄は長男に、B銘柄と現預金は二男に」というように承継先を指定しておけば、遺産分割協議の負担を軽減し、名義変更手続きも円滑に進みます。また、遺言書で「株式を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う」旨などを明記しておけば、承継の方向性が定まりやすくなります。

5-2 家族信託の活用:認知症による塩漬け(資産凍結)を防ぐ

株式の保有者の判断能力が低下すると、証券口座での売買や現金化ができなくなる資産凍結のリスクが生じます。たとえ株価が暴落していても、家族が本人に代わって自由に売却することは原則としてできません。
そこで活用が検討されるのが家族信託です。あらかじめ株式の管理・処分権限を信頼できる家族(受託者)に託しておけば、判断能力が低下した後でも、受託者が適切なタイミングで売却や納税資金の確保を行うことが可能になります。

5-3 生命保険の活用:株式を売却せずに相続税を支払う現金の確保法

株式を売却せずに相続税を納付したい場合や、特定の相続人に株式を集中させる代わりに他の相続人へ代償金を支払う必要が発生する場合に、有効な手段となるのが生命保険です。
死亡保険金は、相続発生後に比較的早期に現金で支払われるため、相続税の納付期限までに資金を確保しやすいという特徴があります。そのため、納税資金を準備するために株式を急いで売却する必要がなくなり、株価下落リスクや譲渡所得税の負担を回避できる可能性があります。
さらに、死亡保険金は「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。受取人が相続人の場合、この範囲内であれば相続税がかからないため、現預金をそのまま残す場合と比べて、税負担を抑えながら納税原資を準備できる点も大きなメリットです。
このように、生命保険は「株式を守りながら現金を確保する」という観点から、株式資産家にとって有効な相続対策の一つといえます。

第6章 相続対策で失敗を避けるための手順|現状把握から始める実務ステップ

株式の相続対策を成功させるためには、場当たり的な対処ではなく、現状を数字で把握することが起点となります。

6-1 不安を具体化する:相続税の概算シミュレーション

まずは現時点で相続が発生した場合、いくら相続税がかかるのかを概算で把握しましょう。
上場株式を保有している場合、第2章で触れた評価方法を用いて試算することで、想定される税額のおおよその範囲を把握できます。
納税額が見えると、

  • <現預金だけで足りるのか
  • 一部売却が必要か
  • 生命保険や信託の活用を検討すべきか

といった判断が具体化します。

6-2 税務と法務を切り分けずに設計する重要性

株式の相続では、

税務

税額をどう抑えるか

法務

誰にどの資産を承継させるか

の両面を同時に考える必要があります。
税額だけを最小化しても、分割方法によっては後に売却が必要になり、想定外の譲渡所得税が発生することがあります。逆に、分割を優先してまとめた結果、納税資金が不足するケースもあります。法務と税務の両方を同時に設計することが、結果的にもっとも合理的な対策につながるといえます。

6-3 相談前に準備しておきたい基本資料

生前対策について専門家に相談する場合、一定の資料を揃えておくことで初回の相談を、より有意義なものにすることができます。例えば、以下のような資料です。

  • 全証券口座の残高報告書や管理画面のプリントアウト
  • 保有不動産の固定資産税の納税通知書
  • 加入している生命保険の証券
  • 相続人との関係がわかるメモ(親族図)

これらがあれば、基礎控除の確認や概算税額の試算がしやすくなり、対策の方向性を具体的に示しやすくなります。

第7章 株式の相続税に不安があるなら、まずは概算試算から

株の相続税対策において、リスクとなるのは値上がりそのものではなく、「現状を把握できていないこと」による後手の対応です。
本記事で触れた通り、上場株式は評価ルールが決まっており、贈与や信託、遺言といった対策も確立されています。しかし、最適なタイミングは市場環境やご家族の状況によって刻一刻と変化します。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士等の各専門家が連携し、法務と税務の両面からお客様の大切な資産を守るための総合的なサポートを行っています。相続の生前対策で少しでも不安がある際には、どうぞお気軽にご相談ください。専門的な見地から最適なオーダーメイドの相続プランをご提案いたします。

 

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監修者:菰田 泰隆
代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

弁護士法人Nexill&Partners

代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

  • 2002年
    修猷館高等学校 卒業
  • 2007年
    九州大学法学部 卒業
  • 2010年
    早稲田大学大学院法務研究科 修了
  • 2012年
    弁護士登録
  • 2013年
    菰田法律事務所(現:弁護士法人Nexill&Partners) 開業
  • 2016年
    社労士登録・開業(現:社会保険労務士法人Nexill&Partners)
  • 2016年
    税理士登録・開業(現:税理士法人Nexill&Partners)

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